愛していたって許されないことがある

keima

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その7  ジジ・ロゼルの叫びと疑惑

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注意:今回、妊娠や流産の話があります。 少し胸糞な内容となっていますので、気分が悪くなった場合読むのを中止してください。




どこにでもいる人。それがレオン達から見たジジ・ロゼルの第一印象だ。

 淡い金髪をひっつめにしてまとめ、銀縁眼鏡に黒いドレスの地味な格好スティーレは、学生時代にこんな女教師いたなと言うくらいの印象だった。

 消毒液のにおい漂う真っ白な部屋のベッドに上半身を起こしている女性に目を向けるとレオンは口を開いた。


「・・・昨日、貴女のご主人が第3者意見司法機関ウチにきました。」

 ベッドのうえの女性一ジジ・ロゼルは一瞬だけ眉が動いたが、その表情には何の感情がなく、「無」である。

「・・・・そうですか。」

「大号泣で貴女に逢わせろ。自分は貴女と一心同体だと叫んでいましたよ。」

「そう・・・・けれど、私はあの人に逢うつもりはありません。」


「ご主人がテロリストのリ一ダ一だからですか?」

  
「っ・・・・・」


「ちょっとレオン弁護官センセイ!?」

  
 あまりにもストレートなレオンのもの言いにロゼットが慌てて制止するも、その発言に元々悪かったジジの顔色がサァーッと真っ青になり明らかに動揺している。

  
「やはりご存じなんですね。」

  「………………」

 レオンの問いにジジはコクリと頷いた。

「・・・先生たちは、あの人がどうやって信者を集めていたか知っていますか?」


「「えっ??」」

「1年前からあの人、週に2回お客様を自宅に招くようになったんです。訪れる人は年齢も職種もバラバラで、最初は仕事関係の方なのかなと思ったんですけど、ある日ミハエル……あの人がお客様の飲み物に薬を入れたんです。そのお客様が飲み物を飲んだ後、あの人がなにか話しかけた直後にその人の様子がおかしくなったんです。
急に怒ったり興奮したりして、話の内容も支離滅裂だったりして・・・」

「ええ~・・・何それこっわ。」

「それから度々あの人がお客さんの飲み物に薬をこっそり入れているのを目撃するようになって・・・私、あの人が仕事で出かけているときに書斎に入ったんです。そしたら・・・」

  
「・・・なにを見つけたんですか?」

  

「本棚に催眠術や暗示の本が大量にあったんです。それと、薬の本や恋愛小説。」


「「恋愛小説?」」
 

「はい・・・恋愛小説の本にはたくさんの小説が挟んでありまして、その栞に細かく字が書かれているんです。実は・・・栞の一部がここにあります。」

  
そう言うとジジはベッドの横に備え付けてある机の引き出しから栞を取り出しレオンに手渡した。

「それだけじゃないんです。あの人が仕事で使う書斎机があるんですけど、その引き出しが開いていたことがあって、私……その中を見てしまったんです。あの人の書斎机の引き出しに……………お客さんの飲み物に混入させていた薬が大量に隠していたんです。」

  「大量に!?・・・・ロゼル卿はその薬をどこで入手したんですか?」

 目を丸くしながらレオンが訪ねるとジジは「わからない」答えた。

「ただ・・・あの人、数年前から庭いじりするようになって庭に咲いていた植物や・・・小さい石臼いしうすなどが部屋の中に置いてあったんです。」

「書斎に石臼ってなんかあわないですねえ・・・ひょっとして自分で薬を作ってたんですかねえ?」

「・・・ロゼットのいうとおりかもしれないな。ロゼル卿は自分で薬を調合して、それを来客の飲み物に混ぜて飲ませ暗示をかけて『あの日の約束』じぶんの信者にしてたってことか。」

