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13.一通の手紙
しおりを挟む∴セアラ視点に戻ります
婚約が無事に解消されてから3日後。
ルーツベット侯爵家の長男のアレックス様が伯爵家へ謝罪に訪れた。
「伯爵様、伯爵令嬢様。この度は父と愚弟が大変失礼致しました…。隣国へと留学へ行っていたとは言え、二人の行動を止めることが出来なかった事は許される事ではありません…」
「いえ、頭を上げてください。アレックス殿には罪はありませんわ」
「いえ、我が領民の為にと援助までして頂いていたのにこのような形になってしまい申し訳ございません。ほんの少しですが…返済させて頂きます。勿論領民から徴収したお金ではありません。隣国で学びながら貴族間の通訳の仕事も少ししていまして」
そう言ってアレックス様はお金の入った包みを机の上に差し出す。
「これは受け取れませんな」
しかし、父は静かに包みを押し返した。
「し、しかしっ」
「これから侯爵家は更に大変になるだろう。その時に資金が無いと困りますからな。それに、返済はあの二人にして貰わなければ意味は無い」
「申し訳ございません…。恥ずかしながら、父は援助して頂いたお金の幾らかを自分の欲の為に使用していたようなのです。領主としてあるまじき行為です。父には責任を取らせ、爵位を私に譲り侯爵領の最北端の辺境へエルカルトと共に本日送り出しました。親戚の元でしっかり働いて返させます」
領民たちが苦しんでいる中でも私腹を肥やすその図太さは耳を疑う事だ。
…やはり似たもの親子だったようだ。
「あぁ、それが良いだろう」
父も頷く。
「そして、エルカルトが従兄妹のシャティの事を口にしていたと聞きましたが、調べた所二人に不貞の関係は無さそうでした…。元々父方の親戚とはあまり交友は無かったのですが…。なぜエルカルトがシャティの名を出したのか…。何はともあれ、セアラ様を不快にさせてしまった事に違いありません。申し訳ございませんでした」
エルカルトがシャティ様の名前を出したのは、ただの私に対する当てつけだったのか、それとも本当にシャティ様に恋い焦がれていてただ相手にされていないのか…。可能性はかなり低いが、隠れて二人は愛を育んでいたのかもしれない。真相は分からない。
「もう、終わった事ですわ」
その後、アレックス様は頭を何度も下げ屋敷を後にした。
アレックス様の後ろ姿を見送りながら父が私に声をかける。
「セアラ。このような目に合わせてしまいすまなかったな…」
「いいえ婚姻を結ぶ前に気付いて良かったですわ。シャティ様の事はあまり存じておりませんが感謝の意すら感じます」
エルカルトが勝手にシャティ様の名を借りていた事は、シャティ様に伝えるべき事かもしれないが親しくない間柄の為、踏み込まない方が良いかもしれない。それに冷たいようだが、私はもう関係無いのだ。
もう、エルカルトにもシャティ様にも関わる事は無いだろう。
そう思っていたのだが…。
「失礼します!お手紙を届けに参りました!」
一通の手紙により、そういった訳にはいかなくなったのだった…。
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