捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら

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「さすが、呑み込みが早いね。ただ、エミリアにとっては」

「どうぞお気になさらないで。私、もうあのお方のことはどうでも良いの」

 エミリアはきっぱりと言い放った。

 フィリップに意志薄弱な部分があったのは、否めない。

 しかし、彼の中にあった本質的な傲慢さや狡猾さに気付けなかった自分もまた、責められるべきだとエミリアは思うのだ。

「じゃあそれも含めて、離婚を勝ち取りましょう。ソーニャ王妃に認めて頂くためにも。貴方の好意を利用するようで、申し訳ないけれど」

「私は構わないよ。利用できるものは、何だって利用するといい」

 エドワードは、相変わらずエミリアを甘やかす。

「約束してくれるね」

 エドワードはエミリアの欲しがるものを与えてくれる。だから、こんな風に心が揺さぶられるのか。

 心地良くて、逃れたくなくなる。まるでゆっくりと沼に嵌って行くように。

 エドワードが一緒に来てくれるなら、とても心強い。

「あらゆる手段でヴォルティアはエミリアを懐柔しようと試みるだろう。だから私は正々堂々と、今度は彼らの目の前から貴女を連れ去るつもりだ――たとえ貴女が嫌がっても、ヴォルティアの民や、世界中の誰が反対しようと」

「ま、大袈裟な。私は心変わりいたしません。エドワード様から離れないと、お約束します」

 エミリアは笑ってみせた。本心だった。

 ただ今は、この胸に芽生えた気持ちが一時の熱病のようなものでないことを願うばかりだ。

「エミリア、君はわかっていない。自分がどれだけ魅力的なのか……」

 エドワードは苦笑した。そして不意に表情を消すと、エミリアを抱き寄せた。

 彼の肩口に顔を埋める格好になる。耳元に吐息がかかるくらい近くに顔を寄せて――低く囁く。

「私は、エミリアを愛しているよ」

 吐息混じりの告白は、甘い。胸焼けしそうな甘さだ。

「約束だ」

 想いの強さが込められたような抱擁だった。

 狂おしいまでの愛情に包まれて、エミリアは切なくなった。

 ――ここまで愛してくださる方に、私は愛をお返しできるかしら。

 少しの不安が、胸に過った。

 その夜、エミリアはエドワードと語り合った。

 といっても、主に話をするのはエドワードで、エミリアは聞き役に徹していただけだ。

 ヴォルティア国王への書簡の内容やリチャードに託す事項など打ち合わせた後に。

 話は自然と二人の将来に及び、お互いの両親について語り合った。

「私の母は、あの通り気の強い女性だ。父は、私とは似ても似つかない。ああ見えて優柔不断な人でね」

「エドワード様は、お父様によく似ていらっしゃるわ。お母様にも」

 エミリアは率直に感想を述べたが、エドワードは苦笑するばかりだ。

「それは褒め言葉として受け取っておこうか」

「お父様は優柔不断ではなく、お優しいだけですわ」

「ああ、わかっている。あの人は妻を愛しているし、情の深い人だ」

 エドワードは、どこか遠くを見るような目つきになった。それは父親に対する愛情と、それ以上の感情を感じさせた。

「お父様がお好きなのね」

 エミリアは悪戯っぽく笑った。どうやら図星だったようだ。ほんのり染まった頬から窺える。
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