「離婚したいというのはそれが理由ですか?」

 ロゼットがそうたずねるとジジは自分の腹部に手を当て俯いた。

「それもありますが・・・私も彼らと同じだったんです。」


「「えっ・・・・??」」


「私、これまで何度も流産しているんです。妊娠しては流産を繰り返して。妊娠中、あの人は私が少しでもリラックスできるようにってハ一ブテイ一を煎れてくれたんです。でも・・・主治医の先生にその話をしてハ一ブテイ一を見せたんです。そしたら・・・・ハ一ブテイ一に使われているのが妊婦に害を与える成分が入っているって・・・中には発癌の危険のある成分が入っているって・・・」


「何……それ。ひどい・・・」

「・・・・・」
  
ジジの話にロゼットは両手で口を覆いながら呟き、レオンも言葉を失っている。


「最初は私も信じられなかったんです。でも、冷静に今までのあの人との結婚生活を思い返してみたら、私あの人と夫婦らしいことしていないなぁって気づいたんです。」


「夫婦らしいこと?でもあなた方夫婦は良くパーティーとかでよく一緒に出席していますよね。」

「パーティーのときはあの人が監視していますから・・・私、料理が好きなんです。料理を作ろうとすると、あの人は女が料理をするもんじゃない。料理人シェフを雇うから君は何もしなくともいいって言われて・・・ショックだったんですけど、その時の私はあの人のいう事が正しいって思いこんでいました。料理だけじゃなく、掃除とか裁縫するのも禁止されたり、音楽を聴いたりするのもダメ、買い物や外出したりするのもあの人の許可が出ないとダメなうえに、許可されてもあの人も同伴しなくてはいけないんですよ。おまけに家の庭にいくのにも制限されてほぼほぼ家の中で軟禁状態でした。それがふつうなんだって当たり前だって思っていたんです。 
夫婦らしいことが何もできず、夜になればあの人に抱かれるだけ。
子供・・・欲しかったのに・・・あの人は平気で私に薬を飲ませて自分の子供を殺して・・・・」

 滔々と語っていたジジの声が段々と涙声になっていき、その瞳から涙のしずくがポロポロと零れ落ちやがて声を上げて泣き崩れた。
 涕泣するジジの姿は痛々しく、レオンとロゼットは何もできずただ見守ることしかできなかった。





「……ごめんなさい。取り乱してしまって。」

思い切り泣いて気持ちが落ち着いたのか、ジジの顔はまだ青白いが少しだけ精気が宿っているようにみえる。

「……夫人、先ほどの話から、貴女の夫であるロゼル卿の貴女に対する扱いはあまりにも人権侵害にあたります。もし、今までのことを記した……日記とかがあれば証拠となりますし、精神的苦痛を理由として離婚が認められる可能性は高いです。しかし相手側がそれを否定したりする可能性が高く、拗れに拗れて最終的に裁判になるケースが多いんです。もしそうなった場合、夫であるロゼル卿と闘う可能性があります。その覚悟はありますか。」

「………私は……あの人と離婚できれば、あの人と別れられるのなら何でもします。」

そのはっきりと言いきったジジの瞳は先ほどの何の感情のない「無」ではなく、強い決意を秘めた力強い熱を帯びていた。

「………わかりました。それともうひとつ。これは別の案件の話ですが夫人に聞きたいことがあります。夫人、貴女はロゼル卿と結婚する前、ヴィクトリア大国海軍で文官として勤めていましたね。」


「……ええ、ハイ。それが何か・・・?」

スゥ…と息を吐き、薄紫色の瞳を細めレオンは口を開いた。
 
「・・・ジジ・ロゼル夫人いえ、ヴィクトリア大国海軍ジゼル・マリーン元判任文官。あなたはミハエル・ド・ロゼル卿と共謀してヴィクトリア大国海軍ナサニエル・カルセドニー提督とその家族を殺害した容疑が掛かっています。だから答えてください。あなたはカルセドニー提督の死に関わっているのですか?」

 

ーーあの事件が起きる前の日の夜……………父と母が話しているのを聞いたんだ。 
明日、相談したいことがあるからジゼルさん……ジジがウチに来るって………… 
 
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