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1章
8 失ったモノと得たモノ(錬金術師サイド)
しおりを挟む日が昇り始め僅かに洞窟内の気温が上がる。セフィールは目を覚まし辺りを見回すと、クロは居なかったがアオはまだ寝ていた。今居る閉山した鉱山周辺には川は無かったので、持って来ていた布切れを水魔法で濡らしヒートで温めそれで顔を拭う。
近くの小動物でも狩ってみんなの朝食を確保しようと立ち上がると、丁度クロが戻ってきた。口には再び自分の身体より大きい獲物を咥えて。思わず二度見してしまったセフィールをよそにクロは獲物をセフィールの前に置くと、座り尻尾を振りセフィールを見上げてくる。
ーーハッ、ハッ、ハッーー
「そっか、朝早くからみんなの飯を獲って来てくれたのか~!!ありがとうなっっ!!」
セフィールはしゃがんでクロを感謝を込めてワシワシと撫で回すと、クロは気持ち良さそうに目を細めされるがままになっている。その時何かがセフィールの背中にのしかかって来たが、勿論起きたばかりのアオである。
起きた時にクロにかまっていたセフィールを目にしたアオが、自分もかまえと突撃して来たのであった。
「ん!?アオ?おはよう~アオ。クロがみんなの飯を獲って来てくれたんだ!良かったな~?」
ーーきゅいっっっ!!
「あれ?どうしたアオ?嬉しく無いのか?」
アオはクロを見ると顔を逸らした。それはまるで不貞腐れている様である。クロはそんなアオを何の感情も無い様に無視している。
「(仲悪い訳ではなさそうなんだけどな~・・・?)」
結局、何事も無かった様に朝食を食べ終わり下山を開始して、夕方には町まで辿り着いた。
ーー町には入らずそのまま洞窟へと向かうと出掛ける前とは全く違う光景が広がっていた。
「な・・・なんでこんな・・・」
洞窟の中は木や石・ゴミが散乱しており土の山がいくつも出来ている。なけなしのお金で買った思い出の錬金術の本は焼かれほとんど原形の無い燃えカスになっていた。他人にはゴミに見えるかも知れないボロ切れも服が破れた時に、錬金術で合わせ塞ぐために取っていた物なのだが本と一緒に燃やされていた。
何も持っていないセフィールの数少ない持ち物すら無くなった。山に行く為に食器等持って行かなかったらそれも全部失っていた事だろう。
呆然と洞窟内に立ちすくんでいると数人の足音が聞こえた。
「あれ?あんたやっとどっかに行ったと思ったのに、まだここにいたのかよ?悪いな~ここは埋める事に町のみんなで決めたんだよ。さっさと出て行ってくれ」
いつか絡んできた酔っ払いだった。他にいる男達は見た事のある町の人間だ。
「・・・何で、勝手に俺の持ち物を燃やしたんだ・・・俺が何をしたって言うんだ・・・」
怒りや悲しみで感情が爆発しそうなのを抑え込み、手を堅く握りしめるとなんとかセフィールは声を出す。
クロとアオはセフィールを心配そうに見上げている。
「あぁー・・・あんたは昨日町に降りて来なかったから知らないのか~。
昨日王様の命でお達しが出たんだが『錬金術師の補助金を本日から打ち切る』ってよ♪国はもう錬金術師は必要ないってよ?いい加減錬金術辞めてただの村人にでもなった方が稼ぎいいんじゃ無いのか?ははは!」
「そうだよな~村人は家に住めるもんなー?ぶふっ!」
今のセフィールは村人よりも酷い暮らしをしているのは確かである。
しかし、家族に捨てられ多くの人に蔑まれながらもきっと誰かの役に立てる時が来ると積み上げてきた知識と経験全てを否定され、心臓に杭を打ち付け引き裂く様な痛みを与えた。
今まで多くの者に突き放されてきたが、最後は国に縁を切られてしまった。
補助金は錬金術師を国に縛る法律に組み込まれていたもので、
『我が国の全ての錬金術師は王の名の元庇護される。補助金を与える代わりに王命以外で国外に出る事は何人たりとも罷りならん。破った者は重罰に処す。』
という法律内容であった。
