30 / 34
29 終焉を招く魔王を観察する者達
しおりを挟むミュナを手に掛けた直後からレンは荒れ始めていた。
毎日ミュナの書いた日記を読み、理解出来ず苛立ち歯向かってきた人間を片っ端から消していた。
魔王と公言していないにも関わらず、多くの城勤めの者達はレンの事を魔王と陰で呼びいつ自分の元に火の粉が飛んで来るかと戦々恐々としていた。
国政には手出しはしなかったが、王族の血を引いた女性やご機嫌取りに言い寄って来た貴族令嬢達は全員苛立ちの吐口とばかりにボロボロになるまで抱き潰した。数日前まではレンの伽を務められるのは一種のステータスであったが、今では人身御供として同情される様になった。しかし上手くいけ王族に恩を売れるからと政治の駒としてしか子を見ない親にレンの夜伽を命じられ、国から逃げ出す令嬢まで出てくる始末である。
流石にここまで来ると暗殺者も頻繁に送られて来るようになったが、レンに毒を盛っても毒程度で死ぬ筈もなかった。剣を向けた者達は不機嫌なレンに一瞬で消され、意見する事が誰も出来なくなっていた。
レンの周囲だけ無法地帯と化していた。
貴族達は国王をレンの事で王座から降ろそうという動きもあった。しかし、降ろした所でレンに対抗する術は無かった為に思いとどまっていた。そして、その雰囲気を感じ取っていた国王は今の状態で、王座を若いディオルに任せるには荷が重いと考え、貴族が離れつつあった王族に対する求心力を上げる事に奮起した。内政が混乱しレンの対処を考える時間すら無い状態である。
他国も魔王を倒したカロンド国に親善大使を送って友好関係を持とうとしていたが、内政が急激に不安定になった事によって見送り事態を注視している。
♢♢♢♢♢
重苦しい空気が漂う中に4人の男達が集まっていた。
「………やはり、ゆな様を国外に出すべきでは無かったですね」
「まさか、手に掛ける程関係が拗れていたとは思っておらんかったな…」
魔術団総長の執務室で総長とノーヴァンが頭を抱えていた。
「3日で既に14名があの者の手によって亡くなっておるのだ。早急に解決策を考えねば…」
『あの御方が本気を出せばこの星などあっという間に消し炭なのですから、目についた害虫を始末する程度良いでハないデスカ』
疲弊した国王とさもレンが人々を殺害するのが普通であるかの様に魔族のメセラダは、紅茶を優雅に嗜みながら話に混ざる。
「それでは魔王の様では無いか」
「え・・・?総長殿が陛下にレン様の事伝えてますよね?私は言ってないですけど…」
国王の言葉にノーヴァンは目を点にしていた。
「「は?」」
総長は既に知っていると思っていたが国王は寝耳に水であった。
レンを召喚してから目まぐるしい忙しさで何を報告して何を報告していないのか、全員大体でしか把握していなかった。国王に報告していることも全て一から説明を総長が行った。
「で、どうするか。このままでは本当にこの星から生物が消え失せるやも知れんぞ」
改めて全て聞き終わった国王は手の打ちようがないと、絶望感を通り越しどこか悟りを開いた様な表情になっている。
「ゆな嬢を自分が手に掛け、喪失感を埋めようと欲望の赴くままに無意識に行動している可能性があるのではと考えているのです。」
「そのゆな嬢はレン様が跡形もなく消したのであろう?一体どうするのだ…」
「生き返らせる方法が一つだけあります。これです。」
ノーヴァンはテーブルの上に布に包んだ物をそっと置いた。
優しく布を広げると腕輪のような物が出てくる。
「これは最近ゆな様のお陰で用途の分かった古代魔道具のアンクレットです。バレンス総長がゆな様に餞別として渡した物です。」
「そう、これは私がゆな嬢に渡した物。これには位置特定魔法と魂保護の魔法が付与されています。レン様がゆな嬢を追いかけて国を離れた後、急いでこのアンクレットに付与されている位置特定魔法で向かいましたが既にレン様もゆな嬢もおりませんでした。しかしこれだけは草むらの中で発見する事が出来ました。」
「その魂保護魔法で生き返るのか!?」
国王はテーブルに身を乗り出して総長に詰め寄る。
「いえ、それは無理です。身体が有れば可能ですがそれが無いので無理です」
「期待させおって…」
国王は失望の色を隠せない。
「国王、身体が有れば可能なのです。」
「ん?だから身体がないでは無いか」
『成る程。あの者は異世界から渡ったのでしタネ。それならばこの星で死すれば強制的に元の世界に身体が引き寄せられている可能性があるという事ですネ』
例えるならば水銀のようである。上から分けて溢したとしても下に受け取る器が有れば、また一つにくっ付く。死んでからの異世界転移の場合、魂を受け取る器が存在しないので戻っても魂は死んだ場所に堕ち地面に吸い込まれ留まり続ける事しか出来ない。
「そんな事があるのか!?」
「異世界から渡ってくる者はたまに現れますが、大抵は元の世界で亡くなった者たちです。しかし、中には何でもない状態で道が開かれ迷い込んでくる者たちもいます。」
「そして『旧原始の魔術書』の翻訳でも迷い込んだ者たちは元の世界に帰る事が、出来ると書かれておった。」
「それがこの星で死する事であったか…」
「ーーそうなのです。流石にゆな嬢に死んだら戻れるとは言えんかったのだ。だが、身体は戻っている筈だから後はこの魔道具に入っているであろう魂を引き寄せられる道を開き送る」
「じゃが、それではレン様に合わせられんでは無いか?」
『…私が思うニ、主様は他の星にも転移出来る力を有しているのでは無いカト。』
「んんー…。しかし、アンクレットを使わなければ自然に元の世界に戻ったのでは無いのか?」
国王は話の途中から気になっていた事を問う。
「レン様は魂をも消します。私は以前から薄らと魂の色が見えておりました。魔力の色が魂に結び付いているからだと思われるが、それがレン様の配下にして頂いてしっかりと見えるようになったのです。通常亡くなった者の魂は静かに空に向かって溶けていくのだが、レン様が斬りかかってきた刺客を消し飛ばした時魂も身体と一緒に消し飛んだのだ」
バレンス総長がその時の光景を思い出しながら国王に説明する。
ノーヴァンは魔術師では無いのでこの事は知らなかったが、本能的にレンに殺される事は完全なる死を感じとていた為に驚きは無かった。
『ふム。しかし還すなら早い方が良いでショウ。還し終わった後で主様を番様の世界にどうやって誘導させるか考えるのが最善デハ?』
「まさか、前魔王の配下と今後の事を話し合う事になろうとはたった数ヶ月で色々起こり過ぎだわい。早く王太子に任せてしまいたい…」
「この件が片付かないと無理だからの」
「………はぁーーーーーーーーっ」
国王の心底疲れたような長いため息が部屋に響いた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる