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1 異世界転移した女
しおりを挟む遠くまで広がる様な青空。
気が付けば見知らぬ土地にいた。山の中腹だと思う。
記憶を失って知らない土地に辿り着いた訳では無いのは間違いない。
本当にいきなり知らない場所にいたのだ。
小説なんかで頬をつねるなんか絶対やらないだろうと思っていたのに、驚きすぎて手の甲を爪で捻ってしまった。
どうして知らない場所かと分かったのかと言うと、私がいた世界で竜を実際見た事なかったけれど先程目の前を飛んで行った。岩場に身を潜め隠れてやり過ごす事が出来たので胸を撫で下ろす。
「ふぅ・・・」
さて、これから身分保証も出来ない状態でどうしたものか?
一応元の世界の身分証明書はあるけど役に立ちそうもない。
連休なので近くの山に登山をするつもりで家を出たので飲み物やお菓子、パン、お弁当や上着等持っているので少しは生きながらえそうな事だけが救いである。
「(流石に得体の知れない生き物から隠れつつ進むのはしんどい・・・)」
このままではどうしようもないので取り敢えず町か村を探すことにした。
空気は凄く美味しいけれ ど、澄んだ空気と裏腹に心は不安で澱んでいる・・・。
しばらく森の中を歩き続けると畑を耕している年配女性を発見する事が出来た。
足が既に棒の様になっている為に、走ろうと思っても足がガクガクして変な小走りになってしまう。
「あの、すみません。道に迷ったのですが、ここはどこですか?」
「あれまっ!!こげな田舎にお貴族様が見えた!!」
畑を耕していた女性は目を剥き耕す手を止めた。
女性の大きな声に近くにあった小屋から男性が出て来た。
「どげぇした!?ーーこげな田舎にこげな別嬪さんが!!女神様かぇ!?」
「あんたアホ言うでねぇ!!このおべべ見んさい!!お貴族様のお嬢さんじゃろて」
「(うーん、どう見ても洋風な片田舎だからきっと翻訳されているんだろうねー・・・にしても凄い訛り・・・)」
「お貴族様がこの辺りにくるんは、中々珍しぃでなぁ。道に迷うたゆーてもなぁ・・・お貴族様の住んじょる街はこっからえれー離れとるでなぁ・・・。」
「一応こん道伝いに歩いてきゃ、人がよーいる町に出るでよ。そっからお貴族様のお屋敷を目指した方がええでねーか?」
「そだな。お前さんこんお嬢さんば近い町まで連れていかんね」
「ん。こげな別嬪さん歩かせとったら人攫いに遭っちまうでな。行ってくるで」
どうやら年配夫婦の間で話がまとまった様で、なんと送ってくれるらしい。
「よろしいのですか?」
「なんもせんと心配で仕事が手につかんでな!!」
農夫は作物を町に運ぶ荷馬車で送ってくれた。
荷馬車は特にクッションの様な物も無かったが、歩くよりは100倍増しなので特に気にはならなかった。しばらく広大な景色を楽しんでいると荷馬車の速度が遅くなり停車した。
着いた町は素朴な町で特に賑わっている様子もなく、生きて行くためだけの町にといった感じである。
ここまで連れて来てくれた年配男性は、そのまま直ぐに家に帰るとの事であったので感謝を伝える。
「今お返しできるものが少なく申し訳ないのですが、宜しかったらこの菓子パン奥様と召し上がってください」
疲れた時に食べるつもりで買っていた複数入った薄いパン生地の白餡パンを渡した。あんぱんは外国の人は苦手な人もいるらしいから少し心配ではある。
この白餡パンは生地が薄いからもしパンと豆が無理だったら別々にして食べて貰えたら良いと思う。
夫婦に一旦は断られたが「何もしないで別れる私の心苦しさを汲んで頂きたい」と伝えると受け取って貰えた。荷馬車の姿が見えなくなるまで見送ってから町に入った。
異世界に来て一番最初に出会った人たちが良い人で良かったと心から思う。
再び一人になった私は町でここよりも大きい街に行く方法を聞きに回る。
聞き回った結果、ここから馬車で半日程度の場所に大きい街があると言う。
馬車で半日程度なら恐らく1日と半日位で着けるのではと思っている。
なんせスポーツ自転車やバイク、自動車じゃないのだから。
ママチャリの方が早いと思うし。
