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【本編】
9話/ 公爵令嬢はパーティで憂鬱
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※今回短めのため、本日のみ一日三回更新になります。
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◇◆◇◆◇◆
王立学園に向かう馬車の中、ディアナは実に居心地の悪い思いでいました。
彼女の横には落ち着いたワインレッドのドレスに着替えたカレンがすまして座っています。
向かいにはヘリオス。タイを自身の目の色に合わせたブルーグレーに変更させられたのが気に入らなかったのか非常に不機嫌です。
「カレンお前、そのドレスは似合わないな」
「ヘリオス様がしつこいので、ドアを抑えている時に私が最初に着ていたドレスがシワになってしまいまして。ですからこちらの赤いドレスに着替えるしかありませんでした」
「この嘘つきめ。ディアが赤いドレスに着替えると俺が誤解するようにドアの向こうでアピールしていたくせに」
「あら、やはり盗み聞きされていたのですね」
「まあそれもフェイクと見抜いた俺の勝ちだがな」
フンと嗤うヘリオスに向かって、カレンがその美しい黒目を三日月のように細めます。
「お言葉ですが、見抜いたのではなくて安全策を取ったんでございましょう? どの色にも対応できるように色とりどりのタイまでご用意して」
二人とも笑顔ですがまったく楽しそうではありません。馬車のなかで火花が散りそうです。
「ねえ二人とも。喧嘩するなら私は帰るよ? ちゅーかホンマは帰りたいんやけど……」
「駄目だ」「駄目です」
「なんでそこだけシンクロするん? 二人、意外と相性ええんやないの?」
「「……」」
「黙るタイミングまで同じとか、めちゃめちゃ仲良しやんけ……はぁ、もう~」
ディアナがため息をついて馬車の外に目をやると、そう遠くない距離に王立学園の建物が見えてきました。学園の美しい白い壁をぼんやりと見ながら、月曜日に特別室の控えの間で聞いたフェリアの声が彼女の脳裏に甦ります。
『エド様! 今度のパーティーで……』
◇◆◇◆◇◆
学園のダンスホールに到着すると、まずは衛兵と女性の先生に武器を携帯していないか確認されます。パーティでも王立学園のルールはいつも通りどころか、いつもより厳しめです。少量ですがお酒も供されるのでなおのこと当然といえば当然でしょう。
ディアナは標準語の外面をかぶり、兄の左腕に自身の右手をかけ入場しました。
既にホールに集まった人達が二人を見てどよめきます。無理もありません。兄は女性の人気が高いですし、妹はこういう集まりを避けがちなのに、たまに参加したと思ったら婚約者と共に居ないのですから。
二人はすぐに何人もの人に囲まれました。どの人も公爵家と近づきになりたいと顔に書いてあり、面白い話もしてくれそうにありません。
さらに自称"取り巻き"の四人までこちらを目掛けて凄い勢いでやって来るのが遠目にわかりました。ディアナがオートモードで乗りきろうとしたその時、
「ディアナ御姉様~!」
シャロンが近づいてきました。ディアナは事前に手紙で「創立記念パーティに参加するので、是非会場で会いたい」と知らせておいたのです。
ヘリオスにシャロンを友人として紹介し、挨拶してくる他の貴族子女の対応を兄に任せてディアナはシャロンとだけ話します。
「御姉様、ファンクラブを作りましたの! ぜひご紹介したくって」
「まあ! ご挨拶させて下さいな」
(流石はシャロン様。あの素晴らしい作品のファンがもう集まるようになったとは。そういえば完成させたらお友達に読ませると仰っていましたので、読んだお友達が中心になってファンクラブを作ったのね)
ディアナは三人の令嬢、エマ、ミレーユ、アリスを紹介されました。エマは北地方の国境を守る伯爵家の娘だとうっすら覚えていますが、ミレーユは子爵家、アリスは男爵家の令嬢で今まで関わりはありません。
しかしディアナはアリスになぜか見覚えがあったので、それがどこか思い出せずに見つめていると、彼女は真っ赤な顔で「ひえええっ」と言っています。
