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1章 

28 人に教える事(後半賢者サイド)

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夕方、年長者2人を宿に残し4人の商業ギルド登録を済ませたルーク達が帰ってきた。
夕飯を2人と2匹で食べながら、今日あった事をルークに話した。

 「そうだな、それはキールのおっさんの言う事が正しいな。俺も欲しい素材以外の石をバラバラ落としてそっから作ってたから、セフィールと比べて質の悪い鉄が出来てたのか・・・。」

 「おっさんって・・・。いやまぁそうか・・・。ルークから見たらそうなのか・・・。じゃあ・・・ユーリから見て俺も・・・。」
 「何ぶつぶつ言ってんだセフィール。で、明日全員行くんだな?俺、シュウとミランダに伝えてくるわ。」
 「ルーク、もしかしたらしばらくここに帰ってこない可能性もあるから、それも2人に伝えてくれ。」
 「おうよっ!!じゃ行ってくる。」

明日の用意もあるので食べ終わるとすぐに、2人に伝えにルークが行った。
セフィールはルークが外に行っている間にスキルを発動した。

 
  『            ユーリ

     明日、村の錬金術師達を連れて隣町に行くんだ。
    フォルテム王国では錬金術をろくに教えられる人が居なかったみたいで
    錬金術が中途半端だって事が分かったんだ。
    俺は学校に行っていなかったから独学なんだけど、俺の錬金術の精度が
    良いらしくてみんなに教える事になったよ。でも、歳下の子は良いけど
    歳上の錬金術師の先輩方に教えるのが心配だ。
    こんな学校にも通っていない錬金術師に教わるの嫌じゃないかな?
    
    
          ユーリに会いたい
                       フィール     』



つい、弱音を書いてしまい、最後癒されたい気持ちまで垂れ流してしまう。人に教える事に不安を感じため息を吐き、そのまま何も考えずに送信した。
直後、直ぐにユーリから返信が届いた。


  『            フィール
     
     あー、フィール学校に通って無かったんだ。
    それでみんなに教えられるか心配なんだ?でも、私が割合教えただけで
    すぐステンレス鋼作ったよね?もうそれだけで、天才だと思うけど
    不安なの?年齢の事でいうと、私フィールより歳下だけど
    私から教えられるの不快だったりする?それだったら仕方ないけど
    違うなら、フィールの錬金術の腕は確かなんだからみんな嫌じゃない
    んじゃないかなと思うんだけど?

     じゃあ、フィールが会いにきてね?待ってるね!
                           ユーリ     』



読み終えた所で家のドアが開いた。ルークが帰ってきたので慌ててスキルを消したがニヤける顔はそう簡単に直らない。セフィールの顔を見たルークはギョッとした顔をした。

 「・・・セフィール早く寝た方が良いんじゃないか?」
 「あっ、ああっ!!そうするよ!!おやすみ!!」

怪訝な顔で早い就寝を勧められたセフィールは、ルークに間借りしている部屋へと戻って行った。

部屋に入ったセフィールはもう一度スキルを開き最後の一文を何度も読み返す。
アオはもう床で眠っており、クロはそんなセフィールを呆れた目で一瞥した後セフィールの脇に伏せ眠った。
セフィールはも窓に寄り、翠星に今晩は『ユーリに逢えます様に』と数回願ってから就寝した。




♢♢♢♢♢♢




ーーがうっ

ーーきゅうー

アオとクロの声に目が覚めた。するとそこは既に真っ白い空間であった。
願いが叶ったのだとセフィールは、目を閉じて暖かく感じる空間に向かって走った。

近いと思い目を開けた時に目に入ったのは、胸だけを包んだレースの付いた白い肌着とお揃いの生地のパンツを履いたユーリであった。ユーリも走ってきたセフィールに気がつき、一瞬目を見開き驚いた様子であったが満面の笑みに変わった。
目を閉じて走った為勢いが抑えられずに、間隔を取れず下着姿のユーリの目の前に立ってしまったセフィールは笑顔のユーリにぎゅっと抱き締められた。

