お金に囚われた者たちよ

ヨシナガ

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過去編

エピソード1

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ヒロキが当時18歳の時だった。

父は優しくて明るく、まさに理想的な父親だった。

亡き祖父から継いだ会社を引き受け、元々時代にそぐわないビジネスをしていたため父が大きく変えていった。

その結果、大きい企業からの仕事を受けることができるようになり、会社は大きくなっていった。

会社が大きくなるにつれ、銀行からの融資も増えていった。

これは悪いことではなく、良いことだ。

法人の銀行借入とはまさに信用の証だからだ。

借りたお金をより一層会社に注ぎ込むことで更なる利益が期待できる。

仕事がうまくいっている中でも驕らず、休みの日でも勉強をしていた。

父はそんな努力家の経営者でした。

しかし時代は傾き、リーマンショックの煽りを受け会社も縮小していった。

それでも前向きに頑張っている姿を僕は覚えていた。


ある日のことだ。

僕が友達に会いに朝早く出かける際に、父と少し話した。

僕「これから出かけてくるよ」

父「じゃあほら、交通費。気をつけてな。」

そういってランチ代と交通費を少しもらった。

それが最後の会話となってしまいました。


僕が家に帰宅したのは夜遅くだった。

11時ごろだが、もう家族は就寝していた。

僕も風呂に入り、部屋で横になっていた。

うとうとして夢を見た。

今でも覚えている。何かわからないが吸い込まれるような夢だった。

何かわからない、どこかにワープするような

僕はただ吸い込まれていく自分を第三者目線でただ呆然と見ている夢だ。


「きゃーーー!お父さん!!!!!誰か!!!!」

悲鳴は母のものだった。

僕は飛び起きた。

母と父の寝室で父が倒れていた。

急いで救急車を呼び、その間心臓マッサージをした。

父は呼吸をしていなかった。

しばらくすると呼吸のようなものが起きていた。

時々短めの息を吸うような、あくびに似た動作をしていた。

僕は知らなかった。これが終末呼吸と呼ばれるものだということに。

正式名称は下顎呼吸と言われるらしい。酸素の取り込みが少なくなり、顎と喉の筋肉を動かして酸素を取り込もうとする。

僕は息をしていると勘違いして助かると思っていた。

時間の感覚が薄かった。

だがかなり早く救急車は来たと思う。

僕はこれで父は助かると思っていた。

AEDが父の体に付けられるのをただ呆然と見ている。

「離れてください!」

救急隊の方の一言で僕と母は慌てて離れる。

機械が使われると父の体がドクンと動いた。

何度か行われた後、救急車に運ばれていった。

救急車の中では父の受け入れ先の病院を探している。

父はまだ意識がなく、救急隊員が心臓マッサージをずっとしてくれていた。

時間にして30分程度止まったままの救急車の中で、ただただ時間が流れていった。

病院をたらい回しにされていたのか、なかなか決まらなかった。

ようやく発進した救急車だが、そこからの記憶があまりない。

次の記憶は医師からの死亡宣告だった。

「お父さんですが、もう心臓の波が横になってしまって戻らないので・・・」

医師はパニックを超えて呆然としている僕と母にわかりやすいように伝えてくれたんだと思う。

僕はただ一言「ありがとうございました」そう医師に答えて泣いている母の肩を抱いていた。


翌日事件性が無いかどうかを調査する警察が来た。

ただただそこからは記憶が薄い。

親戚が集まり、泣いていた。

父の亡骸は死因調査のため司法解剖へ。

父の部屋に行くと母がいた。

母からポツリと一言こぼれ落ちた。

「あんた、これから大変になるからね。覚悟しなね」

その言葉通り、父が亡くなり機能しなくなった会社は僕たち家族に降りかかってきた。

初対面の社員さん達、その社員さん達の次の給与や次の就職の話、銀行の借入の話、自己破産の話、
銀行への担保が家だったため住む場所が無くなる話、保険の話や今後の自分たちの居住場所の話、生活の話、ありとあらゆる問題が起きていた。

父の死を悲しむ余裕も無かった。


父の葬儀が行われたとき、数百人が参列した。

会社関係者の多くが並んでいた。

僕はただ、参列した方に頭を作業的に下げていった。

心は疲弊し、頭は回らなかった。

僕だけじゃない。

残された家族はただただ、疲れていった。
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