捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら

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「あら……さすがね。お代わりはいかが」

 ソーニャも楽しげに笑った。

「ええ、頂きます」

 二人の会話の意図が読めないまま、エドワードたちも、それぞれカップを傾ける。

 言われてみれば、オニオンの風味だ。

 独特の香りが、鼻から抜ける。

「これは……初めて口にするお味ですわ」

 クロ―ディアが不思議そうに呟く。

「少し、塩気のある味がしますのね。爽やかでとても飲みやすいです」

 イヴリンが言うと、ロザリーも頷いた。

「お茶ばかりでなく、お菓子も召し上がってね」

 ソーニャはやたらとエミリアにばかり、菓子を勧める。

 母の熱っぽい視線に、違和感を感じなくもない。

 エドワードはエミリアと同様の、緑色のケーキを手に取った。一口、食む。――これは、なんだ? 

 よく知る甘みの中に、微かな苦みがある。

 不味くはないが、判然としない味わいに、感想が思い浮かばない。

「頂きますわ」

 するとその間に、エミリアがフォークで切り取ったケーキを口に運ぶ。

(何だ? あの表情は??)

 エドワードはソーニャの異変に気付き始めた。

 エミリアを見る時の、あの、異様な輝きは何だ??

「うふふっ、美味しい。これは……ピーマンを使ったケーキですか?」

 エミリアは頬に手を当てて目を細めた。

「すると赤いお色は人参、黄色は……」

「なるほど、お野菜ですのね。これは、かぼちゃだわ」

 黄色のケーキを齧ったのはクロ―ディアだった。

「お味は、いかがかしら?」

 ソーニャの口端が吊り上がる。

(――まただ。いったい何が)

 エドワードは嫌な予感を覚えた。ソーニャの言動は、何か含みがある。

「ええ、とても美味しいです。甘みを抑え、素材の味を生かしているのですね。ケーキの材料にできるなんて、驚きました」

「そうね、果物とは少し違う味よね。さ、どんどん召し上がって?」

 ソーニャはエミリアに菓子を勧め、自らも摘まんだ。

 摘みながら、エミリアの様子を盗み見ている。

 エミリアは知ってか知らずか、何食わぬ顔でフォークを口に運んだ。

「クロ―ディア、貴女はいかがですか?」

 ロザリーがトレイを傾けて、ピーマンのケーキを勧めた。

 しばし、平和に歓談が続く。

「エミリアさん、無理はなさらないで、正直に仰ってよろしいのよ?」

 唐突に、ソーニャが口火を切った。

「無理、とは?」

 エミリアは小首を傾げる。

(――何を言うつもりだ)

 エドワードは固唾を呑んで、ソーニャの動向を見守った。

「お口に合うかしら? という意味です」

 質問の奇妙さに、エドワードは腰を浮かせた。

 まさかとは思うが……エミリアの菓子にだけ、毒でも混入させているのではあるまいな。

 いや、毒など入れていたらすぐに分かるはず……。

 エドワードは直ぐに打ち消した。
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