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8 同僚だった貴族
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ただのストーカーになろうとしていた男の話。読んでも読まなくても良い話。今回は土曜のみで3話
______________________________________________
「坊っちゃま、今日こそはお供を付けてお出かけくださいませ」
休日1人で出かけようとしている貴族の男を執事が止める。
「父上に何か言われましたか?」
「旦那様は何も・・・。私は心配しております。数年前にあちら様から婚約の解消を願われて以降の女性関係を正さねば、旦那様がこのまま何もしないとは思えませんっ!どうかお改めください!!」
「あぁ、分かった。じゃあ行ってくる」
「坊っちゃま!!!」
執事は仕えている主人の三男を止める事は出来ず、出て行った扉をやるせない思いで見ていた。
「アイツは本当馬鹿だね。父上がこのままアイツを置いておく筈無いのに。子爵家の一員としての努力を怠り他家と繋ぐ役割も果たせない。通訳の仕事も散々だと報告が入っているよ。それに、あれだけ女と関係を持っていたら認知しろと言ってくる女が出てくるのも時間の問題だろう。早々に片付けるよう父上にお伝えしておくべきだろうね。」
「お、お待ちください!!それでは余りにもっっ!!」
「言っておくけど私は十分期間を与えていた筈だよ?アイツへの情を切り捨てないと、お前も父上に捨てられてしまうよ?」
「ーーーっ!?・・・慎みます・・・」
執事が玄関を去った後、子爵家嫡男は扉を冷めた目で一瞥し父親がいる書斎に向かった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「(・・・父上が私の事を見捨てているのは生まれてからだ。今に始まった事じゃない。きっと近いうちに追い出されるだろうな・・・。どっかの女の家に転がり込めばいいか・・・)」
この子爵家三男は通訳官として城で働いているが、賄賂を渡して入ったうちの1人である。しかし、彼は頭が悪い訳では無い。自身が長男として生まれなかった為に家督は能力ではなく、必ず長男が継ぐこの世界では全てを諦めてしまいいつしか勉強をしなくなっていったのだ。
どんなに頑張って良い結果を出しても、父親にも母親にも関心を持たれないけれど問題を起こせば必ず父親に叱責される。叱責されるのは嫌だがよくない事をすれば存在を認知されている気になり、ずっと女遊びや問題行動を続け終いには父親に何も言われなくなってしまった。
その時自分は完全に見捨てられたのだという事実を受け止めた。
「(ーーあれは)」
城下街の商店ひしめく地区に見知った女性を見かけた。
その女性は入って間もない通訳官の平民の同僚女性で実は男はこの女性が少し気になっていた。その女性は貴族しかいない通訳官の職場でつまらない日常の捌け口にされていたが、彼女は心折れる事なく毎日出仕していた。自分なら毎日毎日殆どの同僚から嫌がらせや中傷されていたら、既に3日で来なくなっていたなと思いその女性を観察する様になっていた。
上司にどんな素性なのかを聞いたらすぐに聞くことができた。王都に身内も知り合いもなく田舎から推薦でやって来たという。
自分は家もあり金もあり仕事も金で買った。何もしなくても全てが手に入ったが両親の愛と家を継ぐ事は叶わなかった。彼女から見ればきっと「たったそれだけ」と思われそうな事だけで勉強出来る環境も持てた人脈も捨ててしまった。
彼女の事を余りにも見ていたせいか、彼女の仕草・彼女の声・中傷された時などに僅かに揺れる瞳の感情すら覚えてしまった。雪の中にぽつんと咲いた儚い花の様な女性だと感じ、貴族の男は彼女の事を神聖なものの様な感覚すら覚えた。
「(・・・その男は誰なんだ・・・私を騙していたのかっ!)」
目の前には自分よりも遥かに冴えない男と手を繋ぎ歩く同僚の姿。たまに男に話しかけている彼女は職場では一度も見たことのない、屈託のない笑顔で笑いかけていた。
髪の色も顔も全く似ていない事から考えると、身内が遊びに来ているという事でも無いだろうと考える。
「(・・・いや、たまたま道を聞かれて案内しているのかも・・・)」
2人の後を尾行していくと、2人は寝具屋に入って行った。しばらくし待っていると大きな荷物を抱えて出てきた。彼女が持っていた荷物を持ち、少し何か話していると急に彼女は男を急かす様に早足で商店地区から去って行く。それを再び尾行すると古いアパートに2人で入って行った。