「あのっ、私達も御姉様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「ええどうぞ。喜んで」
先日の手紙のやり取りでシャロンから「御姉様とお呼びして良いですか?」と聞かれてどうぞと応えて以来、ディアナはそのように呼ばれていたのですが三人の令嬢にもおねだりされてしまいました。
三人とシャロンはきゃあきゃあと喜んでいます。ディアナはくすぐったい思いをしつつも、妹が一挙にできたようで心が弾みます。
「御姉様、ファンクラブですけれど『赤薔薇姫の会』って名づけましたの」
「ああ! この間の作品から名前を取ったんですのね! 是非ワタクシもファンクラブに参加させて下さいませ」
「「「「……え?」」」」
「え?」
ディアナとシャロン達の間に微妙な空気が流れます。
「あ、あの、御姉様……? 御姉様のお立場でファンクラブに入るのはおかしいのでは?」
「何故ですの? ワタクシもシャロン様の小説のファンですのよ!」
困惑した四人の令嬢が顔を寄せてヒソヒソし始めました。ディアナはもちろんいつもの外面で無表情を装っていますが、先程弾んだ心が急激に萎れていくのを感じていました。その後ろから声が洩れ聞こえます。
「……ぷっ、天然……」
ディアナが振り返ると微妙にニヤついた顔のカレンがこう言います。
「シャロン様、私も入ることはできないでしょうか」
「え? カ、カレン様が……? え、でも……」
戸惑い、顔を見合わせるシャロン達に、なおもニヤッとして畳みかけるカレン。
「私の立場なら入っても問題ないでしょう?それに私は色々知ってますから教えて差し上げられる事もございますわ」
「……いいわよね?」
「私はかまいませんわ」
「ええ、カレン様さえ宜しければ歓迎しますわ……」
「ひええっ、どうしましょう」
(何故ですの!?)
自分が断られた後に四人の令嬢があっさりカレンを受け入れたのを目の前で見せられ、ディアナの無表情も少し顔色が悪くなったところで再び会場にどよめきが起きました。
入口の方を見たディアナや周りの皆の目に映るのは美しい黒髪と、その横にふわふわとしたピンクブロンドが明かりを受けて輝くさま。
エドワード王子がフェリア嬢をエスコートして現れたのです。
※今回短めのため、本日のみ一日三回更新になります。
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◇◆◇◆◇◆
王立学園に向かう馬車の中、ディアナは実に居心地の悪い思いでいました。
彼女の横には落ち着いたワインレッドのドレスに着替えたカレンがすまして座っています。
向かいにはヘリオス。タイを自身の目の色に合わせたブルーグレーに変更させられたのが気に入らなかったのか非常に不機嫌です。
「カレンお前、そのドレスは似合わないな」
「ヘリオス様がしつこいので、ドアを抑えている時に私が最初に着ていたドレスがシワになってしまいまして。ですからこちらの赤いドレスに着替えるしかありませんでした」
「この嘘つきめ。ディアが赤いドレスに着替えると俺が誤解するようにドアの向こうでアピールしていたくせに」
「あら、やはり盗み聞きされていたのですね」
「まあそれもフェイクと見抜いた俺の勝ちだがな」
フンと嗤うヘリオスに向かって、カレンがその美しい黒目を三日月のように細めます。
「お言葉ですが、見抜いたのではなくて安全策を取ったんでございましょう? どの色にも対応できるように色とりどりのタイまでご用意して」
二人とも笑顔ですがまったく楽しそうではありません。馬車のなかで火花が散りそうです。
「ねえ二人とも。喧嘩するなら私は帰るよ? ちゅーかホンマは帰りたいんやけど……」
「駄目だ」「駄目です」
「なんでそこだけシンクロするん? 二人、意外と相性ええんやないの?」
「「……」」
「黙るタイミングまで同じとか、めちゃめちゃ仲良しやんけ……はぁ、もう~」
ディアナがため息をついて馬車の外に目をやると、そう遠くない距離に王立学園の建物が見えてきました。学園の美しい白い壁をぼんやりと見ながら、月曜日に特別室の控えの間で聞いたフェリアの声が彼女の脳裏に甦ります。
『エド様! 今度のパーティーで……』
◇◆◇◆◇◆
