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10.ははーん、分かったぞ?(エルカルト視点)
しおりを挟む∴エルカルト視点
「は、母上…」
思わず母に助けを乞うように見る。
そうだ…そうだ…母上なら兄の暴挙を止めてくれるはず…
しかし、母から向けられた目は期待したものとは違い冷たいものだった。
「え…母上?どうしてそんな目で私を見るのですか?」
母は私の悲痛な叫びを無視して父に向かい静かに話し始めた。
「アレックスが爵位を継ぐまでと私は今までずっと耐え忍んで参りました。父が亡くなった途端貴方はふんぞり返りすぐに愛人を作り、子どもまで作り…その子どもすら私に押し付けた。きっと父が亡くなり自分が1番偉いとでも思ったのでしょう?私はただただ侯爵家を存続させアレックスを無事に成長させる事だけを考えて生きてきただけ…でもそれも今日で終わりですね。アレックスはこんなにも立派になってくれました」
な、なんて事だ…!
ち、父上も中々やるな…愛人を作って子どもを母上に押し付けるだなんて…。
これはさすがに辺境に追いやられても仕方ないな、うんうん。
ん???
母上に愛人の子どもを押し付けた…?その子どもってどこ??
「ちょ、ちょっと待ってくれ!そんな昔の事を!わ、私も若かったのだ!厳しかった義父が亡くなってタガがはずれたと言うか…悪かった…!どうかここに置いてくれ!!」
「エルカルトの事も愛そうと努力しました。子には罪はありませんからね。しかし…大きくなるにつれてどんどん貴方に似て私を馬鹿にするようになりました。二人に言われた、女は役立たずだから黙って従え、気安く笑うななどと数々の暴言、悪かったでは済みません。そして極めつけに伯爵家に無礼を働き借金を作るなど…許される事ではありません」
私の事も愛そうと努力した?ん?馬鹿にした?馬鹿になんてしていない。母親なら夫や子どもに尽くすのは当たり前だからな!教えてあげただけだ…。
いやそれよりも、ちょ、ちょっと、ちょっと待ってくれ……
もしかしてその愛人の子どもって……。
嫌な予感がよぎる。
「愛人の子どもって…もしかして…」
「あぁ、そうさ。お前は父上がいや、コイツが平民の愛人に産ませた子どもだ」
母が答えず、兄が答える。
嘘…だろ…?私が平民の子ども…?父と母の子どもではない…!?
しかしなるほど、確かに私は二人に似ず美丈夫だ…。変に納得してしまっている自分がいる…。
「私が平民の子ども!?ありえないっ!!何かの間違いないに違いな」
「チャ……チャンスをくれっ!エルカルトとは縁を切る!実は…私は今もお前を愛しているんだ……!ここを追い出されたら…」
父が私の言葉を遮り、母の足に泣き縋り始めた。惨めだ…なんて惨めなんだろう…。今まで偉そうにしている父が格好良いと思ってきたけれど今の父はこれ以上なく惨めだ…。
「チャンスなどありません。私はこの日の為に耐えてきたのです。さぁ、もう良いでしょう。二人には、三日後にここを発って貰います。3日間は使用人と同じ扱いをします。もう貴方達は侯爵家の者ではありませんので」
母のその言葉で執事や警備兵が私達を捕らえ、粗末な部屋に父と二人押し込んだ。
「お二人には明日の朝5時に起きて使用人と共に働いて貰いますからね。使用人を下僕のように扱っていたお二人は皆に相当嫌われていますからね、覚悟なさった方が良いですぞ」
執事のセバスチャンがそう言い放ち部屋の扉が閉められる。
あいつ…今まで私や父にペコペコしていた癖に…
3日間使用人として働け!?何の冗談だ?
ははーん、分かったぞ。これはお仕置きってやつだな!辺境にやるなんてただの脅しに違い無いぞ!
仕方ない。3日間くらい我慢してやるか…!
部屋の端っこでうずくまり、頭を抱えてブツブツ呟いている父を横目に早めに横になる事にした。
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