アラサー聖女、出奔す。理由は『酒浸り』!?  ~皆が求婚してくるけど逃げようと思います。あれ?モフモフ男子がついてきたぞ?~

黒星★チーコ

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【第一部】マクミラン王国

第十七話 桜花 VS クライヴ王子

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 鉄の味が私の舌にまとわりつくのを感じながら、私は全力でエメリン姫にを送り込んでいく。
 ここまでやって上手くいかなかったらどうしよう。こんなぶっつけ本番で、思いつきにもほどがある。それに復讐とその後始末のためとはいえエメリン姫を巻き込むなんて、私はあまりにも酷い人間だと頭の中で後悔が渦巻く。だがすぐに思い直した。
 だめ! まずは目の前の事に集中しなければ。

 大丈夫、できるわ。【力の聖女】が強力な力を他人に与える為に手で触れるのと理屈は同じ事よ。粘膜接触は手より更に効率がいいからきっと可能なはず。それに過去の文献にあった伝説には【原初の聖女】も動物たちに同じような事をやったと残されていたもの!!
 私が自分を鼓舞しつつ傷口からエメリン姫へ力を送り込んでいくうちに、そこから白い光が漏れだした。

「お、姉様……なにを」
「ちょっと!! なにやってんだよ!! 早くこっちを浄化しろよ桜花!!」
「オーカ様!!」

 エメリン姫もヒナも、結界の外にいる人達も。みんながみんな何か言ってるけど私は目を細め音を聞かないようにした。ただ、今やっている事一点に意識を集中させる。やがて白い光は徐々に弱くなり消えていき、私は十分に力を送り込めた事を知った。そのままもう一度傷口に舌を這わせ、最速で

「お姉様、今……」

 青ざめた顔で震えるエメリン姫の頭にぽんぽんと手をやり、私は笑う。

「うん、理解しわかった? 貴女に全力でを分け与えたの」
「……何故? これはお姉様の力でしょうっ!?」
「私が国を出るなら、可愛くて優しくて賢いエメリンに後を託した方が良いもん」
「お姉様!!」
「エメリン、貴女はここに居て。そして私の戦い方を見て学ぶの。チャンスはこれ一回だけよ」

 私はヒナに顔を向けた。

「お待たせ、ヒナ。私とエメリンに一枚ずつ結界を。でも結界があると剣で切れないから、私が斬りつけるタイミングで私の結界を解除して、魔物に傷をつけたらすぐにまた結界を張り直すのよ」

 魔物の手の中にいるヒナは泣きながらも悪態をつく。

「なんなんだよ!! 指図すんな!!」
「それしか魔物を傷つけて足止めする方法は無いわよ。死にたいの? やりなさい」
「……桜花てめえ、これが終わったら覚えてろよ! 殺してやる!!」

 キン。

 言葉遣いは酷く汚くとも、ヒナはきちんと私とエメリン姫に一枚ずつ結界を張り直してくれた。私は自分の腕力や脚力、防御力などながらフフッと笑う。

「ヒナ、もしあなたが私を殺せるほど強いなら……自力で魔物退治ができるわよ」

 私はそういうと床を蹴り、ひと跳びで巨大化した魔物の頭上へと到達する。眼下にはかつて王子だった醜い魔物の頭。そこへ両手で握った剣を振り下ろすが、結界は解除されない。

「ヒナ、遅い!」

 咄嗟に左手を剣から外して結界に触れ、解除する。ギリギリのタイミングで結界が崩れ、私の剣は魔物の頬を掠めて鎖骨で止まった。くそっ、遅かった。ヒナがもう少し早く解除してくれれば両手剣に勢いをのせて鎖骨を砕く事が……

「グウアアア!!」
「!?」

 傷ついた魔物が咆哮と共に右腕を水平に薙ぐ。その拳が私に叩きつけられる刹那、すんでのところで結界が間に張られて私は結界ごと横へ飛ばされた。自分で張った結界に叩きつけられたが、結界同士がクッションになってダメージはない。

「くっ」

 私は身を翻し着地しながらヒナに言った。

「ヒナ! 解除も張り直しも遅いったら!!」
「指図すんなって言ったろーが! お前が下手なんだろ!!」
「私がやられたらあなたは死ぬしかないのによく言うわね!」
「うるせぇ!!」

 キィィン!

