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6.始動
しおりを挟むダンテとアリエラが去った後、何とも言えない空気が漂う。
「皆さま、大変お見苦しい場面をお見せしてしまい申し訳ございません」
そう言ってその場を後にしようとすると、
「シャティア様、良ければ帰りはご一緒させて頂けませんか?」
偶然、騒ぎを見ていた友人のマーガレット様が声をかけてくださった。
…確かに、今から家に連絡して迎えに来て貰うのには時間がかかる。
ダンテの馬車に乗るなんてもっての外だ。
私はマーガレット様のお誘いにありがたく受ける事にした。
「まぁ、お気遣いありがとうございます。お言葉に甘えてしまおうかしら」
「えぇ!ぜひそうしてください。近頃はゆっくりとお話する事も少なかったですし…シャティア様とご一緒できて嬉しいわ!さあ、行きましょう」
馬車に同乗させて頂き帰路につく。
「マーガレット様、お気遣いありがとうございます」
馬車に乗り一息つくと、改めて礼を言う。
あの場から自然に離れる事ができて正直とてもありがたかった。
「いいえ、それにしても大変でしたわね。以前からダンテ様とアバズレ様…いえアリエラ様は節操が無…いえ、必要以上に仲良くされているなぁとは思っていたのですが」
やはり周りから見ても異常な距離感だったのだろう。
いやそれにしても可愛らしいマーガレット様の口から紡がれる言葉としてはあまりにも似合わない言葉が何度か聞こえたような…
「もし、何かお力になれる事がありましたらおっしゃってくださいね!証言でも何でもしますわ」
そう言ってマーガレットは私の手を握り微笑んだ。
「ふふ、ありがとうございますマーガレット様。とても心強いです」
自宅に到着し、マーガレット様の馬車を見送る。
家に着きまず私が向かったのは、父の部屋だ。
執務室の扉をノックする。
「お父様、ただいま帰りました。今お時間よろしいでしょうか」
「あぁ、おかえりシャティア。どうかしたのかい?」
父は夕日を背に、終わらない書類に目を通しながら答える。
背丈も大きく、熊を素手で殴り倒してしまいそうな強面だが、好きな食べ物はイチゴ、趣味は詩を詠む事の優しい父だ。
「お父様、知り合いの御令息のお話ですが…」
「あぁ」
父は本当に忙しいのだろう。手を止めずにどんどんと書類を捌いていく。
「婚約者がいるのに、婚約者を蔑ろにして他のある特定の女性と仲良くしていたり…あ、学園内で腕を組んだりと触れ合いも多々あります」
「許せんな。浅はかな男だ。男の風上にも置けん」
出来上がった書類の束を執事に渡し、次の束に手を伸ばす。
ちなみにお父様は昔からお母様一筋の超愛妻家だ。
「婚約者が特定の女性と親しくするのはやめて欲しいとお願いしたら、心が狭いなどと逆に責められたり…その女性からは彼は私の事が好きだとか何とかマウントを取られたり…」
「うん…?その女性も何やら問題がありそうだな。いや、それにしてもやけに具体的だな…」
父の手の動きが遅くなる。
「挙げ句、大勢の人の前で彼女を虐めるな、見損なったなどと事実無根の言いがかりで責められました」
「られ…ました?なっ何、まさかその令息とは…」
父が立ち上がる。
「えぇ、ダンテ様の事です。婚約者はもちろん私です」
バキィッ
父の手に握られたペンが真っ二つに折られる。
「うぉのれぇ…ダンテのやつ…私の天使で女神で可憐で可愛いシャティアを邪険にだとぉ…?」
父は超が付くほどの愛妻家で…
もちろんその愛する妻が産んだ娘である私をもの凄く溺愛している。
「お父様、私とダンテが婚約解消となれば困る事はありますか?」
「無い!!!!むしろレヨング伯爵向こうから頼み込まれた婚約だ!!困るのは向こうだ!シャティア、ダンテとその女性について教えてくれ。後は私に任せておきなさい。シャティアが望むならば婚約解消もしよう!いや、婚約解消しなさい!!」
「お父様、ありがとうございます」
そうして、ダンテとアリエラの学園での様子。
今までの態度、今日学園であった事など事細かに報告する。
話している間にペンが何本犠牲になったかは数えない事にした。
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