「(・・・ここが彼女の家なんだろうな・・・。同棲しているのか・・・穢れない清らかな女性だと信じていたのに・・・)」
男は挨拶くらいしか交わした事のない同僚に対して、勝手なイメージを押し付け勝手に失望し勝手に許せないという激しい怒りに駆られる。
「(ーーーー私を裏切った事を後悔させてやる!!)」
同僚の女はこの男の名前すらまだ覚えてない。その程度の関わりしかないのである。
♢♢♢♢♢♢
翌日いけしゃあしゃあと出仕して来た女性が職場のドアの前に来た時に合わせてドアを勢いよく開け、肩で思いっきり故意でぶつかる。女性はぶつかった反動で大きくよろけて尻餅をつきムッとした表情で見上げてくる。
私は今日初めて他の者達に加わり傷付ける側に回ったのだ。中傷すると今まで他の者達に加担する事のなかった私が先陣切って悪意ある言動をぶつけて来たことに彼女は驚いている様だった。
みんなにも男がいる事をバラして中傷する燃料を追加する。みんな私が追加した燃料にどんどんと焚き物をくべた。中傷の炎で炙られた彼女は悲しげな表情でぼんやりとしていた。その表情に自分を裏切ったからだと蔑む気持ちと、自分は何をしているんだという虚無感で心の中が掻き乱される。
「そうそう、お前今日で解雇になったから」
「え・・・」
「(ーーえ?)」
同僚が放った言葉に思わず自分も声に出してしまうところだった。この同僚の伯爵四男が勝手に上司に解雇する様に言ったらしい・・・。なんで勝手にそんな事をっ!!それじゃこれからここで彼女に会えなくなるじゃないか!!あのアパートに行かないと彼女に会えなくなるなら、ここを辞めてあのアパートの前に引っ越して彼女を見張らないと・・・。
男が悶々とこれからの事を考えていると爆風と共にガラスが飛び散り男の背中に刺さった。
深く腕や背中に刺さり朦朧とする中、彼女はどこかに行こうと勢いよく立ち上がった後ろ姿が見えた。彼女を引き止めようと手を伸ばしたものの無情にもその手は空を切り、そのまま彼女は振り返らず立ち去った。心の中は「行かないでくれ」「置いていかないでくれ」「他の者の元へ行かないでくれ」「私だけを見てくれ」と叫び続けた。
「(ーーーあぁ。私は彼女の事が好きだったのか・・・)」
男は遅すぎる自分の気持ちに気付いた瞬間意識を手放した。
閉じた目から一筋の涙が溢れ落ちた。
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「坊っちゃま、今日こそはお供を付けてお出かけくださいませ」
休日1人で出かけようとしている貴族の男を執事が止める。
「父上に何か言われましたか?」
「旦那様は何も・・・。私は心配しております。数年前にあちら様から婚約の解消を願われて以降の女性関係を正さねば、旦那様がこのまま何もしないとは思えませんっ!どうかお改めください!!」
「あぁ、分かった。じゃあ行ってくる」
「坊っちゃま!!!」
執事は仕えている主人の三男を止める事は出来ず、出て行った扉をやるせない思いで見ていた。
「アイツは本当馬鹿だね。父上がこのままアイツを置いておく筈無いのに。子爵家の一員としての努力を怠り他家と繋ぐ役割も果たせない。通訳の仕事も散々だと報告が入っているよ。それに、あれだけ女と関係を持っていたら認知しろと言ってくる女が出てくるのも時間の問題だろう。早々に片付けるよう父上にお伝えしておくべきだろうね。」
「お、お待ちください!!それでは余りにもっっ!!」
「言っておくけど私は十分期間を与えていた筈だよ?アイツへの情を切り捨てないと、お前も父上に捨てられてしまうよ?」
「ーーーっ!?・・・慎みます・・・」
執事が玄関を去った後、子爵家嫡男は扉を冷めた目で一瞥し父親がいる書斎に向かった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「(・・・父上が私の事を見捨てているのは生まれてからだ。今に始まった事じゃない。きっと近いうちに追い出されるだろうな・・・。どっかの女の家に転がり込めばいいか・・・)」
この子爵家三男は通訳官として城で働いているが、賄賂を渡して入ったうちの1人である。しかし、彼は頭が悪い訳では無い。自身が長男として生まれなかった為に家督は能力ではなく、必ず長男が継ぐこの世界では全てを諦めてしまいいつしか勉強をしなくなっていったのだ。
