捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら

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事件

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「エドワード様はよく観劇をされますの?」

「いや。実は初めてなんだ。リチャードに、女性はオペラが好きだと勧められたから。気に入ってくれたら嬉しいよ」

 オペラが始まった。歌手の声はよく通るし、オーケストラの演奏も見事だ。

 鑑賞は初めてだったが、美しいテノールとオーケストラの演奏が、聴衆を魅了する。

 歌声も、ダンスも見事なものだ。エドワードは素直に感心した。

 しかしやはり……眠気を催す内容だ。

 エミリアは興味を持ってくれたようで、真剣に観劇している。教養の一環にもなるのだろう。

 エドワードがちらりと隣を窺うと、美しいエミリアの横顔があった。

 舞台の明かりを受けて、艶やかなブロンドに光の輪がうねる。思わず、その輝きに見惚れた。

 正直、隣でうっとりと耳を傾けているエミリアの表情を見ている方が楽しい。

(――綺麗だ)

 睫毛が長くて、頬は柔らかそうだ。唇も瑞々しくて、果実のように色づいている。

 エミリアに見つめられると、胸の奥が疼く。

 唇に口づけしたい衝動を堪え、エドワードは目を舞台へ戻した。

 腕を組み、左腕を軸にして頬杖をつく。

 密かに息を吐いた。

 誘惑に耐えるには、上演時間は長すぎる。

 しかし初めこそ興味をそそらぬ展開だったが、物語が進行するにつれ、舞台に引き込まれていく。

『死』を運命づけられた二人の恋人が、結ばれぬ愛を貫く物語。

 最後の場面、舞台の上で交わされる抱擁。

 歌声と演奏がぴたりと止むと、幕が下りた。

「……終わってしまいましたね」

 エミリアが、ぽつりと呟いた。

「どうだった?」

 エドワードが尋ねると、エミリアは、自分の指先を見詰めながら答えた。

「切なくて……苦しいのに、美しい。胸がいっぱいで……とても良かったです」

「そうか」

 エミリアは、舞台の余韻に浸っているようだった。

「とても素敵なお芝居でした。――あ、でも」

 突然、エミリアが言葉を切った。視線が彷徨う。

 エドワードは訝しんだ。何か言いづらいことがあるのだろうか?

「でも、どうした?」

「いえ……その、ただ、このお話は、なんだか、悲しい……と思いました。初めは、幸福な話だと思っていたのですが」


 エミリアの感想に、エドワードも頷いた。

「それは、どうしてそう思ったの?」

「……最後、愛する二人が結ばれないのは、やはり切ないです。私は、二人には生きていて欲しかった」

「そうだろうか? 私は少し違うように思うが……」

 エドワードは物語の流れを思い返した。

 自分でも意外なほど、ちゃんとあらすじを覚えている。

「彼らは結ばれるために、死を選んだんだ。離れ離れになる事は、死より辛かったのだろう。なら、二人は幸せだったはずだ」

「でも死ぬくらいなら、生きて幸福になる道を探す方法もあったのでは? あれではあまりに悲しすぎます」

 エミリアの目には、涙が溢れていた。

 素直に物語に感情移入しているようだ。

 その割に、主張は理に重点を置いていて、言動がちぐはぐに見える。
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