上 下
6 / 7

6.男運

しおりを挟む


「ん?何だか怯えた様子で出て行ったな、あの男。体調でも悪いのか?」

天然なのかマイクさんが首を傾げる。

「ふふっ、マイク。グッジョブよ。貴方の顔を見て恐れ慄いて鼠が逃げて行ったわ」

フルールさんが笑って親指を立てると、マイクさんはショックを受けたようだ。

「えっ!?えぇっ!?そ、そんなに俺は怖い顔してますかねぇ…」

店に置いてある鏡を覗き込んで自分の顔を触りながら確認している。
なんだろう…この人可愛い…。

はっ!!!それどころでは無くて…!!

「フルールさん…。本当にごめんなさい…!」

急いでフルールさんに謝り頭を下げる。

アルベルトは、私とフルールさんが歩いている所を見てフルールさんに目をつけてしまった。
私の男の見る目が無いせいで変な男とフルールさんを関わらせてしまった。

「実はさっきの男は、恥ずかしながら私の元恋人なんです。以前私がフルールさんと2人でいる所を見てフルールさんが運命の人だとか言い出して…頭がおかしい奴なんです…」

「さっきの男が私の運命の人ですって?確かにそれは頭がおかしい奴だわ。エリスも大変ね」

とんでもない迷惑をかけられているのにも関わらず、怒るどころか私の事を心配してくれるフルールさんは控えめに言って女神だ。

「大丈夫よエリス。貴女のせいじゃ無いわ。私も大概男運が無いのよ。もう前の夫なんてほんっっっっとうに最低最悪の男で…っと…。この話を始めたら、小説にすると25話くらいになってしまうわ…」

こんな完璧な女性なのに男運が無いなんて…。
むしろそんな小説があれば一度読んでみたい気もする…。

「でも…」
「まぁ、私も過去に変な男に捕まったからエーリクっていう最高の夫に出会えたんだけどね!エーリクは今仕事で2週間ほどいないけれど、警備も雇っているし私は大丈夫よ」

そう言って微笑むフルールさんはとっても可愛い。
エーリク様とは、フルールさんの旦那様で凄腕の元騎士様だ。何度かお会いしたけれど、それはもう美男美女でお似合いすぎる夫婦だ。



「私よりもエリスの方が心配だわ。そうだわ、マイク。貴方エリスを気にかけてあげるようにして?ちょうどエリスにマイクを紹介しようと思っていたのよ。彼はマイク。ブティックフリージアお抱えの製糸工場の長を任せているの」

…工場長!?
失礼だけども、取り立て屋かギャングのリーダーか…そちらの方にしか見えない…。

「マイクです。エリスさんですね?フルールさんに聞いていますよ。とても素晴らしい作品を作られると。これから共に仕事ができて嬉しいです」

そう言って差し出された手を取り、握手する。
それはそれは逞しい手で、それに加えて強面なのに、不思議と怖くない。むしろ、とても温かい。

「エリスです。精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」

「はい、俺が作った糸でエリスさんがレースを作る。楽しみですね!」

そう言ってニカっと太陽のように笑うマイクさんに、不覚にも見惚れていた私の事をフルールさんがニヤニヤして見ていたのを私は気づかなかった。



















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

裏切られたのは婚約三年目

ララ
恋愛
婚約して三年。 私は婚約者に裏切られた。 彼は私の妹を選ぶみたいです。

愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」 先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。 「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。 だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。 そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。

縁談相手が愛しているのは私ではない別の女性

ララ
恋愛
「君のことは好きになれそうにない」 初めての顔合わせで、縁談相手は私に言う。 どうやら彼は他に想いを寄せている女性がいるみたいで……

偽りの最愛でした

ララ
恋愛
ずっと好きだった幼馴染と婚約し、私は穏やかな幸せの中にいた。 しかしそれは嵐の前の静けさに過ぎなかった……

婚約者の幼馴染に階段から突き落とされたら夢から覚めました。今度は私が落とす番です

桃瀬さら
恋愛
マリベルは婚約者の幼馴染に階段から突き落とされた。 マリベルのことを守ると言った婚約者はもういない。 今は幼馴染を守るのに忙しいらしい。 突き落とされた衝撃で意識を失って目が覚めたマリベルは、婚約者を突き落とすことにした。

あなたはその人が好きなんですね。なら離婚しましょうか。

水垣するめ
恋愛
お互い望まぬ政略結婚だった。 主人公エミリアは貴族の義務として割り切っていた。 しかし、アルバート王にはすでに想いを寄せる女性がいた。 そしてアルバートはエミリアを虐げ始めた。 無実のエミリアを虐げることを、周りの貴族はどう捉えるかは考えずに。 気づいた時にはもう手遅れだった。 アルバートは王の座から退かざるを得なくなり──。

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

大好きだったあなたはもう、嫌悪と恐怖の対象でしかありません。

ふまさ
恋愛
「──お前のこと、本当はずっと嫌いだったよ」 「……ジャスパー?」 「いっつもいっつも。金魚の糞みたいにおれの後をついてきてさ。鬱陶しいったらなかった。お前が公爵令嬢じゃなかったら、おれが嫡男だったら、絶対に相手になんかしなかった」  マリーの目が絶望に見開かれる。ジャスパーとは小さな頃からの付き合いだったが、いつだってジャスパーは優しかった。なのに。 「楽な暮らしができるから、仕方なく優しくしてやってただけなのに。余計なことしやがって。おれの不貞行為をお前が親に言い付けでもしたら、どうなるか。ったく」  続けて吐かれた科白に、マリーは愕然とした。 「こうなった以上、殺すしかないじゃないか。面倒かけさせやがって」  

処理中です...