どんなに頑張って良い結果を出しても、父親にも母親にも関心を持たれないけれど問題を起こせば必ず父親に叱責される。叱責されるのは嫌だがよくない事をすれば存在を認知されている気になり、ずっと女遊びや問題行動を続け終いには父親に何も言われなくなってしまった。
その時自分は完全に見捨てられたのだという事実を受け止めた。
「(ーーあれは)」
城下街の商店ひしめく地区に見知った女性を見かけた。
その女性は入って間もない通訳官の平民の同僚女性で実は男はこの女性が少し気になっていた。その女性は貴族しかいない通訳官の職場でつまらない日常の捌け口にされていたが、彼女は心折れる事なく毎日出仕していた。自分なら毎日毎日殆どの同僚から嫌がらせや中傷されていたら、既に3日で来なくなっていたなと思いその女性を観察する様になっていた。
上司にどんな素性なのかを聞いたらすぐに聞くことができた。王都に身内も知り合いもなく田舎から推薦でやって来たという。
自分は家もあり金もあり仕事も金で買った。何もしなくても全てが手に入ったが両親の愛と家を継ぐ事は叶わなかった。彼女から見ればきっと「たったそれだけ」と思われそうな事だけで勉強出来る環境も持てた人脈も捨ててしまった。
彼女の事を余りにも見ていたせいか、彼女の仕草・彼女の声・中傷された時などに僅かに揺れる瞳の感情すら覚えてしまった。雪の中にぽつんと咲いた儚い花の様な女性だと感じ、貴族の男は彼女の事を神聖なものの様な感覚すら覚えた。
「(・・・その男は誰なんだ・・・私を騙していたのかっ!)」
目の前には自分よりも遥かに冴えない男と手を繋ぎ歩く同僚の姿。たまに男に話しかけている彼女は職場では一度も見たことのない、屈託のない笑顔で笑いかけていた。
髪の色も顔も全く似ていない事から考えると、身内が遊びに来ているという事でも無いだろうと考える。
「(・・・いや、たまたま道を聞かれて案内しているのかも・・・)」
2人の後を尾行していくと、2人は寝具屋に入って行った。しばらくし待っていると大きな荷物を抱えて出てきた。彼女が持っていた荷物を持ち、少し何か話していると急に彼女は男を急かす様に早足で商店地区から去って行く。それを再び尾行すると古いアパートに2人で入って行った。
「(・・・ここが彼女の家なんだろうな・・・。同棲しているのか・・・穢れない清らかな女性だと信じていたのに・・・)」
男は挨拶くらいしか交わした事のない同僚に対して、勝手なイメージを押し付け勝手に失望し勝手に許せないという激しい怒りに駆られる。
「(ーーーー私を裏切った事を後悔させてやる!!)」
同僚の女はこの男の名前すらまだ覚えてない。その程度の関わりしかないのである。
♢♢♢♢♢♢
翌日いけしゃあしゃあと出仕して来た女性が職場のドアの前に来た時に合わせてドアを勢いよく開け、肩で思いっきり故意でぶつかる。女性はぶつかった反動で大きくよろけて尻餅をつきムッとした表情で見上げてくる。
私は今日初めて他の者達に加わり傷付ける側に回ったのだ。中傷すると今まで他の者達に加担する事のなかった私が先陣切って悪意ある言動をぶつけて来たことに彼女は驚いている様だった。
みんなにも男がいる事をバラして中傷する燃料を追加する。みんな私が追加した燃料にどんどんと焚き物をくべた。中傷の炎で炙られた彼女は悲しげな表情でぼんやりとしていた。その表情に自分を裏切ったからだと蔑む気持ちと、自分は何をしているんだという虚無感で心の中が掻き乱される。
「そうそう、お前今日で解雇になったから」
「え・・・」
「(ーーえ?)」
同僚が放った言葉に思わず自分も声に出してしまうところだった。この同僚の伯爵四男が勝手に上司に解雇する様に言ったらしい・・・。なんで勝手にそんな事をっ!!それじゃこれからここで彼女に会えなくなるじゃないか!!あのアパートに行かないと彼女に会えなくなるなら、ここを辞めてあのアパートの前に引っ越して彼女を見張らないと・・・。
男が悶々とこれからの事を考えていると爆風と共にガラスが飛び散り男の背中に刺さった。
深く腕や背中に刺さり朦朧とする中、彼女はどこかに行こうと勢いよく立ち上がった後ろ姿が見えた。彼女を引き止めようと手を伸ばしたものの無情にもその手は空を切り、そのまま彼女は振り返らず立ち去った。心の中は「行かないでくれ」「置いていかないでくれ」「他の者の元へ行かないでくれ」「私だけを見てくれ」と叫び続けた。
「(ーーーあぁ。私は彼女の事が好きだったのか・・・)」
男は遅すぎる自分の気持ちに気付いた瞬間意識を手放した。
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