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1章 

2 待ち焦がれたスキルの発動(錬金術師サイド)

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小さく王都から離れた田舎の町トーリ。物流はそれなりにあり、人影は多い。





ーーードンッッ!!

薄汚れた深緑のコートを着て伸びっぱなしの銀髪・髭を生やした浮浪者の様に見える痩せた男が1人町中を歩いていると、昼間から酔っぱらった男にぶつかられた。



 「・・・おい、てめぇどこに目付けてんだよぉ~・・・おいコラ。てめぇだよてめぇ。ああん?お前もしかして錬金術師じゃねーの??うわっっマジでコイツ錬金術師じゃねーか!!おい、お前らこんな所に国の無駄飯食いの錬金術師サマがいらっしゃるぜっっっ!!!」



錬金術師の着ているコートの襟を掴み酔っぱらった男は、町の通行人に錬金術師の男を晒す様に見せ嘲笑っている。
通行人は酔っ払いを諫める者や役人を呼んでくれる者も居ない。ただ蔑んだ目や嘲笑って錬金術師を遠巻きに見ているだけであった。

 「(15年国の為に研鑚を続けていたが、俺にはもう錬金術師を続ける自信がない・・・。もう錬金術師辞めて他の職に代えた方が良いのかもな。・・・・・・潮時か。)」

コートの襟を掴んだ酔っ払いに振り回されながら、そんな事を考えていると今まで一回も反応した事の無かったスキルが反応したのが分かった。5人に1人位の確率でスキルを持って生まれる事があり、スキルは「瞬足」「隠密」等、実生活に役立つ事が多い。
しかし、この錬金術師のスキルは生まれて一度も発動した事のないスキルであった。5歳でスキル持ちだと分かると両親は喜んだし、村を上げてお祝いしてくれたが10歳を過ぎても全く発動出来なかった為無駄スキルを持つ男として蔑まされる様になった。
両親もその空気に耐えきれず夫婦喧嘩が絶えなくなり、12歳の時に縁を切られ追い出された。7つ下の弟が居た為家を継ぐ者にも困っていないので悩む事も無かった様だ。


ーー突如、錬金術師の体内に魔力の渦が発生した。

 「・・・?・・・え?・・・うそだろ・・・」

錬金術師の脳内に発動可能なスキルが浮かんだ。

ーーその33年間一度も発動しなかったスキルが発動したのである。

彼のスキルは   『賢者との交信』    である。


 「うおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーっっっっっ!!!・・・今頃なのか・・・はは、はははははは・・・ははははははははははははははははは・・・・・・!!!」



いきなりスキルが発動した為、驚きと歓喜・何故今頃なのかという怒りに似た悲しみで町中で雄叫びを上げ涙を流しながら笑い出した。

 「うわっっっ!!!な、なんだよてめぇっっ!!!いきなりおかしくなりがって!!何、笑ってんだよっっ!クソがっ!!!気持ち悪いんだよっっっ!!とっととこの町から居なくなっちまえっっ!!」

酔っぱらった男や周りで足を止めて見ていた通行人は、急に豹変した男に慌てて逃げて行った。
ポツンと残された男は一頻り笑った後、町の側の生活をしている洞窟まで急いで戻った。


ちなみに洞窟は好きで住んでいる訳ではない。この国では錬金術師は国で保護されており、僅かばかりだがお金が国から支給される。その割には役に立たないと国からの支給額もどんどん減っていき、今では細々と食べ物を買う事が出来る程度である。

何百年も前にいた錬金術師が国の発展に寄与したとして讃えられ、錬金術師が他国に行かない様に十分なお金を与える法案のきっかけになったのである。しかし、ある程度発展してしまうと魔法使い・鍛冶屋・薬師等にお株を奪われる結果となった。
それにより働き口を無くした錬金術師達はいるだけで無駄に国庫を費すと貴族や王族、多くの国民に嫌われ、家を借りる事も出来ずに彼の様に洞窟に住む者や、親戚や知り合いの家に肩身狭く居候する者、人知れず山の中で暮らす者達が多くいる。


錬金術師は洞窟に帰るとランプを付け少し明るくすると丸太の椅子に腰掛けた。

「遂に・・・遂にスキルが発動したんだっっ!!!・・・発生条件は一体なんだったんだ?・・・取り敢えず見なくては!賢者との交信!」

長い1人暮らしと長い事他人とまともな会話をしていない為彼は独り言が多くなった。まだこのスキルについて分からないので取り敢えずスキル名を言ってみる。スキル名を言うと白い半透明の板が手元に現れた。

 『賢者ニ送リタイ文章ヲ、入力シテ下サイ』

 「スキルが喋るのか!?凄いなこんなスキルだったんだ・・・。本当に賢者様に送れるのか?どこの国にいる賢者様なんだ・・・?・・・。落ち着け、俺!まずはコンタクトを取らねば。・・・どうやって書くんだ??」

入力方法で悩んでいると板の下に文字が書かれた板が追加で現れた。


 「成る程これで書けば良いのか。こんなので書くことが出来るのか??・・・んーいきなりで何を聞けば良いのか分からないな・・・。賢者様の国では錬金術師の扱いはどうなのかを聞いてみようか。今の状況が改善するかもしれないしな。」

恐る恐る試し四苦八苦しながらもなんとか文字を打てる様になった錬金術師は、質問を入力すると『送信』の文字を押した。


 「これで送信出来たのか?賢者様からはいつ返事が来るんだ??」


 『送信完了シマシタ。返事ハ賢者ガ気付イテ返事スレバ返ッテ来マス。絶対デハナイデス。』


 「そうか・・・嫌だったらしないって事か。何ともあやふやなスキルだなー・・・。まぁ、発動しただけ希望が見えたし良いか。もう少し錬金術師続けてみよう。」



これまで彼は国の無料で閲覧出来る図書館の本も全て読み漁り、様々な錬金術師に師事を乞い錬金術を学んだ。魔物の住む多くの山に登り死に物狂いで材料を探した。

それでも錬金術の可能性が見出せなかった。多くの錬金術師達は彼の様に血の滲む様な努力をしたが、この世界は魔法が発展している為に、化学といった方面の知識が乏しかった。

錬金術師の仕事はほとんど無い上にあっても報酬も低い為、日銭を稼ぐ為に回復薬を作り薬屋に微々たるお金で買って貰う。錬金術師は半日分の魔力を使って回復薬3本程度しか作ることが出来ない。薬師は魔力を使わず一日に30本は作れるが、回復効果は錬金術師によるが薬師よりは幾分か効果は高い。それでも錬金術師は国のお荷物扱いを受けている為、『魔力使って3本はのろま。仕方がないので買い取ってやる』という国民全体が見下す。それが公然の事実となっているのである。

ほとんどの錬金術師は心が折れ辞めたり他国へ流れていった。

しかし、こんな境遇にも彼は諦めずに考察や推測などを行ない錬金術を続けて来た。実を結ばず心は折れ掛けていたがスキルが発動した事により希望が見え、気持ち新たにランプを点けた薄暗いの洞窟の中で土に錬金術式を書きながら錬金術の勉強を再開した。





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