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2、勝負のクリスマス!
第25話 ぴったりのプレゼント
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やはり最後まで見届けないとね、ということで再び三尋木君の家に戻る。向かう道すがら(空を飛んでる場合でも『道すがら』って言うのかな?)、トナカイ達は何度も振り返っては、
「おいベルトは締めてるんだろうな」
「花ちゃん、手綱つかんでる?」
「アードルフ様、レディは無事ですか?」
と確認してきた。
いつもなら「過保護すぎ! ちゃんと前見て!」って怒るところなんだけど、さすがに言い返せない。締めてます。つかんでます。無事です。
それで、だ。
私が何も心配しなくても、本当に大丈夫だった。
というのは、やっぱり、そのための『サンタクロース七つ道具』があったのである。それが七つ目、『夢うつつオルゴール』だ。
そのオルゴールの音を聞くと、しばらくの間、夢と現実が曖昧になって、寝起きみたいに頭がぼんやりするんだって。そこへ、あの会社にいた人達だけに、ワッカが雨(水をシャワー状にしたもの)を降らせ、フミがごうごうという雷の音を聞かせ、レラが強風を起こして、本当に嵐が来ているかのように錯覚させたんだって。さすがに何十人もいたら無理みたいなんだけど、三尋木君パパを含めても四人しかいなかったから、できたらしい。
それで、ルミ君が言った通り、九十九パーセントの確率で大成功ってわけ。
だから。
「駿介君、嬉しそうだねぇ」
「口では『いまさら家族でクリスマスとか』なーんて言ってるけどな」
「とか何とか言って、口元ゆるっゆるじゃん」
「お母様のお料理も出来立てですし、美味しそうです」
「あっ、早速ゲームするみたいだよ!」
何か懸賞で当たったみたいでさ、なんて説明をしながら、三尋木君は段ボールの中から次々とゲームを取り出す。流行のテレビゲームはちんぷんかんぷんでも、こういうやつなら、と、三尋木君のパパとママは案外乗り気だ。お菓子をつまんだりしながら、楽しそうにクリスマスを過ごしている。
「ぴったりのプレゼントあげられてよかった」
教室では見たことのない『子ども』の顔をしている三尋木君を見て、ぽつりと言う。
「本当にそう思うかい?」
隣に座るアドじいが、私の方を見て問いかける。それにこくんと頷いた。
「クラスでの三尋木君はほんとに苦手だし、いまでも思い出したら、胸がちくちくするけど。でも、プレゼントは平等だもん。クリスマスだって、一人ぼっちより、絶対にこっちの方がいい」
「良かった。ウッキ、その言葉が聞けて本当に嬉しいよ。じゃ、帰ろっか」
さぁ、トナカイ達、もうひと頑張りだよ、と手綱を引く。働き者のトナカイ達は、三頭同時に、ふるる、と首を振って走り出した。
やっぱりそよそよの心地いい風が流れる中、色々あったけど、あっという間に終わっちゃったな、なんてぼんやりと考える。
たぶん、成功だとは思う。三尋木君にぴったりのプレゼントをあげられたし、アドじいだってすっごく嬉しそうにしてる。でも果たしてこれで、アドじいがサンタ辞めるのをやめて、営業所を年内で閉めるっていうのもなしになるだろうか。
「最後にいい思い出ができてよかったよ」
なんてパターンもあるかもしれない。
だったらどうしよう。
「ねぇ、アドじい」
「なぁに?」
「あの、来年のことなんだけど」
「来年のこと? うふふ、来年のことを話すと鬼が笑うんだよぉ?」
「わ、笑わないでしょ。大丈夫。あの、それでね」
「どうしたの?」
「私、来年も再来年も、その先もずっとアドじいと一緒にサンタやりたい」
「えっ、そうなの!?」
「まだたった二件だけ――っていうか、一件目はシミュレーションだけど、それしかやってないけど、私も本当のサンタになって、それで、たくさん働くからぁ……っ」
どうしよう。しゃべってるうちに何だか涙が出てきちゃった。
「ど、どうしたの、ノンノ?! どうして泣くの?!」
「おい、おやっさん! 何でチビ泣かせてるんだ!」
「あーっ! アディ様が花ちゃん泣かせてる! いけないんだ!」
「アードルフ様! レディを泣かせるなんて! 酷いですよ!」
「ま、待ってよ! ウッキ何もしてないよぉ! ノンノぉ、どうしたのぉ? 泣かないでよぉ」
「ひぐっ……。だ、だって。アドじい、サンタ、辞めっ、辞めちゃうってぇ……っ! 営業所も、しっ、閉めるん、でしょぉっ……?!」
そんなのやだよぉ、サンタ続けてよぉ、私も頑張るからぁ、とえぐえぐ泣いているうちに、そりは営業所に到着したが、泣き疲れたのと、あとは恐らく緊張の糸がぷつりと切れてだと思う、私はそこでばたんと倒れて爆睡した。
目が覚めたのは翌日のお昼近くで、レラ曰く、
「今回もそれはそれは立派ないびきをかいてたぞ」
だったらしい。
いつもはフォローに回ってくれるワッカとフミさえも「いやほんと、あれはね、すごかったよ」「さすがに今回こそは本当に雷神様かと」とやけに神妙な顔つきで言うものだから、相当だったのだろう。
とにもかくにも、少々気まずい気持ちでリビングに行くと、昨日の報告書を提出したばかりだというアドじいが、昼食の準備をしてくれていた。人数分の食器を並べながら、私の方をちらりと見る。
「ノンノ、ご飯を食べ終わったら、ちょっと大事なお話をさせてもらえるかな。トナカイ達も一緒にね」