学園のダンスホールに到着すると、まずは衛兵と女性の先生に武器を携帯していないか確認されます。パーティでも王立学園のルールはいつも通りどころか、いつもより厳しめです。少量ですがお酒も供されるのでなおのこと当然といえば当然でしょう。
ディアナは標準語の外面をかぶり、兄の左腕に自身の右手をかけ入場しました。
既にホールに集まった人達が二人を見てどよめきます。無理もありません。兄は女性の人気が高いですし、妹はこういう集まりを避けがちなのに、たまに参加したと思ったら婚約者と共に居ないのですから。
二人はすぐに何人もの人に囲まれました。どの人も公爵家と近づきになりたいと顔に書いてあり、面白い話もしてくれそうにありません。
さらに自称"取り巻き"の四人までこちらを目掛けて凄い勢いでやって来るのが遠目にわかりました。ディアナがオートモードで乗りきろうとしたその時、
「ディアナ御姉様~!」
シャロンが近づいてきました。ディアナは事前に手紙で「創立記念パーティに参加するので、是非会場で会いたい」と知らせておいたのです。
ヘリオスにシャロンを友人として紹介し、挨拶してくる他の貴族子女の対応を兄に任せてディアナはシャロンとだけ話します。
「御姉様、ファンクラブを作りましたの! ぜひご紹介したくって」
「まあ! ご挨拶させて下さいな」
(流石はシャロン様。あの素晴らしい作品のファンがもう集まるようになったとは。そういえば完成させたらお友達に読ませると仰っていましたので、読んだお友達が中心になってファンクラブを作ったのね)
ディアナは三人の令嬢、エマ、ミレーユ、アリスを紹介されました。エマは北地方の国境を守る伯爵家の娘だとうっすら覚えていますが、ミレーユは子爵家、アリスは男爵家の令嬢で今まで関わりはありません。
しかしディアナはアリスになぜか見覚えがあったので、それがどこか思い出せずに見つめていると、彼女は真っ赤な顔で「ひえええっ」と言っています。
「あのっ、私達も御姉様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「ええどうぞ。喜んで」
先日の手紙のやり取りでシャロンから「御姉様とお呼びして良いですか?」と聞かれてどうぞと応えて以来、ディアナはそのように呼ばれていたのですが三人の令嬢にもおねだりされてしまいました。
三人とシャロンはきゃあきゃあと喜んでいます。ディアナはくすぐったい思いをしつつも、妹が一挙にできたようで心が弾みます。
「御姉様、ファンクラブですけれど『赤薔薇姫の会』って名づけましたの」
「ああ! この間の作品から名前を取ったんですのね! 是非ワタクシもファンクラブに参加させて下さいませ」
「「「「……え?」」」」
「え?」
ディアナとシャロン達の間に微妙な空気が流れます。
「あ、あの、御姉様……? 御姉様のお立場でファンクラブに入るのはおかしいのでは?」
「何故ですの? ワタクシもシャロン様の小説のファンですのよ!」
困惑した四人の令嬢が顔を寄せてヒソヒソし始めました。ディアナはもちろんいつもの外面で無表情を装っていますが、先程弾んだ心が急激に萎れていくのを感じていました。その後ろから声が洩れ聞こえます。
「……ぷっ、天然……」
ディアナが振り返ると微妙にニヤついた顔のカレンがこう言います。
「シャロン様、私も入ることはできないでしょうか」
「え? カ、カレン様が……? え、でも……」
戸惑い、顔を見合わせるシャロン達に、なおもニヤッとして畳みかけるカレン。
「私の立場なら入っても問題ないでしょう?それに私は色々知ってますから教えて差し上げられる事もございますわ」
「……いいわよね?」
「私はかまいませんわ」
「ええ、カレン様さえ宜しければ歓迎しますわ……」
「ひええっ、どうしましょう」
(何故ですの!?)
自分が断られた後に四人の令嬢があっさりカレンを受け入れたのを目の前で見せられ、ディアナの無表情も少し顔色が悪くなったところで再び会場にどよめきが起きました。
入口の方を見たディアナや周りの皆の目に映るのは美しい黒髪と、その横にふわふわとしたピンクブロンドが明かりを受けて輝くさま。
エドワード王子がフェリア嬢をエスコートして現れたのです。
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