上 下
21 / 35

21.隣国での1週間

しおりを挟む


隣国の視察中毎日、ユーリス様はこの国の事を案内してくれた。

1日目は美味しいケーキ屋へ。

「この紅茶…とっても珍しいですね。凄く香りが良くて美味しいです」

「この茶葉は種さえ手に入ればどんな土地や気候でも育てやすいので、比較的安価で手に入るのです。庶民の間でも人気のようです」

「こんなに美味しいのに、育てやすくて安価だなんて!我が国でも仕事が無くて困っている人に栽培を斡旋できたら…!」

「ふふ、私も同じ事を考えていて、既に種を確保して育て方も伝授して頂きました」

美味しいケーキやお茶を楽しみつつも、茶葉やケーキの材料について夢中で話しあったのだった。



2日目はこの国最大の川へ。

ここでは、我が国でもできる水害対策について何時間も話し合った。
ユーリス様は既に我が国でもできる対策の計画書も作成していて、国に戻ったら早速提案するらしい。

「凄い…!」

計画書を見せて貰って、その壮大な計画に驚く。

「ユーリス様は、私と違って被害を嘆くだけでは無く、こうして実際に行動していらっしゃって尊敬します」

ユーリス様に比べて私は何もできなかった。


「違います。私は貴女に出会うまで、領民の暮らしに目を向けてさえいなかったのです。幼い頃の貴女と出会って領民の事を思いやる姿勢に感銘を受けました。無知な自分が恥ずかしかった。こうして学び、行動できたのは貴女のおかげなのです」

そう言ってユーリス様が私の手を握ってくれたおかげで、自分の無力さが少し救われた気がした。



3日目は市場へ。


「なんて活気溢れる市場なのでしょう…!」

我が国の市場と比べて活気が全く異なる。
店数も多く、値段も随分と安い。

「ここでは、出店料が必要無いのです。ただ、儲けた額の割合に応じて税を納める事になっています」

我が国では決まった額の出店料を毎月払う事になっている。
その為、天候等によって売上が落ち込む時は出店料を払う事が出来なくて潰れてしまう店もある。


「このやり方なら、気軽に商売ができますし、出店する店が多くなればなる程価格競争が生まれて値段も安くなり、客も増え活気が溢れる」

そう言って目を輝かせて語るユーリス様の横顔をそっと見つめる。
彼はきっと自分の国の市場が変わる姿を想像しながら語っているのだろう。



4日目は孤児院へ。

「いらっしゃーい!見て行ってくださいなー!」

子ども達が楽しげな声で呼び込みをしている。


「孤児院で商売…?」

「ここでは不用品を回収して修理したり綺麗にして売っているのです」

我が国の多くの孤児院は貴族からの寄付で成り立っている為、領主によって大きな差がある。こんな風に自分達の力で生きて行く術が有れば更なる可能性が生まれて行くだろう。

「あっ!ユーリス様!」

1人の少年がユーリス様を見つけて嬉しそうな声をあげた。
すると他の子ども達も声をあげ駆け寄ってくる。

「ユーリスさま!この間くれた隣国の絵本、とっても絵が素敵でした!ぼく、隣国の言葉も勉強してるんだー!」
「ユーリスさま!また今度剣を教えてね!」

あっという間に子ども達に囲まれるユーリス様。
彼が子ども達に慕われている事は一目瞭然だ。
何と微笑ましい景色だろうと思いながら微笑ましく見つめていると、1人の女の子と目が合った。


「あれ!?お姫様がいる!もしかしてユーリスさまの恋人!?」


(ど、どうしましょう…!?)
子どもの無邪気な質問に戸惑う私を他所に、ユーリス様が笑顔で答える。

「そうだったら良いのだけれど…。今、恋人になってくださいってお願いしている所なんだ」

ユーリス様がそう言うと女の子達が「キャーッ」と盛り上がる。

その内の1人の5歳くらいの女の子が私に耳打ちした。

「ねぇ、ユーリスさま、とっても優しいよ。それにとってもかっこいいの。だから、おすすめ だよ!」



可愛らしい助言に思わず笑みが溢れてしまうのだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。

ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」  人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。 「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」 「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」  一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。 「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」 「……そんな、ひどい」  しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。 「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」 「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」  パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。  昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。 「……そんなにぼくのこと、好きなの?」  予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。 「好き! 大好き!」  リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。 「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」  パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、 「……少し、考える時間がほしい」  だった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。

hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。 明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。 メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。 もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。

ふまさ
恋愛
「……ごめん。ぼくは、きみではない人を愛してしまったんだ」  幼馴染みであり、婚約者でもあるミッチェルにそう告げられたエノーラは「はい」と返答した。その声色からは、悲しみとか、驚きとか、そういったものは一切感じられなかった。  ──どころか。 「ミッチェルが愛する方と結婚できるよう、おじさまとお父様に、わたしからもお願いしてみます」  決意を宿した双眸で、エノーラはそう言った。  この作品は、小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...