いつもと変わらない優しい声だったけど、何だかちょっと緊張しているような気がして、
ああ、きっと、あの話だ、と思った。
「おいベルトは締めてるんだろうな」
「花ちゃん、手綱つかんでる?」
「アードルフ様、レディは無事ですか?」
と確認してきた。
いつもなら「過保護すぎ! ちゃんと前見て!」って怒るところなんだけど、さすがに言い返せない。締めてます。つかんでます。無事です。
それで、だ。
私が何も心配しなくても、本当に大丈夫だった。
というのは、やっぱり、そのための『サンタクロース七つ道具』があったのである。それが七つ目、『夢うつつオルゴール』だ。
そのオルゴールの音を聞くと、しばらくの間、夢と現実が曖昧になって、寝起きみたいに頭がぼんやりするんだって。そこへ、あの会社にいた人達だけに、ワッカが雨(水をシャワー状にしたもの)を降らせ、フミがごうごうという雷の音を聞かせ、レラが強風を起こして、本当に嵐が来ているかのように錯覚させたんだって。さすがに何十人もいたら無理みたいなんだけど、三尋木君パパを含めても四人しかいなかったから、できたらしい。
それで、ルミ君が言った通り、九十九パーセントの確率で大成功ってわけ。
だから。
「駿介君、嬉しそうだねぇ」
「口では『いまさら家族でクリスマスとか』なーんて言ってるけどな」
「とか何とか言って、口元ゆるっゆるじゃん」
「お母様のお料理も出来立てですし、美味しそうです」
「あっ、早速ゲームするみたいだよ!」
何か懸賞で当たったみたいでさ、なんて説明をしながら、三尋木君は段ボールの中から次々とゲームを取り出す。流行のテレビゲームはちんぷんかんぷんでも、こういうやつなら、と、三尋木君のパパとママは案外乗り気だ。お菓子をつまんだりしながら、楽しそうにクリスマスを過ごしている。
「ぴったりのプレゼントあげられてよかった」
教室では見たことのない『子ども』の顔をしている三尋木君を見て、ぽつりと言う。
「本当にそう思うかい?」
隣に座るアドじいが、私の方を見て問いかける。それにこくんと頷いた。
「クラスでの三尋木君はほんとに苦手だし、いまでも思い出したら、胸がちくちくするけど。でも、プレゼントは平等だもん。クリスマスだって、一人ぼっちより、絶対にこっちの方がいい」
「良かった。ウッキ、その言葉が聞けて本当に嬉しいよ。じゃ、帰ろっか」
さぁ、トナカイ達、もうひと頑張りだよ、と手綱を引く。働き者のトナカイ達は、三頭同時に、ふるる、と首を振って走り出した。
やっぱりそよそよの心地いい風が流れる中、色々あったけど、あっという間に終わっちゃったな、なんてぼんやりと考える。
たぶん、成功だとは思う。三尋木君にぴったりのプレゼントをあげられたし、アドじいだってすっごく嬉しそうにしてる。でも果たしてこれで、アドじいがサンタ辞めるのをやめて、営業所を年内で閉めるっていうのもなしになるだろうか。
「最後にいい思い出ができてよかったよ」
なんてパターンもあるかもしれない。
だったらどうしよう。
「ねぇ、アドじい」
「なぁに?」
「あの、来年のことなんだけど」
「来年のこと? うふふ、来年のことを話すと鬼が笑うんだよぉ?」
「わ、笑わないでしょ。大丈夫。あの、それでね」
「どうしたの?」
「私、来年も再来年も、その先もずっとアドじいと一緒にサンタやりたい」
「えっ、そうなの!?」
「まだたった二件だけ――っていうか、一件目はシミュレーションだけど、それしかやってないけど、私も本当のサンタになって、それで、たくさん働くからぁ……っ」
どうしよう。しゃべってるうちに何だか涙が出てきちゃった。
「ど、どうしたの、ノンノ?! どうして泣くの?!」
「おい、おやっさん! 何でチビ泣かせてるんだ!」
「あーっ! アディ様が花ちゃん泣かせてる! いけないんだ!」
「アードルフ様! レディを泣かせるなんて! 酷いですよ!」
「ま、待ってよ! ウッキ何もしてないよぉ! ノンノぉ、どうしたのぉ? 泣かないでよぉ」
「ひぐっ……。だ、だって。アドじい、サンタ、辞めっ、辞めちゃうってぇ……っ! 営業所も、しっ、閉めるん、でしょぉっ……?!」
そんなのやだよぉ、サンタ続けてよぉ、私も頑張るからぁ、とえぐえぐ泣いているうちに、そりは営業所に到着したが、泣き疲れたのと、あとは恐らく緊張の糸がぷつりと切れてだと思う、私はそこでばたんと倒れて爆睡した。
目が覚めたのは翌日のお昼近くで、レラ曰く、
「今回もそれはそれは立派ないびきをかいてたぞ」
だったらしい。
いつもはフォローに回ってくれるワッカとフミさえも「いやほんと、あれはね、すごかったよ」「さすがに今回こそは本当に雷神様かと」とやけに神妙な顔つきで言うものだから、相当だったのだろう。
とにもかくにも、少々気まずい気持ちでリビングに行くと、昨日の報告書を提出したばかりだというアドじいが、昼食の準備をしてくれていた。人数分の食器を並べながら、私の方をちらりと見る。
「ノンノ、ご飯を食べ終わったら、ちょっと大事なお話をさせてもらえるかな。トナカイ達も一緒にね」
いつもと変わらない優しい声だったけど、何だかちょっと緊張しているような気がして、
ああ、きっと、あの話だ、と思った。
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