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その10 正体

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本編の前に

1月1日に間違えて執筆途中の13話(仮)をあげてしまい、誠に申し訳ありませんでした。  
━━━━━━━━━━━━━━




王弟殿下の逮捕から一夜明け、この日、依頼人クライアントの夫であるロゼル卿との話し合いのため、レオンとロゼットはロゼル卿の屋敷に訪れていた。

「・・・センセイ、質問いいですか?」

「おう、何だ?」

「夫人が出て行ったのって今月のはじめでしたよね。」

「・・・・そうだな。ちょうど俺のところに依頼が来たのもそれくらいだからな。」

「・・・・・たった数週間でこんな荒れるものなんですかねえ。」

「う~ん・・・・」

数週間前に来たときとは屋敷の外観は外からでもわかるくらい酷い荒れ様だった。 
そんなに広くもない庭は雑草がうっそうと生い茂っており、ロゼル卿が手入れしていたと言っていた花壇も草に覆われている。昼間だというのに建物の中は真っ暗で二階の部屋の窓ガラスが全部割れており、廃屋と間違われてもおかしくはない。

「…ロゼル卿いますよね?中で死んでるとかないですよね?」

「いや、死んでいたらふ…「△×〇△❕×!!~ったのに~~~!!」・・・うん大丈夫だ生きてはいるみたい。」

突然屋敷から響いた謎の叫び声とガシャーンゴーンと何かが割れたり倒れたりする音が屋敷の中から聞こえてきた。ミハエルが中にいることを確認したレオンはスゥッと息を吸うと、屋敷の中にいるだろうミハエルに向かって大きく叫んだ。

「ロゼル卿ー!!ご夫人の弁護を担当をしています第3者意見司法機関サードセクションのレオン・クオーツです。夫人のことでお話がありますので入ってもよろしいでしょうか~!!」

「・・・・・いやいやレオン弁護官センセイ、そんなところから叫んでもきこえ・・・「入れ~~!!」…聞こえてるんかーい。そして入っていいんだ。」
 
屋敷の中から聞こえてきたミハエルの声に思わず突っ込んでしまうロゼットだった。 



その頃、第3者意見司法機関サードセクションのオフィスの空気は少しばかりピリピリしていた。 

「ハル先輩。」

ザワつくオフィス内でアシュリ一は茶封筒を脇に抱え今から出かける様子の司法書士官ハル・サトクリフに声をかけた。 

「今日はレオン弁護官は?」

「レオン達なら今、依頼人クライアントの旦那のところへ行ってるよ。アイツに何か用?」

「実は先ほど、王弟殿下がご自分の罪を認めたそうです。そして……謀反を企んでいたことも。」

「そうか……」

警備兵の取り調べで、王弟は素直に自らの罪を認めた。現在は大罪人を収容する牢の中にいるそうだ。   

「身内とはいえ、王族の婚約者に手を掛けようとしたんだ。おまけに以前から謀叛の容疑が掛かっていたんだから良くて幽閉か流刑。悪くて監獄島への終身刑。どっちにしろ重刑にかけられることは間違いないだろうなぁ。」

「そうですね」 

「………………アイツにも、知らせたほうがいいな。」

「?何か言いましたか。」

「いや、何でもない。」 

「そうですか……ところで先輩はどこへ行くつもりですか?」

「ん?ああっ、これから裁判所にコレを提出するために。」

「コレって、例のですね。」

「そう、。」





ーー無法地帯。 

屋敷の中に入ったレオンとロゼットが思わずそう叫びたくなるほど、屋敷の中は外以上に酷かった。
高級な調度品や絵画だったモノが破壊され床に落ちている。
そして目の前のミハエル・ド・ロゼルの姿もほんの数日の間で変貌していた。以前の艶のあった髪は伸びっぱなしのうえ、艶もなくパサパサとなり、女性を虜にした美しい顔もゲッソリと窶れ髭が伸び、目をギョロリとさせている。何日も身体を洗っていないのか顔を顰めてしまうほどの体臭を放っていた。

「………今、何と言った……」

レオンの説明を聞いていたロゼルはギョロッとした目をさらに見開き、ワナワナと拳を震わせた。

「先ほど申し上げた通りです。貴方はご自分の妻で我々の依頼人クライアントであるジゼル・ド・ロゼル夫人シニョーラ・ジゼル・ド・ロゼルに対し、長年暴力や暴言、及び同意のない性交渉並びに彼女の行動の自由を奪うなどの精神的肉体的苦痛及び人権を否定するなどの行為をおこなっていたとして第3者意見司法機関我々は黒い紙を裁判所に提出することを決定しました。」

「!?…………」

数年前から女性の理不尽な扱いや酷さが問題視されていた。教会や女性保護施設が積極的に活動や支援などを行っているが、未だ苦しむ女性の数は多く、そこで国は倫理人権侵害被害届ー通称黒い紙ーを施行した。これは家庭や社会で理不尽な扱いを受けている女性を守るため、警察暑や各地にある第3者意見司法機関サードセクションの支部の窓口で黒い紙の申請書類の手続きをしたあと裁判所に書類を提出し受理されれば裁判所から加害者ー家族や友人、恋人などーのもとに黒い紙が届く。この紙はいわば絶縁状であり接触禁止令誓約書であり、これを破って相手に接触したり、危害を加えれば懲役10年または罰金500ユラが課せられる。また被害女性が既婚者の場合、自動的に離婚が成立される。

「っ……そんなことを勝手に……」

「貴方からしてみれば勝手だとは思いますが、私たちは依頼人クライアントである夫人の意志を尊重した末、この判断をしました。」

ジジの日記を見たあと、このことを課長に相談したところ黒い紙を裁判所に提出することを進言したのは課長だ。 

ーー長年、第3者意見司法機関ココで働いてきた私の経験上、この手の相手はネチネチとしつこいうえに執着心が強い。サッサと別れたほうが身のためだ!! 

と言ってくれたのと、ジジにも黒い紙の説明をするとハッキリとした声で答えた。 


ーーそれであの男との縁が切れるのなら……自由になれるのならば、申請したいです。 



「…………嘘だ……。」

ロゼルは表情の抜け落ちた顔でポツリと呟いた。 



「それだけではありませんよ。貴方には王弟殿下を利用し、さらに大昔のテロリスト集団『あの日の約束』の教祖の生まれ変わりだと騙り危険薬物で人を操り、この国を混乱に陥れようとした国家反逆罪の首謀者として指名手配されています。」

「………」

レオンが話を進める内に、げっそりと青白かったロゼルの顔色は今では紙のように真っ白になっていた。 

「それともうひとつ……夫人の祖国に今回の話をしたところ、夫人が行方不明者として失踪者リストに登録されていることがわかりました。それと最近になってその失踪者リストに登録されていた人が死亡していることが判明したんです。その人の名前が………ミハエル・ド・ロゼルと言うんですが
…………貴方、誰なんですか?」

「っ………」

まるで刃のように冷たく鋭い紫水晶アメシストの瞳でロゼルを捕らえる。その冷たい瞳がロゼルには恐ろしく、冷や汗が止まらなかった。 

「いい加減、本当のことを話してはどうですかミハエル・ド・ロゼルいや……………



リッカルド=ミケーレ・ディッタトーレ」

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補足 

この国のお金の単価はユラで
1ユラ=120円で500ユラは大体6万円くらいです(雑)
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