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21.…気持ち悪い
しおりを挟む「神に誓って言っておりません。幼い頃の話とは言え伯爵令嬢として幼少の頃から教育を受けており、そのような軽はずみな事を口にするはずがありません」
「いや!確かに言ったぞ!侯爵家の料理人が作ったクッキーを食べて、"こんな美味しいクッキー食べた事がありません!毎日でも食べたいです!"と。私の目をウットリとみつめながらシャティは言ったんだ……」
……はい?
えーっと…。
"こんな美味しいクッキーを食べた事がありません、毎日でも食べたいです!"という5歳の女の子の言葉をどうして"貴方のお嫁さんになりたい"と受け取る事ができるのだろうか…。誰か説明して欲しい…
そう思い周りの人をちらりと見るが、皆同じ事を思っているようでポカンとして固まっている。
それはシャティ様も例外では無いようだ。
「…は?それのどこが結婚の約束になるのでしょうか…?」
「ふふ、毎日侯爵家のクッキーが食べたいのだろう?私に嫁いで毎日侯爵家でこのクッキーを私と共に食べたいというシャティからのプロポーズだろう?私は感動して即座にこう返したさ。"勿論!喜んで!"と…!あぁ、無邪気に笑うシャティ…本当に本当に可愛かった…!それなのに今のシャティはこんなにもブクブク太って…。しかしまぁ痩せれば良いさ、中身は純粋無垢なシャティのままさ」
その日の事を自分に酔いしれながら話すエルカルト。
きっと、その時の記憶の中のシャティ様は5歳の少女の姿で…。
いや、怖い。怖すぎる…。
近くにいた小さな娘と参列しているどこの家かの夫人も、傍にいた娘をギュッと抱き締める。
「…もち……い…」
シャティ様が怯えた様子で何かを呟いた。
「ん!?なんだ、シャティ。やっと思い出してくれたのか!?」
エルカルトは鼻を膨らませ、シャティ様に一歩近付く。
その瞬間。
「…気持ち悪い…!」
ゴミを見るような目でエルカルトを見て、シャティ様が言った。
「へっ…!?きっきっき…」
「気持ち悪いと言っているのです!誰だって花を頂けば喜びますし、目の前で怪我をした人がいれば心配します。クッキーが美味しければ美味しいと言います!それを勝手に変な解釈をして勘違いをして沢山の方に迷惑をかけて…こんなにも気持ち悪い人を私は見た事がありません!もう良いです。同じ空間にいるだけで吐き気がしますわ!この者を自警団に突き出してください」
「シャッシャティ!?嘘だろ!?見た目だけでなく中身まで醜くなってしまったのか!?シャティが私にこの結婚式に来て欲しいと手紙を送ってきたのではないのか…!?気持ち悪いってこの、私が!?嘘だっうぐっっ」
「侯爵家にこの結婚式の知らせを送ったのは私だ。一応親族だからな。しかしお前は親族でも貴族でも無いっ…!私の娘の大切な日をよくも台無しにしてくれたな…!ここで切り捨ててやりたいが祝の席だ…極刑を怯えながら待つが良い!」
「ひぃ!叔父上!く、くるひぃ…」
怒り心頭なシャティ様の父、ベルモンド子爵がエルカルトの胸ぐらを掴み言い放つ。
「そ、そんな…本当に…?シャティは私の事を愛してない…?」
「私が愛しているのは今も昔もハインツ様だけです」
「シャティ…」
2人がお互いを見つめ合う。その姿を見てエルカルトは現実が見えて来たようだ。エルカルトの目にいっぱいの涙が溜まる。
「う、嘘だ嘘だ嘘だっ!!それならば私はこれからどうなってしまうのだ…!どうしようどうしようどうしよ………」
取り乱すエルカルトと目が合ってしまった。
その瞬間エルカルトは何かを思い付いたようにハッとし、虚ろな目でニヤリと笑った。
あ…。嫌な予感がする…。
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