捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら

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ヴァルデリア

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 入浴を終え、用意されたドレスに着替えると、すぐに食堂へ案内された。

 広々とした室内には幻想的なガラス細工のシャンデリアが掛かり、その下に長テーブルが置かれている。

 テーブルには南部特有の模様が刺繍されたライナー、無数のキャンドルに人数分の銀食器が整えられていた。

 食器が4組あるということは、エドワードの他に2名、同席する予定なのだろう。

(もしや、国王陛下とお妃さまのお席……?)

「エミリア様、こちらへどうぞ」

 食堂には別の給仕が控えていた。

 椅子を引き、着席を促されるが、エミリアは一瞥するにとどめた。

「あの、お席に……」

「私、早くに着きすぎてしまったようだわ。お腹が空いているのを気遣って頂いたのね」

 エミリアがにっこりと微笑むと、メイドの顔が狼狽に陰った。

(やはり、……そのようね)

 異国の地、他人の城にやや緊張をしていたエミリアだった。

 だが、他愛のない悪戯を目の当たりにして、逆に冷静さを取り戻した。

 人間の感情と言うのは、万国共通であるらしい。

「もうこっちに来ていたのか。呼びに行ったのに」

 到着したエドワードが、壁に沿って控えるメイドたちに、不思議そうに目をやる。

「少しは落ち着いたかい?」

「ええ、とても。貴方のお陰様で皆様、とっても良くしてくださっているから」

 間もなくして、国王、王后両陛下が入室する。

「なんだ、二人とももう揃っていたのか。さあ、掛けなさい。仲が良いのは結構だが、並んで立っていることはない」

 両陛下は、一目見ただけで血のつながりが分かるほど、エドワードとよく似ていた。髪の色と瞳の色は同じ漆黒で、顔立ちも非常によく似ている。

 しかし、醸し出す雰囲気は全く違っていた。

 王は堂々とした威厳があり、口元に刻まれた深い笑いじわが印象的だ。しかし、その割にどこか親しみの湧く風貌をしている。

「ご挨拶が遅れました。エミリア・アルデンと申します。この度はエドワード殿下のご厚意により両陛下と拝謁の機会を賜りまして、大変光栄に存じます」

 エミリアは前に進み出て、深々と頭を下げた。

「堅苦しいのは抜きでと思ったが、后の紹介がまだだったな。妻のソーニャだ」

「エミリアさん、はじめまして。お会いできて嬉しいわ」

 ソーニャは少し考えるように間を置き、やがて微笑んだ。

「ご挨拶に手間取らせては申し訳ないわ。どうぞ、お掛けになって」

 ソーニャは上品で柔らかな口調ながら、威厳にも溢れていた。

 女性の割には高身長の持ち主で、国王と異なり、瞳にはやや苛烈な色を宿している。

「失礼致します」

 今度はエドワードがエスコートしてくれる。エミリアは勧められるまま、着座した。

 すると、ソーニャの目から警戒の光が消えた。

「エドワードが突然女性を連れて来たので、どのような方か気にしておりましたの。でも、安心しました」
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