2 / 35
2.嫌悪感
しおりを挟む「シャティア!」
一日の授業が終わり帰る準備をしていると、教室の入り口からダンテが笑顔で私の名を呼んだ。
「ダンテ様」
基本的に、婚約者がいる令嬢は婚約者が家まで送り届ける事が多い。私達も例外ではなく、今日も馬車乗り場まで2人並んで歩く。
「シャティアは凄いな!前回の試験もまた学年で1番だったんだって?」
「そんな…得意分野からの出題だっただけですので…」
こうして2人で何気無い話をする時間は、政略結婚とはいえ、良い関係を築く為に大切な時間だ。
「シャティア、お手をどうぞ」
「ありがとう」
ダンテの手を取り馬車に乗り込もうとした。
が…。
「お昼ぶりですわね!シャティア様!」
「ア…アリエラ様…」
なんと信じられない事に、既にアリエラ様がダンテの馬車に乗っていた。
「アリエラ!?なぜ君が馬車に乗っているんだい??」
ダンテも知らなかったようで驚き、御者の方を見る。
すると御者がしどろもどろに答える。
「あ、あのダンテ様…。アリエラ様がダンテ様とお約束しているとおっしゃるので乗せなさいとおっしゃって…」
この様子を見ると、アリエラ様に半ば無理やり乗り込まれたのだろう。
お気の毒に……。
「だって…お友達は皆婚約者に送って貰っているのに私だけ1人で帰るなんて…寂しいんだもの!ね、良いでしょう?ダンテ…」
そう言ってダンテをうるうると見つめるアリエラ様は可愛らしく、いかにも男性が好きそうな女性だ。
確かにアリエラ様の婚約者のコニール様は卒業され学園にはいない。
しかし、年の離れた婚約者を持つ方、領地が離れているなどの理由で婚約者に送っていただく事ができない方はたくさんいる。
「いやぁ…えっと…」
ダンテは困った様子でチラリチラリと私の方を見ながら返答に困っている。
(ま…まさか助け舟を出せと…⁉︎)
自分の幼馴染なのだから自分で何とかしてもらいたいものだが、このような人通りの多い所で揉めているのは外聞が悪い。
ふぅ…
と小さくため息をつき、なるべく穏やかな声でアリエラ様に語りかける。
「アリエラ様、幼馴染とはいえ婚約者がいる男性の馬車に許可無く乗られる事は少しいかがな事かと…」
私が婚約者に蔑ろにされているという噂が出回ってしまうと、我が家にも迷惑をかけてしまう。
いや、もう十分今まで散々に蔑ろにされているのだが…。
「そっそんな…!そんな冷たい事を言うなんて…酷い!シャティア様は私とダンテの仲を疑っているのですか?シャティア様は嫉妬からそんな事を言うのね!?私、大切な幼馴染の婚約者様と仲良くなりたいだけなのに…!」
うぅっと出てもいない涙を拭いながら用意していたかのようなセリフを吐くアリエラ様。
「そ、そうだな!アリエラはシャティアと仲良くしたいだけなんだ…。シャティア…良いよな…?」
……。
なぜ私が反対している事になっているのだろうか…。
私が、ダンテとアリエラ様に嫉妬??
確かにダンテとは婚約者であって、政略結婚だが良い関係を築いていく事ができればと思ってはいるが…。
嫉妬……?
いや、この2人に抱いている感情は嫉妬なんかでは無く。
(嫌悪感だわ。)
すっかり悪者を見る目の2人に気付かれないように小さくため息をつき、笑顔で答える。
「…そんな、私が決める事ではありませんわ」
そう言ってダンテの馬車に乗り込み、アリエラ様の迎えに座る。
そしてダンテも馬車に乗り込み。
なぜか婚約者である私ではなく、アリエラ様の隣に座るのだった。
408
お気に入りに追加
7,245
あなたにおすすめの小説
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
【完結】婚約者がパーティー中に幼馴染と不倫しているところを目撃しましたので、知人の諜報部隊が全力で調査を始めました
よどら文鳥
恋愛
アエル=ブレスレットには愛する婚約者がいた
だが、事故で帰らぬ人となってしまった。
アエルが悲しんでいる中、亡くなった弟のブルライン=デースペルとの縁談の話を持ちかけられた。
最初は戸惑っていたが、付き合っていくうちに慕うようになってきたのだった。
紳士で大事にしてくれる気持ちがアエルには嬉しかったからだ。
そして、一年後。
アエルとブルラインの正式な婚約が発表され、貴族が集うパーティーが開かれた。
だが、そこで事件は起こった。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる