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「私たちも、楽しみにしています」
クロ―ディアが代表して礼を言った。
「日時は執事を通して後日、伝えよう。では、私たちはこれで失礼しようと思いますが……母上、もうよろしいでしょう?」
エドワードはロザリーとイヴリンに会釈した。エミリアの手を取ってソーニャを振り返る。
「いいえ、まだよ」
「何故です? 先ほどエミリアに大変失礼な発言をなさっていたでしょう。退室したほうが気が休まるのでは?」
「貴方の機嫌を取り持って頂いたお礼をしていないわ。お茶の一杯も召し上がっていかれて」
ソーニャが目で合図を送ると、給仕がワゴンと共に入室した。
流石は現役の女王様だ。
自分の落度など、即座になかったことにして、こうして交渉に持ち込むのだから。
「いいでしょう? エミリアさん」
昨日まで〝エミリア”と呼んでいたのに、よくまあこんな風に態度を翻せるものだ。
エドワードは我が母親ながら恥ずかしくなる。
「もちろんです。王后陛下」
エミリアは、快く頷いた。
エミリアに促され、不承不承席に着く。
他の3人も、ぎこちなく着席した。
「イヴリンほどではないけれど、今日は私も趣向を凝らしたお茶やお菓子を用意したのよ。どうぞ召し上がって」
テーブルに置かれたカップに、褐色の液体が注がれる。
湯気と共に立ち昇った香ばしい薫りに、誰もが首をかしげる。
「この香りは、何茶です? 嗅いだことのない香りだ」
「皆様もよくご存じの食材を使ったお茶よ。東国のレシピを模させたの」
ソーニャは優雅な仕草でカップを傾けた。
ふぅっと呼気を吹きかけて、湯気を散らす。
「さ、エミリアさんも」
ソーニャは、エドワードを始め、来客総てに飲食を促した。
銀のトレイが順次並べられてゆく。
トレイにはスコーンを始めとした焼き菓子が並んでいるが、どうも普段の茶菓子と彩が違う。
赤、黄、緑……単にバターを含んだ小麦色の菓子の色ではない。
ソーニャは手ずから、それぞれの前に焼き菓子を取り分けた。エミリアの前には緑色のケーキが配される。
「どうぞ召し上がって? お口に会うと良いのだけど」
エミリアに固執する姿を訝しみながらも、促されるまま全員がカップを持ちあげる。
エミリアは微笑を浮かべたまま、ふと、上目でソーニャを見つめた。
「初めて晩餐にご招待いただいた夜、私を食堂へ一番早く着くよう指示を出されたのは、やはり、王后陛下だったのですね」
言葉の意味は、誰にも分からなかった。
妖艶さの混じるほど、魅惑的な微笑みだ。
桜色の唇をカップの縁にそっと当てると、エミリアは、こくり、こくりとお茶を呑み込んだ。
「ふふっ、これは、オニオンの皮を煮出したお茶ですか?」
エミリアは、笑いを堪えながらソーニャに問う。
クロ―ディアが代表して礼を言った。
「日時は執事を通して後日、伝えよう。では、私たちはこれで失礼しようと思いますが……母上、もうよろしいでしょう?」
エドワードはロザリーとイヴリンに会釈した。エミリアの手を取ってソーニャを振り返る。
「いいえ、まだよ」
「何故です? 先ほどエミリアに大変失礼な発言をなさっていたでしょう。退室したほうが気が休まるのでは?」
「貴方の機嫌を取り持って頂いたお礼をしていないわ。お茶の一杯も召し上がっていかれて」
ソーニャが目で合図を送ると、給仕がワゴンと共に入室した。
流石は現役の女王様だ。
自分の落度など、即座になかったことにして、こうして交渉に持ち込むのだから。
「いいでしょう? エミリアさん」
昨日まで〝エミリア”と呼んでいたのに、よくまあこんな風に態度を翻せるものだ。
エドワードは我が母親ながら恥ずかしくなる。
「もちろんです。王后陛下」
エミリアは、快く頷いた。
エミリアに促され、不承不承席に着く。
他の3人も、ぎこちなく着席した。
「イヴリンほどではないけれど、今日は私も趣向を凝らしたお茶やお菓子を用意したのよ。どうぞ召し上がって」
テーブルに置かれたカップに、褐色の液体が注がれる。
湯気と共に立ち昇った香ばしい薫りに、誰もが首をかしげる。
「この香りは、何茶です? 嗅いだことのない香りだ」
「皆様もよくご存じの食材を使ったお茶よ。東国のレシピを模させたの」
ソーニャは優雅な仕草でカップを傾けた。
ふぅっと呼気を吹きかけて、湯気を散らす。
「さ、エミリアさんも」
ソーニャは、エドワードを始め、来客総てに飲食を促した。
銀のトレイが順次並べられてゆく。
トレイにはスコーンを始めとした焼き菓子が並んでいるが、どうも普段の茶菓子と彩が違う。
赤、黄、緑……単にバターを含んだ小麦色の菓子の色ではない。
ソーニャは手ずから、それぞれの前に焼き菓子を取り分けた。エミリアの前には緑色のケーキが配される。
「どうぞ召し上がって? お口に会うと良いのだけど」
エミリアに固執する姿を訝しみながらも、促されるまま全員がカップを持ちあげる。
エミリアは微笑を浮かべたまま、ふと、上目でソーニャを見つめた。
「初めて晩餐にご招待いただいた夜、私を食堂へ一番早く着くよう指示を出されたのは、やはり、王后陛下だったのですね」
言葉の意味は、誰にも分からなかった。
妖艶さの混じるほど、魅惑的な微笑みだ。
桜色の唇をカップの縁にそっと当てると、エミリアは、こくり、こくりとお茶を呑み込んだ。
「ふふっ、これは、オニオンの皮を煮出したお茶ですか?」
エミリアは、笑いを堪えながらソーニャに問う。
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