治安の問題は心配だけれどお金を持っていないのにこの町にいたってしょうがない。
それならば進むしかないと思う。夜がどれだけ冷え込むかは心配だけれども、遭難した際の備えは持っているしダメなら不眠で耐えるしかない。
「や、やっと・・・辿り着いた・・・」
結局丸2日かかってしまったけれど、盗賊などには遭遇しなかった事は運が良かった。
それから棒のようになった足で役所に行ったりして身分登録や仕事を探した結果、通訳として公の職場で働かせて貰えることになった。
すると急遽決まった他国との商談の席で、その国の言語を通訳出来る者が出張していていない為に新人の私に仕事が回って来た。
ここは一つ成果を上げてお給金と信頼値を上げねばと奮起する。
お給金頂くまで無一文ですからね・・・。
制服は支給してもらったので良かったけど、ご飯は週一回周辺の森で食べられそうな果物を取りに行ってどうにか凌いでいる。下着は石鹸で手洗いして乾燥した地域なので室内干しで乾かしている。女子力なんてもう知らない。翌日は乾いてるから、今は乾燥が大変ありがたい。早くお給金欲しい・・・前借りしたいけどここはやってないらしいし・・・。穀物食べたい。お肉食べたい。
なんとか、無事に契約をまとめる事ができた。
「いやぁ、君が入ってくれて良かったよ!!!危うく大きな商談を他の領地に取られてしまう所だった。もし失敗していたら領主様に罰を与えられていただろう。君は命の恩人だよ!!何か望みがあったら出来る限り叶えよう」
今回の仕事の責任者の男性の執務室に呼ばれて要望を聞かれた。大袈裟なと思いつつも折角なので遠慮なく私は今1番の希望を口にする。
「え?じゃあ、お給金の底上げお願いします!!!」
「給金の事かぁ・・・それは私の管轄では無いんだよ。すまないね・・・。特別手当を出す事なら私でも出来るのだけれどそれではダメだろうか?」
「特別手当とかすぐ使っちゃいますよー。それより定年後の事を考えて給金底上げの方が遥かに嬉しいです!!!」
「随分若くない事を考えているのだね?分かった。私から伝えておこう」
そう言って貰って数日後、まさかの栄転です!!
どうやら私だけのお給金底上げは難しいらしく、それならばと同じ職業でもお給金の良い王都のお城で働く事が決まってしまった。若干、こんな怪しい女をお城で雇って大丈夫ですか?と心配してしまう。やめられたら困るから言わないけどね。
王都に移動して、出仕する様になったのだけれど・・・通訳出来る人が結構多かった。そんなに通訳の仕事もないのに働いている人は多い。供給過多状態である。
よくよく考えれば貴族はある程度の国の言語勉強しているわなと、そこでやっと気付いた。
彼らも仕事があまり無いので、暇で仕方ないからか平民というストレスの捌け口を見つけて喜んでいる様で毎日私に絡んでくる。それに貴族ばかりでプライドが高く、平民の新人女性なんかに任せたくは無いのだろう・・・全く仕事が回ってこない!これはパワハラなのだろうか?でも別に異世界言語が分かるのは空気吸ってるのと同じ感覚だから努力したわけでも無いし、何もしなくてもお給金貰えるなら私はそれでも良いんだけどね・・・。
働かざる者食うべからずとか言うし働く事が生きる事って言うけど、ぶっちゃけ好きな事だけして生きていたいし誰かが衣食住用意してくれるなら働きたく無い訳で・・・。勤勉な国生まれとは思われない様な性格ですが、何か?
あれ?私、窓際族なのか?まぁどっちでも良いや。のんびりヨーロッパの様なお城を楽しもう!!ヒャッホー!!
しかし1か月経つ頃には余りにも暇だったので城にある図書館で翻訳作業を買って出た。通訳の同僚のいる部屋は妬み嫉みで気疲れするので人のいない図書館に篭ろうと思ったからだけど。カッコいい装丁の本にテンションは上がり、益々図書館に引き篭もってしまう事になった。
このまま図書館で本読みながら生きていこうかなー・・・。魔術塔の横にある庭誰も来ないからサボってもバレないしね~。本当良いサボり場所見つけたわ。
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