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【閑話】魔王城
しおりを挟む一体が瘴気に満ち、薄暗い森の中にそびえ立つ魔王城。
魔王城と言っても巨大な鏃の様な形をした岩に穴がボコボコと空いている。
そこから魔族が出入りしている様だ。例えるならば蟻塚が1番近い。
その最奥に魔王のいる玉座がある。
「お前さんの所為で折角ゆな嬢が翻訳してくれた魔術書を、じっくり読む事が出来なかったではないか。全く若いもんは他人の迷惑を考えずに勝手に巻き込みおる・・・」
顔の前に掛かった自分の茶色い髪を、かき上げる精悍な顔つきのバレンス魔術団総長は不満げだ。
彼の魔法であっという間に王都から南に住まう魔王の根城までノーヴァンと共に移動してきた。
「え?私の所為ですか??」
ノーヴァンは思っても見なかったとばかりに戯けて見せる。そのノーヴァンの制服はいつもと違う。
普段着ている騎士団の制服は白いのだが、今着ている制服は真っ黒で赤いラインが入っている。
バレンス魔術団総長と形は違うがお揃いである。ノーヴァンが「レン様の配下として同じ様な戦闘服が欲しい」と総長に言って無理矢理魔法で作らせたのだ。
「当たり前だろうが!!私が昨日夜会であった事を知らないと思っているのか?お前が魔王城に行って魔王の首を取ってくると言ったのだろうが!!!」
呆れた表情をしていた総長は魔族の縄張り内に入った事により、四方八方から襲いかかって来る魔族や魔物を片手で魔法陣を展開しながら薙ぎ払っていく。
「私が昨日魔王城に行くと申しましたところ、ゆな様が明日総長に魔術で連れて行って貰って日帰りで帰ればと良いのではと気遣って仰って下さいまして。レン様も総長の今の魔術の腕が知りたいと仰られましたので、私の所為ではございません」
「いや、お前の所為だろう」
ノーヴァンはレンから魔王以外は生かしておけとの命令を遵守し、再び立ち向かってこない程度に傷を負わせている。しかし、魔族は身体が丈夫なので良い加減が今ひとつ掴めず瀕死レベルの怪我を負わせている。流石に魔族達も自分達では歯が立たないと悟り、隠れて様子を窺う者も現れ始める。
その間どんどんと足を止めずに奥へと進んでいく。
「大体お前が魔族1匹仕留め損なった事が1番の原因では無いか。それを棚に上げ・・・」
「・・・済んだ事をネチネチと・・・。私は褒めて育つ性格なんです。気を遣って下さい」
「退官目前の私に気を遣わず、休日に労働する事になった諸悪の根源に何故私が気を遣わにゃならんのだ!!」
漫才の様なテンポの良い掛け合いを続けながらあっという間に、魔王の元までたどり着いた。
『貴様らか・・・、我の配下達を消しているのは・・・』
「総長ー」
「仕方ないな。ほら」
『ーーーー待てっっ!!!話をしておらっーーーーーウグァッッッ!!!』
総長が魔術で魔王をあっという間に拘束し魔封じの魔術を掛け、直後にノーヴァンが剣を抜き跳ねる様に魔王に向かうと全てが終わった。総長が魔術で約束の物を回収し帰ろうと転移の魔法を使うところで、何者かが急接近してきた。
2人にその影が届く瞬間にノーヴァンは血塗れの剣を動かしていた。
「ん?貴方は昨日の討ち損ないでは無いですかっっ!!!」
急接近してきたのは昨晩の夜会でノーヴァンが仕損じた片腕を失った魔族メセラダだった。
メセラダの首に剣の刃を当てていたノーヴァンは、普段は笑顔でもやや濁った目をしているのだがこの時ばかりは瞳が光を取り戻した。普通の状態ならば良い兆候だが、今の状況だと完全に相手にとって好ましくない変化であった。
命の危険を感じたメセラダは急いで誤解を解かなければと背中に冷や汗が流れる。
『わっ、私はもう貴方方とは戦うつもりはございませンッッ!!ご容赦を願いに参った次第なのデス!!』
「しかしなぁ・・・魔王は各国に3000人毎年生贄を用意せよ脅迫する位だからなぁ・・・いつ寝首を掻かれるやも知れんし信じるには値せんな」
『そ、それは魔王様がお決めになられたこと・・・我らは力の強い者に従うマデ・・・』
石の上に腰を掛けたバレンス魔術団総長があくびをしながら口を挟む。バレンスは早く帰りたいのでノーヴァンの蟠りだったメセラダを早く始末させたい。その雰囲気をメセラダも感じ自身の置かれた状況がいかに脆い物である事を再認識してしまう。
「・・・。まぁ、今回は見逃しますよ。主が魔王以外は生かしておけと仰られましたので。我主からの言伝です。『余計な事をすると魔王城ごと消す』との事です。生きたければ遵守する事をお勧めします。」
ノーヴァンは伝え終わるとメセラダの首から剣を離すと、メセラダは恐怖で立っていられず地面に崩れ落ちる。メセラダは片腕の肘でなんとか上半身を起こすと、剣が顔のすぐ横を通り過ぎ地面にザックリと刺さる。地面に刺さった剣を見つめたまま動けないメセラダを影が覆うと耳元で囁かれる。
「私としては余計な事して頂いた方が好都合なのですけど・・・ね?」
『ーー滅相もございまセン!我ら魔族は強い者に従いマス。故に貴方様の主様の考えに従いマス』
「・・・そぅ?ま、それでも良いですけど」
「終わったのだな、帰るぞ!!」
言葉と共に掛けられる威圧感は魔王イヴィーレ以上であった。
しかし、ノーヴァンもバレンスもレンの配下でしか無い。レンにとってはこの星に住まうモノ全てが等しく弱いのである。魔族は強者から弱者に転じた。そして既にレンは自分が動かずにこの星を支配してしまったのだ。話が終わるや否や、帰りたいバレンスがすぐに転移魔法陣を展開して魔王城から去って行った。
『帰った?』
『・・・』
『あぁ・・・』
大きな力が去った後、岩場の影から黒い大きな翼の幼女事リルルと黒子装束の様な出立ちの魔族ベアルが姿を見せる。
『あれを従えている者がいるとは・・・』
『魔王様が亡くなった今どうしたものカ・・・』
『メセラダが言った通り従うしか無いじゃん。アタシは強いなら別に気にしないし』
『その様だナ。我らである程度の魔族をまとめ、あの者の主とやらに何らかの命を受けた際は動ける様にしておくとシヨウ』
『このままではお役に立てないのでは無いのか?』
『圧倒的にさっきの奴らと比べてもアタシら弱いもんね』
『全ての魔族を一から鍛え直ス!!』
魔王がいなくなった日魔族は、軍隊の様に規律正しく厳しい集団に生まれ変わった。
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