婚約者に初恋の従姉妹といつも比べられて来ましたが、そんなに彼女が良いならどうぞ彼女とお幸せに。

天歌

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20.シャティはどこだ?

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久しぶりに見たエルカルトは、この5ヶ月で頬は少し痩け、肌は焼けていて、服も薄汚れた物を着ていた。
それなりに苦労しているようだ。

「シャティ…!遅くなってすまない!君を迎えにきた……って…あれ?」

勢いよく叫びながら入ってきたエルカルトだが、突然ゼンマイが切れた玩具のように動きが止まる。
そしてあたりをキョロキョロと見渡した。
誰かを探している様子だ。

「ん??シャティ??シャティはどこだ…?」

目の前にいるシャティ様に気が付いていない…?
まさか、ここにいるシャティ様はエルカルトの初恋の相手である従兄妹のシャティ様ではない…?いえ、でもエルカルトの兄であるアレックス様は参列されているし…。

エルカルトはキョロキョロとあたりを見渡し、運悪く私と目が合ってしまった。
その瞬間、エルカルトの目は憎悪に満ちた。

「なっ!なぜここにセアラがいるのだ!!もしかして…!私との婚約解消を逆恨みしてシャティをどこかにやったのだな!?はは!やはりお前と婚約を解消して良かったな!さぁ、どこかに隠したシャティを出せ!」

ニコラス様が一歩前に踏み出し、私の前に立ち庇ってくださる。
…それにしても何を言っているのだこの男は…。
逆恨みの意味を知っているのだろうか…。
はぁ、ここはハインツの結婚式であるし、ニコラス様との婚約が決まったばかりであまり悪目立ちはしたくないのだが、ここまで言われて黙っている訳にはいかない。
私が口を開こうとすると…

「お待ちなさい!探しているシャティは間違いなく私です!貴方は元ルーツベット侯爵家のエルカルトですね?数々の問題を起こし、侯爵家に絶縁された貴方が私に何の用でしょうか」

シャティ様が、真っ直ぐエルカルトを見据えて言った。

「えっ?シャティ…?わ、私の知っているシャティはもっと華奢で背も小さくて守ってあげたくなるような愛らしい見た目で…私があげた1輪の野花を大切に抱え嬉しそうに笑っていて…」

「それはいつの話でしょうか?私が貴方に最後に会ったのは確か15年近くも前の話だと思いますが」

何という事だろう…。
きっと、エルカルトはシャティ様に相手にされていない事は予想がついていた。
しかし、まさか10年以上も前の幼い頃の出来事をずっと私に話していただなんて…。

「クッ…いつの事だなんて関係無いっ!シャティは私に恋をしていた!!私が転んでしまった時、シャティはすぐに駆け寄ってきて痛いの痛いの飛んでいけーっと言って癒やしてくれた!」

「5つくらいの時でしょう…?よく覚えてはいませんが確か、父に付いて侯爵家に行った時に転んだ男の子にそんな事を言った記憶がうっすらとあります。私が怪我をした時に兄にそうしてもらっていましたので兄の受け売りです。誓って恋はしていません」

も、もうエルカルトが惨めすぎて聞くに耐えない…。
周囲も、笑いをこらえきれず笑い声を抑えきれていない者もいる。

「い、いや!そんな事は無い!照れないで良いんだ!私と結婚を誓い合った仲ではないか!!確かに言った!貴方のお嫁さんにして欲しいと…!」

事の成り行きを見守っていた参列者達も、流石にこの場でこの発言は不味いと思ったのかその場が少しざわつく。
すぐに追い出した方が良いのだろうが、花嫁であるシャティがはっきりとさせたいと言ったのだ。彼女の意思に従うべきだろうと成り行きを見守るしか無い…。




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