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ヴァルデリア

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 中庭に咲き誇る薔薇の花々が、ガラス越しに淡く輝いて、揺らめいている。

「母の自慢の温室だよ。ここも是非お目にかけたくて。更に」

 一番奥まった扉を開くと、外気がひゅうっと吹き込んだ。

 寒いと知覚したのは一瞬で、すぐに視界いっぱいに満天の星空が広がる。

 夜空を見上げたまま、目を離せないエミリアの手を引いて、エドワードは庭園の中心へ導いた。

「ここが、星空の回廊だ」

 薔薇のゲートを潜ると、四方を植栽で囲まれる。植栽は身の丈ほどあり、視界が遮られていた。

 唯一開けているのは上部のみ。

 切り取られた四角の中に、無数の星が煌めいている。

「凄い。まるで……お星さまを閉じ込めた、宝石箱のよう……」

「ここはね、母のお気に入りの場所なんだ。大抵の客人は、意味を知らずに通り過ぎるけど」

「とてもロマンチック。こんな場所があるなんて知らなかったわ」

「父が母に、捧げたんだよ。今もたまに、二人で散策してる」

 エドワードは揶揄うように囁いた。

 美しい愛情を思い描いて、エミリアはうっとりと目を細める。

 神聖な愛。

 一途な愛も……この世にはあるだろう。

 欲しいと願った記憶が呼び起こされて、はらりと涙が一滴落ちた。

「エミリア、どうして……。済まない、私が軽率だった……」

「何がです? エドワード様は何も悪くありません。美しい愛に感動しただけです」

 エミリアは誤魔化すように微笑んで、涙を払った。

「私は幸せ者ですね。両陛下の仲睦まじいご様子を目の当たりにして、心洗われました。本当に、お二人が羨ましい」

「そう?」

「お庭を散歩しながら、もっとお二人のことを教えてください」

「分かった。では、行こうか」

 エドワードはそっとエミリアの腰に手を回し、エスコートする。

「星空の回廊を抜けると、薔薇の迷路がある。おいで」

 二人は星明かりを頼りに、薔薇のアーチを潜り抜けた。

 夜風はやや冷たい。けれど心を込めて育てられた花々や、エドワードの優しさは温かい。

 傷付いたエミリアのを慰めるのには、充分なほどだった。




***




「ソーニャ様。お言いつけ通りエミリア様にガウンを届けて参りました」

「ご苦労様。で、二人の様子はどうでした? より親密になれて?」

「はい。エドワード様が遠慮がちなエミリア様にガウンをかけて差し上げておいででした。それは仲睦まじいご様子で」

 ソーニャは寝室で、息子と婚約者候補の恋が順調に実りそうか、報告を待っていた。

 自らの指示の守備を聞いて、ソーニャはにんまりと笑みを浮かべる。

 エドワードは自慢の息子ながら口下手なので、気の利いた演出などできまい。
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