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そして彼女は悲鳴をあげる

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【キラキラプリンセス☆~恋のファッションリーダーになっちゃえ!~】―――――通称【キラプリ☆】は、西洋風のお城に住むイケメン王子や、アホみたいに強い騎士のイケメンや、アホみたいに頭の良いイケメンや、幼なじみのイケメンや……
 ……とにかく聖アンジェリー学院を舞台に、あらゆるイケメンと恋をしていくゲームだ。

 主人公はメイクと髪型、アクセサリーの組み合わせや制服改造(この世界に服装による校則違反は無い)、夜会のドレスアップなどで見た目をイケメン達の好みになるように変え、親密度を上げていく。

 組み合わせを間違えてあんまり奇抜なファッションになると(一部の隠しキャラや変なモブキャラを除いた)学院の生徒達に嫌われ、ライバル令嬢やその取り巻きにヒソヒソされる。

 逆に完璧な組み合わせをすればキラキラのエフェクトが主人公を包み、その日1日はイケメン達どころかライバル令嬢までも好意的になってくれる【カンペキ!モード】になるのだ。

 全年齢対象ゲームとして小学生~中学生女子辺りがターゲットに作られており、当時小学4年の月美は見事ずっぽりハマった。
 完璧な組み合わせを目指し、あらゆる組み合わせを試行錯誤し、アクセやメイクに必要な材料も探しまくり、その攻略法を書き留めて纏め、父に譲って貰った古いパソコンの表計算ソフトに各アクセのパラメーター数値に至るまで打ち込む熱中ぶりだった。

(お父さんは笑って「夏休みの自由研究にでもしたらどうか」と言ったっけ…………。)

 もちろんそんなものを自由研究として提出できるわけはなかったのだが。
 月美はちょっぴり苦い想い出に囚われながら、なかなか覚めない夢にしばしつきあうことにした。大好きだったゲームの世界を体験できる夢なんてなかなか見ない。当時だって見たことがなかった。これが最初で最後のチャンスかもしれない。どうせ寝坊したと一度は思ったのだ。両親となぜ会いたかったのかもまだ思い出せていない。

(幸せな夢をギリギリまで見てもいいか)

 と、月美は思った。
 流石にあまりにも遅い時間になれば設定したアラームが鳴る筈だ。学校に遅刻する心配も無いだろう。

 メイドが持ってきたアクセサリーの中から【入学初日に最も適した完璧な組み合わせ】を選ぶ。今日は入学式の日。記念式典が行われる。
 主人公の立場は裕福な商家の娘。美しいが身分は庶民。ゲームに登場するイケメンな攻略対象達やライバル令嬢等の、式典で生徒代表になる地位のある人達とは違うのだ。

 だからでしゃばりすぎず、かつ他とは違う所をチラリと見せるのが正解。この正解を見つけるために何度スタート画面から自分の名前を入力し、その後の始まりのシーン(豪華な自分の部屋の内装と、先程のマリアの台詞が表示される)を見たことか……。

(うん。リセットマラソンリセマラって奴ね。だっていきなり初日に【カンペキ!モード】にしないと、お気に入りの隠しキャラのゼファー様ルートが困難だって気付いちゃったんだもん! たかが小中学生向けゲームにしては難易度エグくない?)

 マリアが月美の髪を丁寧に梳かしてくれる。

「髪型とメイクは如何致しますか?」

 この台詞の後、お馴染みの画面が出て来て自分で髪型やメイクの色を選び、満足したらOKボタンを押すのだが今は夢のせいかそんな画面にならない。仕方ないので口頭で指示を出す。

「そうね。シンプルに下ろして毛先を軽く巻いて。サイドをこの真珠と銀の髪飾りでとめましょう。メイクは制服にあわせて目元に淡い黄緑と緑のグラデを。アイラインは垂れ目風ね。あとはチークは薄いピンクにリップも透明のグロスだけで良いわ」

 月美はすらすらと言っておきながら、自分でびっくりした。

(……流石は夢。家族以外にこんなにスムーズに話せるなんて。まあいつもメニュー画面で控えてアドバイスをくれる私の味方のマリアが相手だからかもね)

 そんな事を考えているとは当のマリアは気付いていないようで、他のメイドと共に制服を着せ、髪を整え、メイクを施してくれる。

 月美の指定したスタイルは巻き髪と目元のグラデがなければ、一見地味~な感じになりそうだが、実は主人公自慢の美しい黒髪が映える清楚風に緑のアクセントを加えた見た目である。入学初日に主人公を見た男子が「可愛い子がいる!」と噂をする流れなのだ。

(何年たっても忘れないものだなぁ……)

 思わずふふっと笑う。最近は勉強とアルバイトや家事で忙しく、ゲームなど全くやっていなかったのに好きなものの記憶と言うのは錆びないのだと月美は考えた。
 その彼女の横で最後の仕上げを終えたマリアが満足そうに「お嬢様、今日も最高に素敵ですよ」と言う。これは【カンペキ!モード】になった時の台詞だ。同時に目の端でエフェクトらしい緑色の光がふわりと走った。月美はやっぱり忘れてなかったと思いながら、マリアに手渡された手鏡の中を覗く。

 そのまま数秒絶句し、次いで先程起きた時とは比べ物にならない程の大きく長い悲鳴をあげた。

 そこに映っていたのは美しい星々が煌めくような大きな黒い瞳と存在感の小さい鼻、それにぽってりとした唇を持つゲームの主人公の顔ではなく、蛭田月美、16歳そのままの顔だった。

 同級生の男子にかつて「般若」と揶揄された容貌。
 見事な三白眼としっかりと鼻筋の通った高い鼻、薄くて血色の悪い唇、高すぎる頬骨によりこけた頬に薄い眉。

 月美が長年悩み、憎み、18歳になったら美容整形で別れを告げると決めた、醜い顔だった。
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