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18.宝箱
しおりを挟む「お父様、ユーリス様、申し訳ございません。ちょっと私この状況に全く理解が追い付いていなくて…」
本当に全く何が何だかわからない…。
なぜユーリス様が私を…?
「あ、あぁ申し訳ない。シャティア嬢、気持ちが先走ってしまいました。今日は日も暮れて来ましたし、明日またここに来ても良いですか?ゆっくりお話したいです」
そう言って捨てられた子犬のような目で真っ直ぐ見つめられたら…断る事ができない。
「私は…大丈夫ですが…」
そう言って父をチラリと見やる。
「勿論です、ユーリス殿。1週間ほどここの領主殿に世話になる予定なので、明日も明後日も明明後日も大丈夫です」
…お父様…何だかとても楽しそう…。
「それでは、また明日お伺いします。ハードラー子爵、シャティア嬢、領主殿、失礼します」
明日の約束を取り付けたユーリス様も少年のような笑顔をして去っていった。
パタン
と扉が閉まると同時に、隣からキラキラとした目線を感じる。
あまりにもキラキラしすぎて気付かないふりができない。
「お父様…」
仕方なくお父様の方を見る。
「シャティア…良かったなぁ…」
お父様…その目は結婚式当日にする目です…
喜びからか目を潤ませながら、ウンウンと頷いている。
「お父様、なぜユーリス様にあのような事を言ったのですか?ユーリス様も急に婚約解消の話をされて戸惑ったと思います。何だか気を遣わせてしまったようで…」
婚約者に立候補だなんて、同情から…?
「いや、私は昔からユーリス殿がシャティアと結婚してくれたらと思っていたのだ。しかし、ユーリス殿は無期限の留学に行くと言うし、そうこうしている間にレヨング伯爵家から婚約の打診が来て……チッ」
お、お父様、確実に今ダンテの顔を思い出して舌打ちをした…
「昔から、ユーリス殿はシャティアの事を好いていると思っていたが予想通りだったな!帰国したらすぐにマテリア伯爵に会いに行こう」
「ユーリス様が私の事を!?それはありえませんわ!だって…」
昔、マテリア伯爵家に行ってユーリス様とは何度かお会いしたけれど、全然顔を見て下さらなかったし、ほとんどお話もして貰えなかった。
てっきり嫌われているとさえ思っていた。
「お会いしてもあまりお話してくださらなかったし…」
お話してはくださらなかったけれど、とても柔らかく優しい方だとは幼い心に思っていた。
綺麗な石を見つけたと、ユーリス様の瞳と同じエメラルドグリーン色の石をくださった事もあった。
すごく嬉しくて、10年程経つが未だにその石は宝物箱に入っている。
思えば、私の淡い初恋だったかもしれない。
婚約が決まり、宝箱に鍵をかけた。
無自覚にも、石と一緒にこの気持ちも鍵をかけて閉じ込めたのかもしれない。
「ははは!シャティアは男心を全く分かっていないな。私は、シャティアもユーリス殿の事を好いているように見えたのだが…」
お父様が小さく笑う。
「シャティア、ユーリス殿との婚約は嫌か?」
お父様が微笑みながらも真剣な目で聞くものだから、鍵をかけたはずの気持ちが音を立てて開くような気がした。
次回、ユーリス視点…
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