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1章 

4 噛み合わない様で噛み合う2人(錬金術師サイド)

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 スキルで錬金術師セフィールが賢者との交信を行った後、すぐに反応があった。
スキルを再び起動して確認を行う。


 「あぁ・・・、賢者様のお返事・・・俺に返事を・・・やはり夢じゃ無いんだ、・・・?本当に夢では無いのか?しかし、いきなり長年発動出来なかったスキルが発動する自体怪しいな・・・。これは幻術系の魔法?
最近キノコ食ったかな・・・。俺が食えないキノコ食ったとは考えづらいが余りにも空腹でならあり得るか・・・ふむ・・・。どうやって正常なのを証明すべきかが問題だな。」

 人生最大級の幸福感に自身が、正常な状態では無いのでは無いかという結論に辿り着いた。
証明の方法について思案を巡らすもこれが意外と難しい事に気が付き、椅子に座り伸び切った髭を触りながら真剣に考え始める。

 『サッサト読ンデ返事シロヤ。』

 「!?そ、そうだな、夢であってもこんな幸せな夢ならばそのまま味わっても問題ないな!!」

まさかのスキルの暴言に我に返ったセフィールは返信を読み始めた。

 「なになに、賢者様のお国は錬金術師へのほとんどの冷遇は無いのか・・・。俺もそこに行けばこの飢えや寒さから解放されるのだろうか・・・。昔はがむしゃらに勉強して俺が錬金術師の立場改善するって意気込んでたのにな・・・。弱くなったな・・・。
賢者様のお名前はユーリ様か・・・。家名は無いのか?貴族では無いと言うことか。無礼打ちは無さそうで良かった・・・。創造する物によるとは・・・?あぁ!建築か鍛治・製薬かをお尋ねなのか。聞いた上で助言下さるのか・・・賢者様は素晴らしい人格者なのだな!では、早速返信するぞ!!」

すぐに返事を入力を始める。

 「では、まずはこの生まれて初めて感じたうち震える幸せを、どうにか賢者様に伝えなくは・・・!!!」

ーートントントン・・・

 「それから、賢者様への返事だな。俺の錬金術は主に武器と回復薬だから、この二つで良いだろう。んー・・・賢者様に送るにはもう少し何か書いておいた方が良いかもしれないな・・・。流石に要件だけは失礼の様な気がする・・・。興味は無いと思うが他の錬金術師の事や俺の日常生活についても触れておう。賢者様が書いている質問の時の印はどうやって出すんだ??まぁ無くても分からないことも無いだろう。次回だ次回!・・・なんか自分の事書いたら、どんどん卑屈になってきたからこの辺で止めておこう・・・。ーー送信っと。」

 『送信完了シマシタ。』

文字のボードを不慣れな手つきで返事を打ち返信ボタンを押した。
セフィールは賢者に返信を貰えた喜びを噛み締めながら、コップにポットに入れてあった朝沸かして冷えた水を注ぎ錬金術師特有の魔法「ヒート」を使い水を温めてお湯にした。


 「「ヒート」って意外と便利良いんだけどなー・・・わざわざ火魔法使わなくて良いから、どんな入れ物に入れてても燃えたりしないし夜営で簡単に身体洗えるのになー・・・冒険者登録させてくれないんだよな。
対魔法の「クール」なんかいつでも冷たい物飲めるし、魔物の肉一定の温度に出来るから氷魔法みたいに肉が硬くなったりしないのに。錬金術師ってなんなんだろうなー・・・?」


お湯を飲んだ後、干し草の上に座り魔物の皮を羽織り丸まりヒートを唱え洞窟内を暖める。
すると、黒い犬と前足だけある青い蜥蜴が洞窟内に入って来る。青い蜥蜴の方は蜥蜴にしては異常に大きく成人男性の腕位の太さと大きさである。


 「お前ら久しぶりじゃ無いかー!1ヶ月見なかったから心配したぞ。悪いが今日は何も食い物無いからな?ほら、こっちにおいで。喉は乾いてないか?」


この2匹は今年の冬から現れ、ちょくちょくセフィールの洞窟に入って暖を取っている。
セフィールに呼ばれて2匹は顔を見合わせると、トコトコとセフィールの側に寄ってきた。セフィールは皿を出し2匹に常温にした水を出すと2匹は慣れたもので全く警戒心無く飲んでいる。


 「ん?もう返事が返って来たのか?ーー賢者との交信」


2匹は不思議そうに突然現れた白い板を覗いている。


 「ん?これか?これは俺のスキルで「賢者との交信」っていうんだ。本当に賢者様と交信出来るんだぞ?凄いだろっ?」

ーー 『がぅっ!』『きゅるるっ!』

2匹は人語が分かったかの様なタイミングで返事をする。
セフィールは仲の良い友人がいない為、タイミング良く吠えてくれる2匹を友人だと認識している。


 「じゃあ賢者様が一体どんな返信をして下さったのかいっしょにみてみようか。・・・。
23歳・・・俺より若くして賢者になられたのか。凄いな・・・。日本ひほん?聞いた事無い国名だな・・余り錬金術以外の勉強して来なかったしな。
『金は元素だから錬金術じゃ生み出せない』!?
金が錬成出来ない!?そんな馬鹿な・・・いや、確かに生み出せないとなると辻褄が合う事ばかりだ・・・。錬金術師が長年追い求めていた事が全く意味の無いものになる・・・。俺達は不可能な事に挑まされ蔑まれて来たのか・・・この事を証明できれば苦しんでいる多くの錬金術師を救い出せるかも知れない!
んー・・・この元素というのはなんなんだ??これは賢者様に聞いてみるか。」

2匹は既に飽きてセフィールの座っている横で丸くなって眠り始めている。

 「ステンレス鋼・・・。錆びにくい鍋か。確かに研磨しない錬金術は武器を造るより調理器具の方が良いかも知れないな。ニッケルとクロムというのは聞いた事ないからこれについてももう少し教えて貰った方がいいな。・・・・・・。え?賢者様に友人の様に書いていいのか!?名前も呼んで良いとは・・・!!!若くして高い地位についたにも関わらず驕らず、私の様な顔も見たことも無い相手に心を砕いて下さる・・・賢者様・・・いやユーリ様は神なのか!!!」

1人興奮しているセフィールははやる心を隠しきれない。すぐに返信内容を入力し始める。


 「なんか照れるな・・・。皆、友人に手紙を送るのはこんな気持ちになるのだろうか?名前でって言ってたし、呼び捨てで良いのかな?緊張するな・・・。俺の事も好きな様に呼んで欲しいな。
後は、俺の情報か・・・。年齢と家族がいるかと住んでいる場所位でいいか。
後はニッケルとクロムの事に対しての質問だな。よし、送信っと。」


完全に適当になっているユーリの文面を褒め称えるセフィールもユーリと同じく、ぼっちを極めたコミュ障であった。友達に飢えた寂しがり屋のセフィールぼっちと他人に興味ない自主的独りの有理ぼっち、違う種類のぼっちが良い具合に噛み合ってしまった。


翌朝、賢者からの返事が来ていた。
この賢者のメールがセフィールを本物の錬金術師としての第一歩を踏み出させる事になる。





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