婚約者に初恋の従姉妹といつも比べられて来ましたが、そんなに彼女が良いならどうぞ彼女とお幸せに。

天歌

文字の大きさ
上 下
15 / 24

15.誠心誠意

しおりを挟む


今日はデイアリー公爵家のニコラス様がいらっしゃる日だ。

デイアリー公爵家といえば、この国屈指の権力を持つ名家だ。
今の皇太子妃だって元デイアリー公爵令嬢で、デイアリー公爵家に逆らう事ができる家などこの国には無いだろう。

その公爵家の次男であるニコラス様が伯爵家の私を望むだなんて…。
一体何の意図があるのだろうか。

父も同じように思っているようで、本来ならば公爵家との縁談なんて喜ぶ所だが不安そうな表情をしている。

父が、元々エルカルトとの婚約を結んだのも、確かに厳しい状況にある侯爵領を救うためという名目もあるが、侯爵家に恩を売り侯爵家を望むように扱おうという野心もあったようだ。

それがデイアリー公爵家も同じように思っていれば?
婚約を一度解消した傷物の令嬢を引き取り、この伯爵家の実権を握ろうと考えていれば…。
父が亡くなった時、この伯爵家はデイアリー公爵家に飲み込まれてしまうかもしれない…。


「ニコラス様がいらっしゃいました」

「分かった。いこう」

父とニコラス様を出迎える。

「ようこそ、いらっしゃいましたニコラス様」

礼をして顔を上げるとニコラス様と目が合う。

これが…ニコラス様…。
ニコラス様は早くから騎士団に入団し社交界ではあまりお見かけしなかった。

短く切られた黒髪に、灰色の瞳。
控えめに言ってもかなりの眉目秀麗な顔立ちだ。

「この度はお会いしたいというこちらの無茶な要望に応えてくださりありがとうございます。スティーカー伯爵、セアラ嬢、お会いできて光栄です。私、ニコラス・デイアリーと申します」

「さあ、どうぞこちらへ。お座りください」

少し頭を下げ椅子に座る姿も、カップを口元へ運ぶ所作も全てが精錬されているようで、こちらも思わず背筋が伸びる思いだ。

一息つくと父が話し始める。

「ニコラス様、この度はありがたいお話をありがとうございます。しかし…単刀直入に聞かせて頂きますが、なぜセアラなのでしょうか。失礼な事を言っている事は承知でございますが、先日婚約解消を行った所で慎重になってしまう私共の気持ちも察して頂けたらと思います」

「分かっています、伯爵様。本当はもう少し時間をかけて婚約の願いを申し出ようと思っていました。しかし、早くしなければセアラ嬢を他の者に奪われてしまうと焦ってしまったのです」

「それ程に…デイアリー公爵家であれは引く手数多でしょう…」

「私はデイアリー公爵家の為に生きていこうと決意し、いずれ家を継ぐ兄の下で尽力する為騎士団へ入団しました。その為、所帯を持つつもりなどありませんでした」

「それならばなぜ…」

私が思わず呟くと、ニコラス様の視線がこちらに向けられて視線が交わり、思わず胸が波打つ。

「セアラ嬢です」

「え…?」

「初めは、父一人娘一人で家の為にと尽力する二人を知りセアラ嬢に興味を持ちました。そしてたまたま参加した夜会でセアラ様をお見かけして一瞬で心惹かれたのです」

「あり…がとうございます…」
そんな…知らなかった。
私が知らない間にそのように思って頂けていたなんて、恥ずかしいような嬉しいような何ともくすぐったい気持ちだ。
そんな私を見てニコラス様が微笑まれる。

「しかし、その直後にセアラ嬢はルーツベット侯爵令息と婚約を結ばれた。1度は諦めようと思ったのですが、簡単にはセアラ嬢の事を忘れられませんでした。そしてこの度の婚約解消を聞き二度とあんな後悔をしたくないとすぐに手紙を書かせて頂いたのです」

そう言って私と父を真っ直ぐ見るその瞳は間違いなく嘘偽り無いものだった。


しおりを挟む
感想 146

あなたにおすすめの小説

ここはあなたの家ではありません

風見ゆうみ
恋愛
「明日からミノスラード伯爵邸に住んでくれ」 婚約者にそう言われ、ミノスラード伯爵邸に行ってみたはいいものの、婚約者のケサス様は弟のランドリュー様に家督を譲渡し、子爵家の令嬢と駆け落ちしていた。 わたくしを家に呼んだのは、捨てられた令嬢として惨めな思いをさせるためだった。 実家から追い出されていたわたくしは、ランドリュー様の婚約者としてミノスラード伯爵邸で暮らし始める。 そんなある日、駆け落ちした令嬢と破局したケサス様から家に戻りたいと連絡があり―― そんな人を家に入れてあげる必要はないわよね? ※誤字脱字など見直しているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも
恋愛
学園の卒業パーティ 人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。 傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。 「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」 私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」 ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。 それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。 傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。 自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。 そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。 さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。 ◆エールありがとうございます! ◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐 ◆なろうにも載せ始めました ◇いいね押してくれた方ありがとうございます!

人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ
恋愛
伯爵家の次女であるリネ・ティファスには眉目秀麗な婚約者がいる。 私の婚約者である侯爵令息のデイリ・シンス様は、未亡人になって実家に帰ってきた私の姉をいつだって優先する。 彼の姉でなく、私の姉なのにだ。 両親も姉を溺愛して、姉を優先させる。 そんなある日、デイリ様は彼の友人が主催する個人的なパーティーで私に婚約破棄を申し出てきた。 寄り添うデイリ様とお姉様。 幸せそうな二人を見た私は、涙をこらえて笑顔で婚約破棄を受け入れた。 その日から、学園では馬鹿にされ悪口を言われるようになる。 そんな私を助けてくれたのは、ティファス家やシンス家の商売上の得意先でもあるニーソン公爵家の嫡男、エディ様だった。 ※マイナス思考のヒロインが周りの優しさに触れて少しずつ強くなっていくお話です。 ※相変わらず設定ゆるゆるのご都合主義です。 ※誤字脱字、気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません!

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?

ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。 レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。 アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。 ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。 そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。 上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。 「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

【完結】他人に優しい婚約者ですが、私だけ例外のようです

白草まる
恋愛
婚約者を放置してでも他人に優しく振る舞うダニーロ。 それを不満に思いつつも簡単には婚約関係を解消できず諦めかけていたマルレーネ。 二人が参加したパーティーで見知らぬ令嬢がマルレーネへと声をかけてきた。 「単刀直入に言います。ダニーロ様と別れてください」

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

処理中です...