上 下
60 / 115
演技

しおりを挟む
 今回はエミリアの居場所を作るためだから、足を運んだというのに。

(目当ての男の心情も配慮せず喧しくする女たちの、どこに躾が行き届いていると)

「はぁ」

 募った不快さが吐息に籠る。

 こんなバカげた席はいっそ、二度と設ける気が起きないようにぶち壊してしまおうか。

 破壊的衝動が込み上げ、エドワードはうんざりと息を吐いた。

 ぴりり、と身辺の空気が強張るのを感じ取り得たのは、ロザリーだけだった。

 ロザリーは初め主導を握ってエドワードの懐柔に打って出たが、次第にイヴリンとクロ―ディアの熱量に押されていた。

「あ……」

 エドワードと目が合うと、ロザリーは怯えた顔つきになる。

 イヴリンとクロ―ディアは変わらず、自身の主張を続けていた。

 だが、ロザリーが後退りを始めると、ようやく顔色を変える。






『不愉快だ。あなた方のような低俗な女たちとは二度と関わりたくない』






 偽らざる本心と共に、エミリアを連れて退出を決めたその時だった。

「まあ。皆さん素晴らしい特技をお持ちなのね。私、ダンスもお食事も大好き。エドワード様が独り占めするのは狡いわ」

 発言の直前に、ふんわりとした微笑が舞い込む。

「私も末席に加えて頂きたいわ。けれど、急に私が押し掛けてはご迷惑でしょうから……ねえ、エドワード様、パーティを主催してくださらない?」

 エミリアはエドワードの不機嫌を敏感に察し、緊張を解きほぐすように提案した。

「え……?」

 ロザリーは驚きに目を見開いている。イヴリンとクロ―ディアも同様だ。

 エドワードも驚いたが、意図を察して納得がいった。

 エドワードに対する明確なアプローチだ。見事な機転と言える。

「エミリアは不快ではないの? 貴女と関係のない部分を指摘されたりして」

「それは、エドワード様がそれだけ魅力的だからですわ。誰だって、ご自分お一人のものにしたいと願わずにいられないでしょう。けれど、エドワード様は普通の殿方とは違いますもの。私にだって、それくらいの分別はございます」

 エミリアは女性の甘え、拗ね、健気さの全てを表現した。

 エドワードは、思わずエミリアに触れたくなる。

 やはり、エミリアは突出している。

 エドワードを理解している上、信頼を寄せてくれていると感じられる。

「それに、エドワード様の大切な方とは、私も仲良くなりたいのです。お仲間に加えて頂けませんか」

「そういうことなら……。では、私から主催を申し出よう。そうすれば、皆公平になるな」

 エドワードは快諾した。いずれの令嬢も粗末に扱えば、王家への心象を悪くする。

 大切な方とはそう言う意味だ。

「ありがとうございます。皆さんの手料理やお菓子、楽しみですわ。私も何か、おもてなしを考えますね」

 エミリアが、花が綻ぶように微笑むと、周囲のご令嬢たちは、目を泳がせた。

 エミリアの素晴らしさは、仕草や口調の何処にも嫌味を含まないところだ。

 3人は、しばらくして観念したように頷く。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~

めもぐあい
恋愛
 イスティリア王国では忌み嫌われる黒髪黒目を持ったクローディアは、ハイド伯爵領の領主だった父が亡くなってから叔父一家に虐げられ生きてきた。  成人間近のある日、突然叔父夫妻が逮捕されたことで、なんとかハイド伯爵となったクローディア。  だが、今度は家令が横領していたことを知る。証拠を押さえ追及すると、逆上した家令はクローディアに襲いかかった。  そこに、天使の様な美しい男が現れ、クローディアは助けられる。   ユージーンと名乗った男は、そのまま伯爵家で雇ってほしいと願い出るが――

有能なメイドは安らかに死にたい

鳥柄ささみ
恋愛
リーシェ16歳。 運がいいのか悪いのか、波瀾万丈な人生ではあるものの、どうにか無事に生きている。 ひょんなことから熊のような大男の領主の家に転がりこんだリーシェは、裁縫・調理・掃除と基本的なことから、薬学・天候・気功など幅広い知識と能力を兼ね備えた有能なメイドとして活躍する。 彼女の願いは安らかに死ぬこと。……つまり大往生。 リーシェは大往生するため、居場所を求めて奮闘する。 熊のようなイケメン年上領主×謎のツンデレメイドのラブコメ?ストーリー。 シリアス有り、アクション有り、イチャラブ有り、推理有りのお話です。 ※基本は主人公リーシェの一人称で話が進みますが、たまに視点が変わります。 ※同性愛を含む部分有り ※作者にイレギュラーなことがない限り、毎週月曜 ※小説家になろうにも掲載しております。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~

北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!** 「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」  侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。 「あなたの侍女になります」 「本気か?」    匿ってもらうだけの女になりたくない。  レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。  一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。  レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。 ※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません) ※設定はゆるふわ。 ※3万文字で終わります ※全話投稿済です

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

処理中です...