 私の周りの結界が消え、剣を握る拳と剣の鍔の間を中心として半球型の結界が再度張られた。つまり、剣の刃だけが結界の外に出ている格好だ。

「これなら斬る邪魔にならないから文句ないだろーが!! 後ろはガラ空きだけどな!!」
「……ヒナ!」

 私は再び感心した。咄嗟にこんな事を考えつき、そして本当に一発でイメージ通りの結界の形を作れる。そして私と違って離れた距離でも、鍔と拳の間の数センチを狙って結界を張るという難しいことをやってのけた。この子やっぱり馬鹿じゃない。それどころか……

「あなた、やっぱり【守りの聖女】としては天才だわ!!」
「いいから早くしろよおおお!!」

 私は再び魔物に向かって跳ぶ。魔物は傷つけられたことによってヒナから私にターゲットを変更した。だが所詮魔物は魔物。その両の腕と足、歯くらいしか武器はない。先程まで王子の腰を飾っていた立派な剣は服と一緒に破れた剣帯ごと床に落ちているが、それを拾って使うには彼の手は大きくなりすぎた。

「ふっ!」

 その大きな手を、彼がヒナから離し私に伸ばしてきたタイミングを逃さず私は容赦なく斬りつける。魔物は斬られた右手を抑えておぞましい叫び声をあげた。
 結界が半球型だった為に、その叫びは私の鼓膜を直接突き刺しツーンとした痛みを引き起こす。けれどここで攻撃の手を緩めてはだめだ。私は耳をしながら右手を庇っていた魔物の左手にも剣を刺し、一気に横に斬る。

「ギャアアアアッ!!」

 魔物は痛みに叫びをあげながらも右足を振り出してくる。その動きは前蹴りで私を結界ごと蹴りとばす気だと理解した頃にはもう遅かった。だめだ! ギリギリで避けられない……!

 キキン!

 聞きなれた結界が張られる音がすると共に目の前の大きな足がビタリと止まった。その足首から先が丸い二重の球体に覆われ、空中に……固定されている?

「グアッ!? ア、ア、ア」

 魔物はバランスを崩し、残された左足でたたらを踏む。私はハッとして、慌ててその左足を斬った。

「ギャアッ! アアアァァァ……」

 魔物は情けない声を上げながら仰向けにひっくり返る。ダーン!! と雷の様な音を立て、彼の後頭部は絨毯敷きの石床に強く打ち付けられた。もうもうと埃が舞い上がる中、目を凝らして確認すると王子だった魔物は気絶しているらしく動かない。……まさか、死んでないよね?

 それにしても。離れた距離から空中の座標指定をして、動いている魔物の足を結界で固めるなんて。普通、結界は中か外にある何かを守るものであって、中にある物の動きを固定する為に使うなんて考えたこともなかったわ。私は振り返ってヒナを確認する。肩で息をする彼女の周りの結界は一枚もなかった。いくら魔物の意識がヒナから逸れていたからって結界防御なしとは大胆な。

「すごい事するわね……この結界の使い方、こっそり練習してたの?」

 未だ空中に留められたままの王子の右足と結界を指さしてヒナに訊くと、彼女は涙と埃とつけまつげと贅肉のついた頬を歪ませた。

「は? 練習なんてするわけねーだろ。私は天才だってそっちが言ったんでしょ」

 思いつきのぶっつけ本番か! まあ、私もひとの事言えないけど!!

「あははっ、うん。天才」

 私が笑いながら手放しで褒めると、ヒナは眉間に皺を寄せたまま、少しだけ顔を赤くした。

「……いいから!! さっさと浄化しろよ! 何回言わせんだよ!!」
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