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捨てられ王妃

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 エミリアは、問い詰めたくなる衝動を懸命に抑えた。

 こうして罪を目撃したのだから、二人に弁解の余地などないだろう。

 月明りも閉ざされた室内とはいえ、闇に慣れた目は、二人が衣服を身に着けていないことくらい、はっきりとわかる。

 フィリップと令嬢はこの部屋で逢引きした。

 情事の真っ最中だった。

 俗にいう「浮気現場」だ。

「申し開きがあるなら伺いましょう。でも、その前に服を着て下さいな。さすがに見苦しいものを見せられている気がいたします」

 エミリアは一切悪くない。でも、これ以上二人を直視できなかった。

 沈黙を嫌って、早口に捲し立てる。

 早く何らかの反応を示して欲しかった。

 到底許せる行為ではなかったとしても、言い逃れの効かない情態であっても、弁明をして欲しかった。

〝すまない、エミリア。一時の気の迷いなんだ〟

 そう、許しを請うて、一刻も早くこの場から女を追い出して欲しい……!

「見苦しいと思うなら、遠慮してくれれば良いものを」

 だが、夫の口を突いて出たのは期待に反した嘆息だった。

 次いでさらり、と衣の揺れる音がする。

「……っ、フィリップ様?」

 エミリアは動揺を隠せなかった。

 信じられなかった。

 何故なら、夫であるはずの彼は、エミリアの前で平然と着替えを始めたからだ。

 エミリアは思わず後ずさった。

 動揺して言葉にならない。

「順序が変わってしまったが、まあ、いいさ。ちょうど良かったよ。エミリアには話しておこう」

「何を、今更……」
 
 理路整然と問い詰めて、謝罪を促したい。
 
 しかし、口がわななくのみで、今度こそ言葉にならなかった。

「君は相変わらず勘が鋭いね」

「何の、話ですか?」

「こうなった以上、君には知っていてもらいたい」

「?」

 要領を得ない返事だった。

「私はね、ずっと前から彼女を妻に迎えたかったんだよ」

「は?」

「貴女が邪魔しなければ、今夜こそ彼女は私のものだったというわけだ」

「なんですって……!」

「もちろん、貴女が私を愛してくれている事は知っているよ。私だって貴女のことを愛している。だがね、それとこれとは話が別だ。私にとって彼女の存在は決して無視できないんだよ」

「……」

 エミリアは混乱していた。

 浮気を告白された。

 だが、夫の態度は堂々としたもので、まるで悪びれる様子もない。

「仰りたい意味が分かりません。複数の女性を愛していようと、伴侶となるのはたった一人です。ましてや貴方は一国の主。貴方の妃は私です」

「君にとってはそうだろうね。……知っていたよ。だからこそ今日まで待っていたんだ。戴冠前に父と母に泣きつかれたら、私も居心地が悪い。君は両親が望んだ妃だからね。とても大切にしてきたつもりだ。それに、これからも」

 気配を感じてはっと顔を上げると、寝衣姿のフィリップが立っていた。

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