錬金術師は国を出る事は禁止されていたが、この国に錬金術師を縛る物は何も無くなった。
これからは他国に住むのも自由になる。
「・・・分かった。出て行く・・・。」
「鼻っからそうしてりゃ良いんだよ!!2度と戻ってくんなよ!!」
「まぁ、どっか小さい村で貧相な魔法で頑張んな♪」
「おまえっ貧相な魔法ってっっ!ぶっぶふっっ!!」
セフィールを貶す言葉がまだ聞こえるが、無視をして洞窟をアオとクロも一緒に出て行った。
泣くことも無く嘆く事も無く目的地も無く、ひたすら町から離れる為に歩いた。
この国には居場所がどこにも無い。
夜は雨風凌そうな岩場の影などでクロとアオと一緒に寝た。
野宿に良い場所が無い時は森の草や木等を錬金術でドーム状にして、その中でクロとアオと一緒に寝た。
日中はまだ精錬していない鉱物の精錬作業と回復薬になる薬草捜しながら足を進める。
町を出て数日経った頃、森の中にボロボロの小屋があった。雨も降っていなかったので、今日はそこで一晩明かすことにした。クロもアオも洞窟を出てからずっと一緒に着いて来てくれている。言葉は通じなくても寄り添ってくれる相手がいる事は大きな支えになっている。
「(そうだ・・・あれからユーリ様の手紙が来ていないか確認していないな・・・。何日か経っているから来ているかも知れない・・・あ、あった・・・)」
町を去ってからぼんやりする事が多くなっていたセフィールは、数日ぶりにスキルを発動させ来ていたユーリの返信を読み始めた。
「・・・・・・・・・う゛っっうぅっっ・・・う゛ぐっっ・・・う・・・うっ・・・
・・・うっ・・・う゛あぁぁぁぁっっっっーーーーーーーー・・・・!!!」
クロとアオはセフィールの叫びに少し驚いたものの、セフィールの側に擦り寄り伏せると様子を見守っている。
「・・・くろ、あお・・・ゆーり・・・ユーリ様がね・・・俺の事、お・・・応援しでぐででるっで・・・
・・・う゛うぐっっ・・・おれならできるって・・・うっ・・・・・・うぅっっ・・・」
ーーわふっ!!
ーーきゅるっっ!!
「あ・・・あり゛がどう゛っっっ・・・うぅっっ・・・ひっくっっ・・・」
ずっとぎゅうぎゅうに押さえつけ耐えていたものが一気に溢れ出た。2匹に見守られながらしばらく泣き続け落ち着くと、ユーリに返信を始めた。
『 ユーリ
ユーリの言葉のお陰で救われたよ
本当にありがとう
俺はとうとう町の洞窟からも追い出されたけどユーリのお陰で
他国に行っても錬金術師を続ける決心がついたんだ。
この国は補助金を止め錬金術師の囲い込みを止めたから、
これからはどんどん錬金術師がこの国を出て行くだろうと思う。
それとユーリのいる国に移り住もうかと考えている
ユーリの様な優しい考え方が出来る人がいる国に行きたいんだ
会いに行ったりはしないから、ユーリの住む国に住んでも良いだろうか?
錬金術師の魔法はユーリの言う通り錬金術向きの魔法なのかも知れない
色々試してみようと思う。教えてくれてありがとう
ユーリはダメな俺に勇気をくれる
交信相手の賢者様がユーリで良かったと本当に感謝しているんだ
今までの運が無かった事は全てユーリに会う為だったんだろうと思うと
不思議と全てが許せる気になってくるから単純だよね
今は兎に角早く国を出ようとクロとアオも一緒に旅をしてて
旅をしながら精錬は続けているよ。半分くらいは終わったんだ。
心配してくれてありがとう、クロもアオも家族だから捨てたりしないよ
むしろ俺が捨てられないか心配しているよ
ユーリの住んでいる所は今晩の願いの翠星が見えているかな?
ユーリに感謝を込めて翠星にユーリの幸せを願ってから眠るらせて貰うよ
フィール』
セフィールは小屋の外に出ると翠に光る星にユーリの幸せを願う。しっかりと願った後、小屋に戻るとヒートの魔法を小屋に掛け眠りについた。
ーー冷たくなった心と身体はユーリとヒートの魔法のお陰で温まった。
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