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1章 

29 フォルテム王国民からミジュア王国民へ

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頭が睡眠不足でぼんやりしているセフィールは、川で桶に水を汲むとクールの魔法で氷水の様に冷やしそれで顔を洗い頭から水を被った。

 「よし!!今日はみんなで町に行くんだからしっかりしないとな!!」

自身に言い聞かせる様に気合を入れルークの家に戻ると身支度を整え、村の錬金術師達を連れ昼前には出発し日の高い内にアイヲン町に辿り着いた。

 「おぅっ!セフィールじゃないか!!今日はまた大人数だなぁ・・・」

今日の門番はゼルであった。

 「全員村の錬金術師なんです。昨日4人ギルドに登録したので、今日は残りの3人を登録する為に来たんです。」

 「残りの3人って割にはそれ以上いるみたいだが?」
 「昨日登録した2人も連れてきているんです。もしかしたら、すぐに領主様に与えられた仕事に取り掛かろうと思ったんで・・・。」

 「あぁ!もうここの領民になるって決めたって事か?良かったな!ーーと、一応仕事だからなギルドで発行した証明書ある者は一応提示してから入ってくれ。まだ作ってない者はここに名前だけ書いたら行っていいぞ。」

ギルド未登録のエミリア達が用紙に名前を書き始めた。

 「ゼルさん、お仕事お疲れです。では、また。」
 「セフィールちょっと待ってくれ。兵士長から伝言頼まれてるんだ。」
 「兵士長さんから?」
 「この前お前がやったチタンのコップ滅茶苦茶気に入っててさ、毎日職場で使ってるんだけどさ無くならない様に毎日大事に布に包んで持って帰るんだ、あの兵士長が。でな、俺がお前に会ったら『セフィールに礼を伝えてくれ』って。」
 「それ、ゼルさんが『兵士長が礼を言っていた』ってだけで良かったんじゃ・・・?」
 「え?セフィールも兵士長のお茶目な話聞きたいんじゃ無いかと思ったんだけど?」
 「兵士長さんをあんまり揶揄うと可哀想ですよ。」

ゼルはセフィールやルークに素で話す様になっており、随分俺達にも遠慮無くなったなぁとセフィールは話しながら感慨に耽った。

 「良いの良いの。セフィールやルークみたいに軽く話せる奴が兵士長には必要だから。セフィールも遠慮しないで兵士長に絡んで良いからな?
 「?」

何か兵士長にあるのかな?と思ったが、3人が名前を書き終えルークがみんなを連れてギルドに向かって進み出したので話を切り上げルーク達を追った。


♢♢♢♢♢♢


 「ほう、皆様に錬金術をセフィール殿がご教授するのですか?それは良いことです。皆様が一定以上の腕を振るえるのならば、安定したお給金も領主様から出して頂けますからな。この人数なら普段ギルドが定期的に講習会を行う部屋で十分でしょう。しばらく使用の予定も無いですからお使いください。」


町に泊まっていた年長者のカルロとナディアも合流し商業ギルドに着いて、ポドムさんに錬金術の勉強会について話すと快く場所を提供してくれた。ギルド未登録の3人も無事に登録し終わり、村人全員が晴れてミジュア王国の国籍も同時に取得する事が出来た。

続いて、受付のカイルが説明を始める。

 「領主様の用意する錬金術師の方々のお住まいがご用意出来るまでギルドの仮眠室にお泊り頂いて結構ですのでご利用ください。食事は仕事を行って頂くまで各々でお取りください。仕事開始時からは食堂がご用意されますのでそちらでお取り頂く事になります。何かご質問はございますでしょうか?」

 「ポドムさんカイルさん、色々ご親切にありがとうございます!俺達がここにいる間、建物の修復作業なんかあったら言って下さい。大抵のものは直せるので。」

 「おおっ!それは有難い!!早速だが明日にでも屋根を修復して貰えんか?最近雨漏りがあってな。」
 「修復なら今からオレがやろう。終わったらセフィール先生に見てもらいたい。」
 「キールさんがやって下さるんですね。ありがとうございます。では終わったら確認に行きますね。」
 「おおおおおおお!!!これは有難いっっ!!すぐに取り掛かってくれるとは、んんんっっ・・・1人はギルドに残って頂きたいですなぁー・・・。領主様に話してみますかな・・・。」

