聖女ではありません 

keima

文字の大きさ
上 下
1 / 1

本編

しおりを挟む
「俺はお前を認めるわけにはいかん!!」



洗濯したばかりのシーツやタオルを干しに行く途中、「オイッ!!」と言う声に振り替えると、見たことがない男の人が不機嫌そうに近づいてきて、私を指さすなり、冒頭のセリフを吐き出した。



「・・・」


「なんだお前のその反応は!?この高貴な俺様をバカにしているのか!!」

私の反応のなさが気に入らなかったらしく、向こうは地団駄を踏むながら叫ぶ。

「いえ、ただ驚いているだけです。あの・・・」


「あっ、何だ?」


「認めないって何をですか?」

「ハッ、しらばっくれる気か!?」


「しらばっくれるって「言い訳無用!!」

 いいわけも何も私まだ何も喋っていない。この人、私の話を聞く気がまったくないなぁ。 

「この王子たる私の名のもとにお前のような聖女はいらない。とっとと王宮ココから立ち去れ!!」


「聖女・・・?あの、何か勘違いしていますが、私はではなく、ですよ。」



「はっ、戯言を・・・」



「戯れ言って・・・あと…」

「何を騒いでいるのですか?」

声がする方を見ると、灰色のワンピースに白いエプロンの壮年の女性が駆けよってきた。

「あっ、け…「おぉ、侍女長、ちょうどいいところに来てくれた。急ぎ兵を呼んでこい。このニセモノの聖女をさっさと追い出してくれ。」

自分を「王子」と名乗った男はフンッと鼻息を荒くさせながら私を指差し、その女性--賢女長に向かって叫んだ。 
賢女長は不思議そうな顔をしたあと、何かを察したらしく、その男の人をジッと見たあと、フゥとため息をつくと、私の元に近づくと労るように肩を優しく叩いた。


「ここはいいですから、貴女は自分の仕事をやって下さい。」


「えっ!?あっ、はい。」

後ろで何かを言っている声がするが、気にせず私はシーツの入った籠を抱えて裏庭にむかった。 

「あっ、遅かったけど、どうしたの?。」

裏庭に着くと、私より先にシーツを干していた友人が声をかけてきてくれた。 


「何か、知らない男の人にお前を認めないって言われたんだけど・・・」


「えっ、何それ?何があったの。」

「実は………」

友人にさっき起こったことを話すと「はあっ?何そいつ怖っ!!」と叫んだ。

「そもそも聖女って何よ。あたしたちは賢女けんじょであって、聖女じゃないわよ。」

「そうよね。教会ならわかるけど、ココ病院だし、それに聖女って女性教皇様の別名べつめいだよね?」

賢女けんじょ。主に医師の診療の補佐や傷病者への看護、妊婦の助産の介助や母子の健康管理などを行う職業で、大昔はかしこ婦人ふじんと呼ばれていた。 
対する聖女とは国家中央聖教会機関バスティアンが数年前から女性神職者を教皇に即位することが認められて以来、女性の教皇様の事をそう呼ぶようになった。 

「あんまり気にしないほうがいいわよ。こういう患者もいるんだって勉強になったと思えばいいんだよ。」

「………そうだね。」

「よしっ、さっさと洗濯物干しちゃおう。」

「うん。」

友人のその言葉で、私は気持ちを切り替えて、籠の中に入っていた洗濯物に手を伸ばした。 






数時間後、待合室のほうが騒がしかったので覗きこむと、さっき「王子」と名乗っていた男の人が、両脇を警備兵に抱えられ連行されるところだった。 

「クソッ、離せ!!俺は王子だぞ!!お前らこんな事してただですむと思うなよ!!」

ジタバタと暴れる自称「王子様」に警備兵2人はひるむことなく、連れていった。

あとで賢女長から聞いたら、自称「王子様」は元は貴族だったが、戦争で家が没落し、それを未だに受け入れられず酒浸りの日々を送っていたが、最近になって自分は王子だと言いだし周囲とトラブルを起こしていた。
その後、自称「王子様」は医療刑務所に収容された。



あれから3年。自称「王子様」が今度は「勇者様」を名乗り、今年うちの病院に赴任したばかりの医師せんせいに絡んできて、関口一番に

「俺様はお前を認めない!!下っ端の治療師ヒーラーのくせに勇者たるこの俺様より目立ってるんじゃない!!」

そう言って先生に襲い掛かったのだけど、一緒にいた先輩医師の2人に取り押さえられ、警備兵に確保され現行犯で逮捕された。 

----------------------------------

作中の主人公の職業である賢女は今でいう看護師兼助産師です。

参考文献:『ヴィジュアル版 看護師の歴史』(クリスティン・ハレット著
国書刊行会 2014/05/21 )




2023.  4 

聖女の設定と台詞を少し変えました。 
    
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

【完結】戦場カメラマンの異世界転生記

戸部家尊
ファンタジー
中村文人はカメラマンである。 二十歳の頃から五十年間、多くの戦場や紛争地域を渡り歩いていた。 ある日、紛争地域で撮影中、謎の光に包まれ、異世界に転移してしまう。 そこで出会ったファーリという、森に住まう異種族と出会う。 誤解を受けつつもひとまずファーリたちのところに 二十歳の若者として暮らし始める。 だが、その集落はチェロクスという獣人たちに狙われていた。 ファーリたちを救い、元の世界に戻るべく、文人は戦いの渦に飛び込んでいく。 【タイトル詐欺です】 ※小説家になろうにも投稿しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

処理中です...