1 / 1
逆ハーレムのその後……
しおりを挟む私は母が大嫌いだ。
恋愛体質で恋多き女である母には多くの恋人がいる。しかもその多くは大企業の経営者や既婚者だ。おまけに恋人全員、高校時代からの知り合いらしく、当時は婚約者がいたにも関わらず皆母に傾倒していき、婚約者と結婚してからも今に至るまで関係を続けてきたらしい。
大抵は恋人の1人と一緒にホテルで過ごすことが多いのだが、うちのアパートに来たときは最悪だ。 恋人のほとんどが私を見るなり不愉快そうに顔を歪め、憎々しげに睨みつける。まるで憎い敵でも見るような目で睨みつける。 恋人の中には気が短くすぐカッとなり暴力を振るう人がいたので、なるべく関わらないようジッと息を潜めることもあった。
1番タチが悪いのが恋人の奥さんと子供だ。
自分の夫の・父親の不倫相手である母やその子供である私に良い感情を持っていないのはわかってはいるが、ことあるごとに私に罵詈雑言を浴びせてきた。
その子供も関わらなければいいのに、私に絡んでは「阿婆擦れ」だの暴言を繰り返してきた。最近では「うちの息子をたぶらかした。」という言いがかりをつけられた。そのせいでご近所さんからも嫌われ、小学校中学校はクラスの皆から嫌われ、いじめはなかったが、遠巻きにされ私の近づく子はいなかった。
うんざりだ。
男をとっかえひっかえしている母も自分の家庭を蔑ろにして母に溺れる恋人達も、夫への恨みや嫉妬をぶつけてくるその奥さんとその子供にも。
――――私はお母さんのようにはならない。
そう思い、手に職をつけるため地方の看護学校に進学するため家を出ることを決めた。 学生寮への入居も決まり奨学金を申請したので昼は学校に通い、夕方は看護助手として病院でアルバイトする予定だ。
「じゃあお母さん、私行くから。」
荷物の入ったキャリーケースを持ってソファに座りテレビを見ている母の背中に声を掛ける。母は振り向きもせず、ジッとテレビの画面を見ていた。
「それじゃあ・・・」
キャリーケースを引いて部屋を出ようとしたときだった。
「…………萌。」
久しぶりに名前を呼ばれ、驚いて振り返ると、母は背を向けたままだ。
「何?」
「………アンタは私みたいになるんじゃないわよ。」
「うん・・・じゃあ、バイバイ。」
そういうと、私は母に背を向けて長年過ごしたアパートを出て行った。
荷物を積み、バスに乗り座席に身体を鎮めると、フゥ・・・と息を吐いた。
上着のポケットに手を入れると、何か固いものに触れたらしく、ポケットから取り出してみると、見覚えのある古い長財布が表れた。それは母が長年、愛用していた長財布だった。
中を開けてみると、そこには私名義の銀行口座の通帳2冊と印鑑、お気に入りだったシルバーのハートモチーフのペンダントが入っていた。さらに四つ折りされた紙切れが入っていた。それを開いてみると、たったひと言だけ、
『ごめんね。』
本当は知っていた。お母さんは恋人達のことを愛しているわけじゃないことを。
高校時代、告白して振られたにも関わらず、親の権力を使って手を回し囲い込み、お母さんを「共有する」ことで自分達のモノにしたことをアイツらの奥さん達から聞いて知った。
自分に執着するアイツらから私を守ろうとして、私を遠ざけていたこと。
恋人の1人に暴力を振るわれそうになった時、身を挺して私を庇ってくれたこと。
アイツらにバレないようにこっそり内職をしたり、貰った宝石やバッグやドレスを換金してそれを生活費や私の学費に充てていたこと。
数年前から身体を崩して病院で治療を受けていることも。
知っていたのに、気づかないフリをして目をそらしていた。
普通に恋愛して、仕事して結婚してという当たり前を奪われ、アイツらの作りあげた籠の中に囲い込まれ、縛りつけられ、ただ欲望を満たすだけの捌け口にされて心身共にボロボロになっているお母さんにアイツらは気づかない。
--ねぇ、お母さん。それで貴女は幸せなの?
今となってはもう、お母さんの気持ちを聞くことはできない。
けれど、あのとき私にかけたひと言はきっと本心なんだろう。
---アンタは、私みたいになるんじゃないわよ。
「・・・私はお母さんのようにはならない。」
そう呟いた私の頬に一粒の水滴が零れ落ちた。
0
お気に入りに追加
7
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

シチュボ(女性向け)
身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。
アドリブ、改変、なんでもOKです。
他人を害することだけはお止め下さい。
使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。
Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる