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15.誠心誠意
しおりを挟む今日はデイアリー公爵家のニコラス様がいらっしゃる日だ。
デイアリー公爵家といえば、この国屈指の権力を持つ名家だ。
今の皇太子妃だって元デイアリー公爵令嬢で、デイアリー公爵家に逆らう事ができる家などこの国には無いだろう。
その公爵家の次男であるニコラス様が伯爵家の私を望むだなんて…。
一体何の意図があるのだろうか。
父も同じように思っているようで、本来ならば公爵家との縁談なんて喜ぶ所だが不安そうな表情をしている。
父が、元々エルカルトとの婚約を結んだのも、確かに厳しい状況にある侯爵領を救うためという名目もあるが、侯爵家に恩を売り侯爵家を望むように扱おうという野心もあったようだ。
それがデイアリー公爵家も同じように思っていれば?
婚約を一度解消した傷物の令嬢を引き取り、この伯爵家の実権を握ろうと考えていれば…。
父が亡くなった時、この伯爵家はデイアリー公爵家に飲み込まれてしまうかもしれない…。
「ニコラス様がいらっしゃいました」
「分かった。いこう」
父とニコラス様を出迎える。
「ようこそ、いらっしゃいましたニコラス様」
礼をして顔を上げるとニコラス様と目が合う。
これが…ニコラス様…。
ニコラス様は早くから騎士団に入団し社交界ではあまりお見かけしなかった。
短く切られた黒髪に、灰色の瞳。
控えめに言ってもかなりの眉目秀麗な顔立ちだ。
「この度はお会いしたいというこちらの無茶な要望に応えてくださりありがとうございます。スティーカー伯爵、セアラ嬢、お会いできて光栄です。私、ニコラス・デイアリーと申します」
「さあ、どうぞこちらへ。お座りください」
少し頭を下げ椅子に座る姿も、カップを口元へ運ぶ所作も全てが精錬されているようで、こちらも思わず背筋が伸びる思いだ。
一息つくと父が話し始める。
「ニコラス様、この度はありがたいお話をありがとうございます。しかし…単刀直入に聞かせて頂きますが、なぜセアラなのでしょうか。失礼な事を言っている事は承知でございますが、先日婚約解消を行った所で慎重になってしまう私共の気持ちも察して頂けたらと思います」
「分かっています、伯爵様。本当はもう少し時間をかけて婚約の願いを申し出ようと思っていました。しかし、早くしなければセアラ嬢を他の者に奪われてしまうと焦ってしまったのです」
「それ程に…デイアリー公爵家であれは引く手数多でしょう…」
「私はデイアリー公爵家の為に生きていこうと決意し、いずれ家を継ぐ兄の下で尽力する為騎士団へ入団しました。その為、所帯を持つつもりなどありませんでした」
「それならばなぜ…」
私が思わず呟くと、ニコラス様の視線がこちらに向けられて視線が交わり、思わず胸が波打つ。
「セアラ嬢です」
「え…?」
「初めは、父一人娘一人で家の為にと尽力する二人を知りセアラ嬢に興味を持ちました。そしてたまたま参加した夜会でセアラ様をお見かけして一瞬で心惹かれたのです」
「あり…がとうございます…」
そんな…知らなかった。
私が知らない間にそのように思って頂けていたなんて、恥ずかしいような嬉しいような何ともくすぐったい気持ちだ。
そんな私を見てニコラス様が微笑まれる。
「しかし、その直後にセアラ嬢はルーツベット侯爵令息と婚約を結ばれた。1度は諦めようと思ったのですが、簡単にはセアラ嬢の事を忘れられませんでした。そしてこの度の婚約解消を聞き二度とあんな後悔をしたくないとすぐに手紙を書かせて頂いたのです」
そう言って私と父を真っ直ぐ見るその瞳は間違いなく嘘偽り無いものだった。
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