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2.婚約破棄…?
しおりを挟むエルカルトに言わせてみれば、私は愛し合う二人を引き裂く悪魔らしい。
しかし、この婚約は親同士が決めたものであり、決して私がエルカルトを望んだ訳ではない。
むしろエルカルトの父親であるルーツベット侯爵が私の父に頼み込んできたものであった。
我がスティーカー伯爵領は経済的にも資源的に見てもルーツベット侯爵領より遥かに栄えている。
ルーツベット侯爵家の支援や繋がりがなくても何も問題は無い。
ただ爵位が侯爵家のほうが上で、断りきれなかっただけだ。
「そこまで言われるならば…私と婚約破棄をし、シャティ様とご結婚されたらいかがでしょうか。お二人の幸せを思って私は喜んで身を引かせて頂きますが…」
私がそう言うと、エルカルトは目を見開いて驚いた顔をしている。
今までずっと微笑みながら話を聞いていただけの私に思わぬ反撃をされて、エルカルトは明らかに動揺したようだ。
「だ、だから女の嫉妬は醜いと以前言っただ」
「嫉妬ではありません」
「はっ!強がって…。そんな事ができたらとうの昔にしている!この婚約はお前の親が泣きすがり頼み込んできたものだろう!?こちらは身分が下の伯爵家の跡継ぎになってやろうと言っているのに…生意気な女だ!」
「いえ、ルーツベット侯爵が私の父に頼みこまれたのですよ?エルカルト様に最愛の方がいるのならば、伯爵家の跡継ぎは別の方を探しますわ」
国内住みたい領地ランキング一位のスティーカー伯爵家の跡継ぎになりたい者はたくさんいるだろう。
「ち、父上が!?嘘だ!格下の伯爵家なんぞに父上が頼み込むわけないだろう!!」
「いえ、事実ですわ。それでどうするのですか?婚約破棄するのですか?」
私の目を見て、冗談では無い事を悟ったエルカルトがグッと狼狽えた。
「ほ、本当に婚約破棄するからな!!良いのか!?後で後悔しても知らないからな!後でやっぱり結婚してくださいって言って泣き縋ってきても絶対結婚してやらないからな!!」
残念ながらそのような予定は無い。
その言葉をそのままエルカルトに贈りたい。
「えぇ、結構ですわ」
「やっぱりお前は可愛くない!シャティなら可憐に泣いて縋りついてくるのに!!」
「はい。私にはとてもとても泣き縋るなんて事できませんのでお二人を応援致します」
「くそ!!婚約破棄だ!!覚えておけよ!!絶対後悔するからな!!」
……彼は一体いくつなのだろうか…。
私を指差して叫んで伯爵家の屋敷を飛び出して行ってしまった。
いやでもこれで婚約破棄ができる……!?
いやいや、ぬか喜びはいけない…!
そう思いながら、踊る心を落ち着かせながら父の執務室へ向かった。
執務室をノックする。
「セアラです」
「おぉ、セアラか。入れ」
父の机の上には多くの書類や、領民から貰ったお礼の手紙などが山積みだ。
我が伯爵領は栄えているが、それは貴族にしては珍しく父が民のために尽力しているからだ。
エルカルトがこの父の跡を継げるとは思わない。
「執務室に来るとは珍しいな。どうしたんだ?エルカルト殿が来てたのでは無いか?」
忙しいのだろう。父は手を止めることなく話す。
「はい。そのエルカルト様と…婚約を解消する事になりそうです」
「あぁ、そうかそうか、婚約解消な…。って!えっっっ!?」
父は持っているペンをへし折って驚いた。
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