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1.それならばお好きにどうぞ?
しおりを挟むある日の昼下がり。
「這いつくばって許しを乞う兵に、私は言ってやったんだ。次私の通行の邪魔をしたらその首すぐに刎ねてやる!ってな!!」
そう言ってガハガハ笑う節操の無い男。
悲しい事に彼は私の婚約者であるエルカルト・ルーツベット。
これでもルーツベット侯爵家の次男だ。
彼の良い所は整った顔と、身分、そして底知れぬプラス思考の持ち主だという所だけだ。
対する私は、スティーカー伯爵令嬢のセアラ。
エルカルトと結婚して、伯爵家を継ぐ予定だ。
しかし。
「はあ。何とか言ったらどうだ?シャティならもっと気の利いたことを言ったのに。シャティなら凄い!男らしいですわ、エルカルト様っ!なーんて可愛い事を言ってくれるぞ」
そう言って大きなため息をつくエルカルト。
本当に勘弁してほしい。顔に貼り付けた私の笑顔の限界が近い。
「あーあ。お前といると本当に退屈だ。シャティといればいつでも心躍るのに」
シャティ様とは、エルカルトの従姉妹で初恋の相手らしい。
そうなのだ。
私の婚約者であるエルカルト・ルーツベットは、毎度毎度顔を合わせる度に私をこのように彼の初恋の相手である彼の従姉妹のシャティ様と比べては私を貶めるような事ばかり言うのだ。
始めの方は、彼の理想であるシャティ様に近付けるよう努力をしてみた事もあった。
シャティ様はダンスが素晴らしいと聞いたので私がダンスの練習に一層励むと、
「なんだ?シャティの真似事か?そんなので私の気を引こうとしているのか…?シャティと私を馬鹿にするな!」
などと言われたり、ある時はあまりにもシャティ様を褒めて私の事を卑下するので、
「失礼ですが、あまり婚約者の前で他の女性の名前を出して褒められるのは一般的に言ってどうかと…」
などとやんわりと諌めると、
「はっっ!!本性を現したな!?女の嫉妬は本当に見苦しいな!悔しければ君も努力をすれば良いだけの話では無いか!?まぁ、シャティには遠く及ばないだろうがな!!」
と、斜め上を行く返しを貰った事もあった。
何を言っても、何をしても無駄だったので私も何もせず何も言わないようになってしまったのだ。
家の為の結婚とは言え、毎度このように言われては我慢の限界を迎えつつあった。
その時。
「あーあ。私は本当はシャティと結婚したかったのに!お前のせいで思い合う二人が引き裂かれた!!悪魔のようなやつめ!!」
私の中で何かがプツンと音をたてて切れた。
そこまで言うならばお好きにどうぞ?
ただし…どうなっても知りませんよ…?
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