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33 破壊と絶望の先を知る魔王

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 強い魔力が集まった一室。
部屋前には誰も警備は居ない。かろうじてその部屋に通じる下の階、階段入り口に白い制服を身に纏った騎士達が物々しく警備に当たっている。
一度は部屋の前で警備をするという話ではあったのだが、レンの眷属2名上位魔族1名の集まりで魔力に酔い気分を悪くする者ばかりで配置が変更された。
 




「ーーそういえば、レン様は破壊活動をやめられた様ですね。」
「あぁ、半年ドラゴンの住む山を平野に変えたり自分に敵意を向けた国を即日滅ぼしたりしていたな…。八つ当たりの様にだったが、最近は自身の手で彼女を殺められた場所でぼんやりと過ごしている様だ。彼女が死ぬ前に住んでいた家に住んでいると報告を受けた」
「彼が昔ゆな嬢の護衛に就いていたヨハン・テイルの妹を救ったと報告があったのだが、真偽の程はどうなのだ?」


 予想外に早く王位を譲り受けた若き王が報告書を見ながら事実確認を求める。
彼はこの魔力の渦の中でも平気なのは、魔力中和する古代の魔道具を付けているからである。


『それは確かですヨ。主様の様子を探らせていました配下から「番様が死ぬ前まで一緒に暮らしていたヨハンという者の妹の精神を回復させた」と報告を受け、直ぐに向かいましたら泣きながら抱き合っている兄妹を見つけることが出来まシタ。』


 
 全く姿の変わらないメセラダが長い脚を組んで報告する間、片腕の袖がゆらゆら揺れる。
魔族はあれからもずっと静かに鍛え、レンの役に立てる日が来るのを待ち続けている。
レンが現れた事で人を襲う事もなくなった魔族。多くの人々は未だに力を持った魔族を恐れるもののレンがいることによって保たれている平穏だと気づいている者も多く、傍若無人・悪辣非道であるにも関わらずレンに感謝をしている人達もそれなりにいた。


「そう言えばレン様が持ち帰られたゆな嬢の日記を読ませて頂いた事があるのだが、彼女はヨハン・テイルに恩義を感じておったな。ここを出る時かなり通訳の報酬を渡したが、心を患ったあの者の妹と一緒に暮らして恩返しをする為に働いていた様だな。…レン様はゆな嬢の日記に書いていた望みを叶えようとしているのだろう…」

「今更になって殺めた事を後悔しているという事なのでしょうか?ーーーそれより、なぜレン様が日記を総長にお見せになられたのですか?あの日記はずっとレン様が亜空間に収納していて手に持っている時ですら片時も離さないのに…」



 配下であるノーヴァンも一度も見た事が無かったゆなの日記を、総長だけが読めた事にノーヴァンは驚きを隠せない。



「レン様は人間の考えが理解出来ないと、ゆな嬢の気持ちを翻訳してくれと言われたのだ」
「翻訳…いつの話なのですか?」
「ーー10日前だったか?もう何年も我らの前に姿を見せなくなったのにいきなり現れて驚いたぞ。日記やゆな嬢がレン様の番である可能性をお伝えしたら狼狽しておられたが、ふらふらと立ち上がり日記を持っていなくなった。ゆな嬢が元の世界で生き返っている可能性を伝えようと思ったのだが、全くこちらの言葉に反応を示す事なく立ち去れてしまったーーはぁ…。」


「ゆな嬢の気持ちを汲んでヨハン・テイルの妹を回復させたのか?」


 国王デュオルは視線をテーブルに落とし、理解出来ていて欲しいと願う気持ちも入り混じりに呟いた。


『そうであるかも知れないシ、違うかも知れないデスガ。理解出来たとしても恐らく番様の星と時間の流れが違うでしょうカラ、番様は主様の事を覚えておいでかが問題ですネ…夢と思い込めばすぐ忘れるでしょうカラ』

「早くゆな様の気持ちを理解していれば、そんな心配も無かったのでしょうに…」
『魔族は長命故に人間の短命を憂慮することは無いですからネ。少し関わった人間がいつの間にか死んでいても名も覚えて無い事がほとんどですヨ。虫の寿命が短くても気にしないのと同じデス。』


 重い沈黙が部屋を包む。


『それから以前主様が番様を何故気付かなかったのか、魔王城に残っている多くの文献を読み解きましたらわかりましタヨ。ずいぶん昔に同じ様なことがあったそうで、住んでいた星が違うと魔力の質が異なる為に完全に魔力を注ぎ込まなければ判別がつかない様でス。』


「その者も召喚されたのか?」
『いいえ。暇つぶしに色んな星を渡り歩いている魔王が、たまたまこの星で番の魔族にあったのですヨ。最初は全く気付かず何か惹かれるものが有ったのか眷属にしようとしていた様デス。暫くすると旅人の魔王は自身の番だと言い出し、お互い激しく愛し合った後番を連れて自身の星に帰ったと記されてありまシタ』

「同じ星ならこんな事にはならなかったのだね。…ゆな嬢を失った悲しみで再び破壊衝動に駆られなければ良いのだが…この前の彼の咆哮で全ての近隣国が我が国に『大丈夫なのか』『何かあったのか』と緊急の書状が送られてきていてね…」



 魔族との考えの違いをメセラダが淡々と説明し、対応に追われている国王デュオルは大きなため息を吐いた。また、それを聞きバレンスもノーヴァンも深いため息を吐いた。


「早く迎えに行かねば、ゆな嬢も伴侶を得て幸せに暮らしている可能性があるだろうな」


 総長がつぶやいた瞬間、凍える様な冷気が部屋を覆った。



『ーーーなんの話だ?ーーーー』



 本能的にその場にいた全員は、ここで何か失言をすれば自身の命…それ以上にこの国が終わる可能性を感じ息を飲む。




「…レン様、ゆな様が生きているのなら会いたいですか?」



 ノーヴァンが意を決して口を開きレンに問いかけたが、恐怖で喉が渇き思った以上に声が出なかった。



『ーー我が消した。ミュナはいない…。そうだミュナはおらぬのだ……』


 レンの心を表す様に魔力がレンから溢れ出し渦を描き始める。
荒れ狂い始めた魔力に釣られたのか先ほどまで晴天で合った窓の外は、真っ黒く重い雲が集まり小雨が降り出したと思えばあっという間に窓を叩きつける雷雨に変わった。


 4人はレンがゆなに対しての眷属以上の気持ちを抱いている事を確信した。


「ーーやっとレン様はゆな嬢の事を唯一として好きなのだとご理解下さいましたか?」


 みんなの気持ちを代表してバレンスがレンに尋ねる。







 レンは消えそうな程、静かに呟いた。




 『ーーーーーーーミュナに…逢いたいーーーーーーーー』





 バレンスは一縷の望みをレンに伝えるべく口を開いた。







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