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5.無能って…だれ?(エルカルト視点)
しおりを挟む父は机に手を叩きつけ立ち上がった。
な…なんだ?格下の相手に婚約破棄を言い渡してきただけじゃないか…。
「え、ええ。私がちょっと他の女性を褒めただけで婚約破棄したらどうかと言ってきたので…それならば婚約破棄しようと…」
私がそう言うと、父は頭を抱えた。かと思えば私に近づき、
「お前は!!この馬鹿もーーん!!!」
そう言って父は私を殴りつけた。
いっ痛い……!!
この綺麗な私の顔が……!!
父親にも殴られた事無いのにって…いや父親に今殴られたのか…!!
「ちっ父上…なぜ…」
「私がこの婚約を取り付けるのにどれだけ苦労したのかお前は知らないのだろう!!」
「そんな…うちは侯爵家で向こうは伯爵家で…侯爵家である私に結婚を望む家など沢山あるでしょう!」
「うちは今、2年前の天災で資源的にも経済的にも困窮している!!スティーカー伯爵は我が領民の事を案じてセアラ嬢とお前が婚約しているからと莫大な援助をしてくれているのだ!!そして何より無能なお前を婿取りしてくれる家など他にあるものか!」
「無能??」
無能とは誰のことだ!?思わず後ろに誰かいないか振り返る。
誰もいない…。ん?私のことか!?
「あまりにも長男のアレックスに劣るお前が可哀想で皆がお前を甘やかしてきたが…。私達の育て方が悪かった…良いか!!婚約破棄もお前が悪いに決まっている!!今日は日が暮れてきたので、明日!セアラ嬢に誠心誠意謝り、婚約破棄を無かったことにしてもらうのだ!!幸い書類等の証拠も無い為まだ間に合うだろう!!」
いやいや、嘘だろう?
私がセアラに頭を下げるだって…?身分が上のものが下のものに下げるだなんて聞いたこと無いぞ!?
「ち、父上!さすがにそれは…」
婚約破棄されて後で泣きついて来るなよ!と言ったのに…。
こちらが泣きつくなんて私のプライドが許さない…。
「ならばお前は援助してもらった1億ダリーを払えるのか?」
いっ、1億ダリー!?無理に決まってるだろ!
そもそも伯爵家、そんなにもお金持っているのか!?
そ、そういえば貴族には珍しく自分で貿易もしていると言っていたな…。
「うっ…でも…」
「煩い!ゴタゴタ言うな!!もしスティーカー伯爵家に婚約解消なんぞされたらお前とは絶縁するからな!!」
ぜっ絶縁?
そ、そんな……!嘘だろう?さすがに嘘……
あ、いや、この父上の顔は本気の顔だ……
あぁ頭を下げるなんて嫌だ……。
くっ…しかし背に腹は代えられない…。
シャティとのバラ色生活のためにも…ここはひとまず私が大人になって謝罪し婚約破棄を無かったことにしてやろう…。
セアラもきっと今頃、私に婚約破棄されて自分のこれまでの言動を後悔して枕を濡らしていることだろう…。少しは可愛げのある女になったかもしれない…。
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