 「フィール、本当に会いに来てくれたんだね!!嬉しいっ!!大好きっ!!」

 「あ、あぁ・・・。俺も大好きだ・・・。」

頭の中は既に別の事でいっぱいになっているセフィールは、ユーリの話は上の空で生返事しか出て来ない。

 「そうだ!フィールは天才肌だから元素とか私が以前説明しただけで解ったんだろうけど、普通の人は多分解んないんじゃないかな~?どう説明するの?」

 「・・・え、あ、今日話したのは粗方不純物を取った後に更に、空気や紛れている鉄以外の金属を除去するって事を言ったんだけど・・・どう言って良いか良くわからなくって・・・。」

ユーリに抱きついたまま質問を投げかけられ、やっと意識が戻ってきたセフィールはなんとか答えた。

 「そう・・・。空気かー・・・。私達が吸う空気はOっていう酸素の原子が2個くっ付いてO2っていう分子になるんだけど、その2個くっ付いた分子を吸い込んでいるんだって。そして、吐き出すのはそれに炭素の原子Cがくっ付いてCO2っていう二酸化炭素になって出てくるんだよ。不思議だよね~人間の体内で錬金術が起こってるよ~。植物も太陽の光を浴びてCO2を取り込んでO2を出すんだから植物も錬金術してるよねっ!」

 「その内容文章にして送ってくれないか!?」

ユーリの肩を掴み上半身を少し引き離し、セフィールは食い気味に頼んだ。
しかし、セフィールはユーリの上半身を少し離した事によって、再び現状を思い出してしまった。

 「分かった!!任せといて!!元素が分かりやすく載ってる画像送信できるか試して見るけど、出来なかったらセフィールが必要そうな元素を文章にして送るね!!」

 「・・・あ、あぁ。すまないが頼む。」

ーーがうっっ

ーーきゅうっっ

 「あ、もう時間みたいだ・・・。」

 「じゃあ前回と同じく抱き締めてお別れしよっか?」

 「あ、・・・あぁ・・・そうだな・・・。」

ユーリがセフィールの背中に手を回して来たので、意を決してセフィールもユーリの背中に腕を回して抱き締めた。一瞬ユーリがビクッとしたが、そのまま抱き締める手に力を込めた。
前回と同じく黄緑色の光に包まれ間借りしている部屋に戻った。
ユーリを思い出すと余り眠る事が出来ず、翌日のセフィールは寝不足になった。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



自分の部屋に戻った有理は下着姿のまま、赤面して耳まで赤くなった顔を手で覆いしゃがみ込んだ。

 「あぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!!!」

有理はセフィールとのメールのやり取りの後、一旦外に出て北極星に会える事を願ってから家に戻った。夢で会える様にシャワー浴びたら直ぐ寝ようと、シャワーを浴びる為に服を脱いだ所であの白い空間に飛んでしまったのだ。最大の誤算はセフィールに夢で会っているわけでは無かった事を、前回気付かなかった事であった。

すぐに自身が下着姿だと気付いたが、白い空間には服も何も無くなっていた為に敢えて有理は平然を装った。下着姿を見られない方法を一瞬で様々な方法を考えた結果が、セフィールに抱きつく事であった。ただ、抱きついた所為で自分からは逃げられない状況を作ってしまった。そのまま平然を装い続け前回と同じ状況で別れようと提案した事によって、有理は墓穴を掘った。その時の腕を回され有理の背中に直に触れたセフィールの手の感触を思い出して恥ずかしさで身悶えた。

眠れそうに無かった有理は、先程セフィールに約束した元素周期表を送ってみたり様々な原子や化学式、分子等を打ち込んだ。ネットで調べて目が疲れやっと眠くなってきたが、明け方に差し掛かっていた為3時間程度しか眠る事が出来なかった。


有理は寝不足のまま出社した。


  

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