キールが早速地下に案内され去っていった。残った8人とクロとアオは一旦仮眠室にそれぞれ荷物を置いた後、今後の話し合いをする為に使用許可が降りた部屋に集合した。

 「これからの方針なんだが、折角この町に居るんだからこの町の人が直したくても直せない物とか、欲しいけど物理的に難しい問題を錬金術で解決しながら勉強していって欲しい。本職が治せる物や物理的に可能な物はやらない様にする。」

 「良いと思うわ。実際やる方が勉強になるものね。」
 「道なんかは領主様に許可がいるじゃろうな。町長にも話をしておかんとな。」
 「勿論、俺が見ているから失敗しても問題ない。安心して取り組んで欲しい。取り敢えずは・・・商業ギルドを錬金術で改装して良いか聞いて、もし可能ならまずはここで練習する。」
 「うっわ!面白そうっっ!!おっさんに聞いてくるっっ!!」

ルークはセフィールの返事を聞く前に部屋をあっという間に出て行ってしまった。
すぐにルークが戻って来たが、その手にはポドムの腕を引っ掴み連れて来ていた。

 「ルーク・・・ギルド長に聞くだけで出たんじゃ・・・」
 「話すのがめんどくさくなって、セフィールに説明して貰おうと思ってさ!」

 「「「・・・・・・」」」

その後ポドムに事情を説明し快諾して貰えた為、早速明日から取り掛かることにした。
ちなみにポドムは「他の町のギルドが羨む様なギルドを期待している!!」と軽やかな足取りで去っていった。

 「セフィール先生、ここに居たのだな。すまんが俺の修復した屋根を今から見て貰えないだろうか?」

 「あ、すぐ行きます!」
 「俺もキールが錬金術で修復したの見てみたいから行くっ♪」
 「わっ私も行きますわっ!!」
 「ワシらは危ないからやめとくわい。」

年長者とマリー以外はみんな見たい様でセフィールについて来た。

 「おー!流石修復師キール!全くどこやったか分かんね~わ。」
 
ルークが言う様にキールが修復した屋根は見た目は完璧に修復出来ていた。セフィールは屋根に手を置き屋根に魔力を繋ぎ確かめる。

 「中の日々も完全に修復出来ています。素晴らしいです、キールさんって修復完璧なんですね!」
 「良かった。オレはフォルテム王国にいた時は鍛冶屋で修復だけ仕事させて貰っていたんだ。錬金術最初から作るのは苦手なんだが修復は得意だ。」
 「・・・。じゃあ、ポドムさんから許可もらっているので屋根から変えていきましょうか。キールさんがやっているのでここはキールさんにやって貰いましょう。」
 「え?先生、なんの話をしているんですか?」

 「今からチタンの精錬作業と加工をキールさんにやって貰いますね。では、取り敢えず下に降りてチタンの精錬と両手広げた位の長さのチタンの薄い板を40枚位作ってください。」

 「セフィールがまさか悪魔だったとは・・・。」
 「もっと優しく教えてくれると思っていたけど、人は見かけによらないわねぇ・・・。」
 「お、オレ耐えられるかな・・・。」
 「まぁ、あれだけ独学で完璧な錬金術が出来る様になる位だもの、並大抵の努力でどうこうなるもんじゃ無いわ。努力を努力と思っていないヤバい奴の可能性が高いわよ・・・。」
 「ど、どうする?僕無理だよ・・・。」
 「んー・・・まぁ、なんかヤバそうだったら俺が言うからさ。」
 「それなら、頑張ってみる・・・。」
 「リーダーのサポート頼んだわよ?ルーク。」
 「任された~。」

ルーク達から離れた所でキールが精錬作業を行う隣で、セフィールが何やら熱心に指導している様子が目に入る。



セフィールの知らぬ所でルークが友人としてセフィールとみんなの意思伝達が、円滑になる様に助力しようと心新たに思っていた。





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