逆ハーレム女の娘 

keima

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逆ハーレムのその後……

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私は母が大嫌いだ。 
恋愛体質で恋多き女である母には多くの恋人がいる。しかもその多くは大企業の経営者や既婚者だ。おまけに恋人全員、高校時代からの知り合いらしく、当時は婚約者がいたにも関わらず皆母に傾倒していき、婚約者と結婚してからも今に至るまで関係を続けてきたらしい。  
大抵は恋人の1人と一緒にホテルで過ごすことが多いのだが、うちのアパートに来たときは最悪だ。 恋人のほとんどが私を見るなり不愉快そうに顔を歪め、憎々しげに睨みつける。まるで憎い敵でも見るような目で睨みつける。 恋人の中には気が短くすぐカッとなり暴力を振るう人がいたので、なるべく関わらないようジッと息を潜めることもあった。
 1番タチが悪いのが恋人の奥さんと子供だ。
自分の夫の・父親の不倫相手である母やその子供である私に良い感情を持っていないのはわかってはいるが、ことあるごとに私に罵詈雑言を浴びせてきた。
その子供も関わらなければいいのに、私に絡んでは「阿婆擦れ」だの暴言を繰り返してきた。最近では「うちの息子をたぶらかした。」という言いがかりをつけられた。そのせいでご近所さんからも嫌われ、小学校中学校はクラスの皆から嫌われ、いじめはなかったが、遠巻きにされ私の近づく子はいなかった。 

うんざりだ。
男をとっかえひっかえしている母も自分の家庭を蔑ろにして母に溺れる恋人達も、夫への恨みや嫉妬をぶつけてくるその奥さんとその子供にも。

――――私はお母さんのようにはならない。

 そう思い、手に職をつけるため地方の看護学校に進学するため家を出ることを決めた。 学生寮への入居も決まり奨学金を申請したので昼は学校に通い、夕方は看護助手として病院でアルバイトする予定だ。 

「じゃあお母さん、私行くから。」 
荷物の入ったキャリーケースを持ってソファに座りテレビを見ている母の背中に声を掛ける。母は振り向きもせず、ジッとテレビの画面を見ていた。
「それじゃあ・・・」
キャリーケースを引いて部屋を出ようとしたときだった。 
「…………めぐみ。」
久しぶりに名前を呼ばれ、驚いて振り返ると、母は背を向けたままだ。
「何?」
 「………アンタは私みたいになるんじゃないわよ。」 
「うん・・・じゃあ、バイバイ。」 
そういうと、私は母に背を向けて長年過ごしたアパートを出て行った。 

















荷物を積み、バスに乗り座席に身体を鎮めると、フゥ・・・と息を吐いた。
上着のポケットに手を入れると、何か固いものに触れたらしく、ポケットから取り出してみると、見覚えのある古い長財布が表れた。それは母が長年、愛用していた長財布だった。
中を開けてみると、そこには私名義の銀行口座の通帳2冊と印鑑、お気に入りだったシルバーのハートモチーフのペンダントが入っていた。さらに四つ折りされた紙切れが入っていた。それを開いてみると、たったひと言だけ、

『ごめんね。』 

本当は知っていた。お母さんは恋人達アイツらのことを愛しているわけじゃないことを。
高校時代、告白して振られたにも関わらず、親の権力を使って手を回し囲い込み、お母さんを「共有する」ことで自分達のモノにしたことをアイツらの奥さん達から聞いて知った。 
自分に執着するアイツらから私を守ろうとして、私を遠ざけていたこと。
恋人の1人に暴力を振るわれそうになった時、身を挺して私を庇ってくれたこと。
アイツらにバレないようにこっそり内職をしたり、貰った宝石やバッグやドレスを換金してそれを生活費や私の学費に充てていたこと。
数年前から身体を崩して病院で治療を受けていることも。

知っていたのに、気づかないフリをして目をそらしていた。

普通に恋愛して、仕事して結婚してという当たり前を奪われ、アイツらの作りあげた籠の中に囲い込まれ、縛りつけられ、ただ欲望を満たすだけの捌け口にされて心身共にボロボロになっているお母さんにアイツらは気づかない。

--ねぇ、お母さん。それで貴女は幸せなの?

今となってはもう、お母さんの気持ちを聞くことはできない。
けれど、あのとき私にかけたひと言はきっと本心なんだろう。



---アンタは、私みたいになるんじゃないわよ。


「・・・私はお母さんのようにはならない。」

そう呟いた私の頬に一粒の水滴が零れ落ちた。

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