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8.(どうでも)良いのです。
しおりを挟む「侯爵よ、もう言い逃れはできない。潔くこの書類にサインして婚約解消をしましょう。良いですな?」
侍女がすかさず書類とペンを持ってきた。
有無も言わさぬ圧で迫る父。侯爵も観念したのだろう。ペンを受け取り渋々サインをする。
「分かりました…し、しかし伯爵家やセアラ嬢を侮辱したのは私ではなく、息子のエルカルトです…!息子とは今日限りで縁を切りますので、どうか今までの援助金は…」
「ほう…つまり、悪いのはエルカルト殿だけだと…」
サインされた書類を受け取り、中身を確認しながら答える。
「そう、そうだ!その通りだ!私達もエルカルトには手を焼いていて…こちらも困っていた被害者と言いますか…」
「なるほど。そのように手を焼いている息子を優秀な息子と偽り伯爵家に押し付けたということですな」
「え、あ、それは…」
しまった!と言うように侯爵は必死に言葉を探しているようだ。
婚約が決まった時、エルカルトは博識で、領地での問題を解決した、家庭教師を驚かす程の神童だとか嘘八百の情報を伝えられていた。しかし、それは全て長男の話だったようだ。勿論すべてを鵜呑みにしたわけではなかったが、調べた所全て実際に侯爵領で起こった事や、相手が侯爵家であった事と、天災で困っている侯爵領に同情してしまった事で婚約を結んでしまったのだった。
「侯爵は私達に嘘をつき騙した。そして息子が過ちを犯すとすぐに責任逃れの為に息子を切り捨てようとしている卑怯者であり息子と同罪だ。侯爵にもきちんと責任は取ってもらう。息子の監視をしっかりしてもらい、侯爵領に貸した金も勿論返して貰う」
「そっそんな…!無理だ…まだ侯爵領は困窮していて…」
「分かっています。毎月少しずつで良い。勿論領民からではなく、自分達で働き返済する事が条件ですが。なぁに、今や貴族でも金は稼げる時代なのですよ。返済が滞ったり、エルカルト殿が娘の前に現れた時点で全額一括で返して貰いますよ」
父が一歩ずつ侯爵に近づくと、侯爵は一歩ずつ後退る。
「あ、今更取り繕ったり言い逃れはしない方が良いですぞ?この屋敷に入った時から会話の記録は取っていますし、念の為に婚約解消の証人の為に王宮から役人の方に来て頂いていたのです」
役人の方が礼をする。隠しているが物凄く眠たそうだ。夜通し馬を走らせて来てもらったのだろう…。金品を握らせたに違い無い…。
昨日今日の出来事でそんな事が果たしてできるのだろうか…。
父の行動力が恐ろしい。
侯爵はエルカルトと同じように膝から崩れ落ち、天を仰いだ。
「侯爵様とご令息がお帰りだ」
父の言葉と同時に、使用人達が素早く二人を運び出していく。
「セアラよ、相手の女性の事は言及出来ずじまいだったが…」
「良いのです。婚約解消さえできれば私には関係ありませんわ」
本当にどうでも良い。むしろ、シャティ様の事を言及して婚約解消までの道のりが伸びる方が大問題だ。
それに…何だか私の予想だとシャティ様とエルカルトは……。
いや、もう私には関係無い事だ。
「さぁ!セアラに相応しい婚約者を探さねば‼」
早速張り切る父に心の中で、次こそは下心の無い誠実な方を探してくださいと願うのだった。
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