捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら

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捨てられ王妃

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 渦中にいるエミリアは複雑な心境だが、隣国から極秘に女王を盗み出すなど、危険極まりない行為だ。

 目撃されれば、隣国の王子といえど罪は免れない。

 国際問題に発展する危険さえある。

 それくらい危険な任務の補助を任された。

 よほどの信頼がなければ頼めない。

 ……ひょっとしたらリチャードほど肝が据わってなければ、エドワードの暴挙に反対していたかもしれないけれど。

「では、殿下の尊さはご理解いただけた……と」

「えっ、まあ」

「ということはもう、エドワード様をお好きですよね? エミリア様? あれほど英知に優れ、人望熱く、勇猛で情熱的な男性は他にいないでしょう。求婚を受け入れてください」

「そ、それはまだわからないわ!」

 馬車の正面で、リチャードは急に立ち上がり、ずいっとエミリアに返答を迫った。

 驚きは隠せないものの、やんわりと押し返す。

 何となく、リチャードへの対応に慣れて来た。

「エドワード様は気付いていたようだけど、私は昨晩、愛を失ったの。貴方はエドワード様と一緒にするなと怒るでしょうけど、いくら言葉を尽くしてくれても、もう、誰も信じられないの。だから」

「それはつまり、昨晩、ヴォルティア国王が……」

 リチャードはエミリアの言葉の意味を自身の中で確認しているらしい。

 胸の前で拳を握ったまま、淡々と反芻した。

 それとなく伝えたくて話したのに、あからさまな言葉にされたのでエミリアは閉口した。

「――そうだったのか。それで男性不審に陥られたと」

 リチャードは合点がいったように呟き、一人納得した様子だ。

「ええ、そういうことよ。わかってくれたかしら? だから貴方もエドワード様に考え直すように伝えてくださらない? エドワード様にはもっと相応しい方がいるわ」

 リチャードはしばらく、沈黙した。

「エミリア様のお気持ちは承りました。ですが僕が最も尊重するのはエドワード様のお気持ちです」

「そうでしょうね」

 エミリアはくすっと微笑した。

「あら、お話しをしていたら景色が変わって来たわ。王都へ近づいてきたのね」

 馬車の窓から外を見ると、広大な草原の中に街が見えてきた。

「王都の手前にある小さな村です。あそこで昼食を済ませましょう。村に着けば、王都は目と鼻の先です」

「楽しみだわ」

 エミリアは知らずのうちに本音を零していた。

”ヴァルデリアの王都訪問を楽しみにしている”

 昨晩の暗澹たる想いからは想像もできない感情だった。

 それもこれも二人のお陰だ。感謝しなくては。

「あちらへ着いて落ち着いたら、お二人には何かの形でお礼をしなくちゃね。私に何ができるかしら……?」

「お礼と言うなら、殿下と結」

「だから、それ以外で」

 先の言葉が読めたので、エミリアが遮ると、リチャードは珍しく声を出して噴き出した。

「流石はエドワード様を射止めたお方だ。お優しそうなのに強情でいらっしゃる」

「そうかしら、私それほど強く言ったつもりは」

「違います。非難したのではありません。似た者同士、お似合いだと思ったのです」

「似ているって、誰と?」

「エドワード様ですよ。あの方も大変強情で、他人の意見を聞き入れません」

 リチャードが珍しくエドワードに向けて皮肉を放ったので、エミリアは「まあ!」と声を立てて笑った。

「僕もまだまだ修行が足りませんね」

 リチャードは飄々とした態度で、村の前方、旅の行先を指差す。

「見えてきましたよ。あれがヴォルティア王国最大の都市になる、王都です」

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