週一サンタは毎日大変!

宇部 松清

文字の大きさ
上 下
25 / 27
2、勝負のクリスマス!

第25話 ぴったりのプレゼント

しおりを挟む
 やはり最後まで見届けないとね、ということで再び三尋木みよぎ君の家に戻る。向かう道すがら(空を飛んでる場合でも『道すがら』って言うのかな?)、トナカイ達は何度も振り返っては、

「おいベルトは締めてるんだろうな」
「花ちゃん、手綱つかんでる?」
「アードルフ様、レディは無事ですか?」

 と確認してきた。

 いつもなら「過保護すぎ! ちゃんと前見て!」って怒るところなんだけど、さすがに言い返せない。締めてます。つかんでます。無事です。

 それで、だ。

 私が何も心配しなくても、本当に大丈夫だった。
 というのは、やっぱり、そのための『サンタクロース七つ道具』があったのである。それが七つ目、『夢うつつオルゴール』だ。

 そのオルゴールの音を聞くと、しばらくの間、夢と現実が曖昧あいまいになって、寝起きみたいに頭がぼんやりするんだって。そこへ、あの会社にいた人達だけに、ワッカが雨(水をシャワー状にしたもの)を降らせ、フミがごうごうという雷の音を聞かせ、レラが強風を起こして、本当に嵐が来ているかのように錯覚させたんだって。さすがに何十人もいたら無理みたいなんだけど、三尋木君パパを含めても四人しかいなかったから、できたらしい。

 それで、ルミ君が言った通り、九十九パーセントの確率で大成功ってわけ。

 だから。

「駿介君、嬉しそうだねぇ」
「口では『いまさら家族でクリスマスとか』なーんて言ってるけどな」
「とか何とか言って、口元ゆるっゆるじゃん」
「お母様のお料理も出来立てですし、美味しそうです」
「あっ、早速ゲームするみたいだよ!」

 何か懸賞で当たったみたいでさ、なんて説明をしながら、三尋木君は段ボールの中から次々とゲームを取り出す。流行のテレビゲームはちんぷんかんぷんでも、こういうやつなら、と、三尋木君のパパとママは案外乗り気だ。お菓子をつまんだりしながら、楽しそうにクリスマスを過ごしている。

「ぴったりのプレゼントあげられてよかった」

 教室では見たことのない『子ども』の顔をしている三尋木君を見て、ぽつりと言う。

「本当にそう思うかい?」

 隣に座るアドじいが、私の方を見て問いかける。それにこくんと頷いた。

「クラスでの三尋木君はほんとに苦手だし、いまでも思い出したら、胸がちくちくするけど。でも、プレゼントは平等だもん。クリスマスだって、一人ぼっちより、絶対にこっちの方がいい」
「良かった。ウッキ、その言葉が聞けて本当に嬉しいよ。じゃ、帰ろっか」

 さぁ、トナカイ達、もうひと頑張りだよ、と手綱を引く。働き者のトナカイ達は、三頭同時に、ふるる、と首を振って走り出した。

 やっぱりそよそよの心地いい風が流れる中、色々あったけど、あっという間に終わっちゃったな、なんてぼんやりと考える。

 たぶん、成功だとは思う。三尋木君にぴったりのプレゼントをあげられたし、アドじいだってすっごく嬉しそうにしてる。でも果たしてこれで、アドじいがサンタ辞めるのをやめて、営業所を年内で閉めるっていうのもなしになるだろうか。

「最後にいい思い出ができてよかったよ」

 なんてパターンもあるかもしれない。
 だったらどうしよう。

「ねぇ、アドじい」
「なぁに?」
「あの、来年のことなんだけど」
「来年のこと? うふふ、来年のことを話すと鬼が笑うんだよぉ?」
「わ、笑わないでしょ。大丈夫。あの、それでね」
「どうしたの?」
「私、来年も再来年も、その先もずっとアドじいと一緒にサンタやりたい」
「えっ、そうなの!?」
「まだたった二件だけ――っていうか、一件目はシミュレーションだけど、それしかやってないけど、私も本当のサンタになって、それで、たくさん働くからぁ……っ」

 どうしよう。しゃべってるうちに何だか涙が出てきちゃった。

「ど、どうしたの、ノンノ?! どうして泣くの?!」
「おい、おやっさん! 何でチビ泣かせてるんだ!」
「あーっ! アディ様が花ちゃん泣かせてる! いけないんだ!」
「アードルフ様! レディを泣かせるなんて! 酷いですよ!」
「ま、待ってよ! ウッキ何もしてないよぉ! ノンノぉ、どうしたのぉ? 泣かないでよぉ」
「ひぐっ……。だ、だって。アドじい、サンタ、辞めっ、辞めちゃうってぇ……っ! 営業所も、しっ、閉めるん、でしょぉっ……?!」

 そんなのやだよぉ、サンタ続けてよぉ、私も頑張るからぁ、とえぐえぐ泣いているうちに、そりは営業所に到着したが、泣き疲れたのと、あとは恐らく緊張の糸がぷつりと切れてだと思う、私はそこでばたんと倒れて爆睡した。

 目が覚めたのは翌日のお昼近くで、レラ曰く、

「今回もそれはそれは立派ないびきをかいてたぞ」

 だったらしい。

 いつもはフォローに回ってくれるワッカとフミさえも「いやほんと、あれはね、すごかったよ」「さすがに今回こそは本当に雷神様カンナカムイかと」とやけに神妙な顔つきで言うものだから、相当だったのだろう。

 とにもかくにも、少々気まずい気持ちでリビングに行くと、昨日の報告書を提出したばかりだというアドじいが、昼食の準備をしてくれていた。人数分の食器を並べながら、私の方をちらりと見る。

「ノンノ、ご飯を食べ終わったら、ちょっと大事なお話をさせてもらえるかな。トナカイ達も一緒にね」

 いつもと変わらない優しい声だったけど、何だかちょっと緊張しているような気がして、

 ああ、きっと、、と思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

さよならトイトイ~魔法のおもちゃ屋さん~

sohko3
児童書・童話
魔法都市フィラディノートには世界一の大賢者、ミモリ・クリングルが住んでいる。彼女は慈善活動として年に二回、世界中の子供達におもちゃを配っている。ミモリの弟子のひとりである女性、ティッサは子供達に贈る「魔法で自由に動くおもちゃ」を作る魔法使いであり、自身もおもちゃを販売する店を経営する。しかし、クリスマスに無償で配られるおもちゃは子供達に喜ばれても、お店のおもちゃはなかなか思うように売れてくれない。 「トイトイ」はティッサの作ったおもちゃの中で最高傑作であり、人生を共にする親友でもある。時に悩むティッサを見守って、支え続けている。 創作に悩む作者へ、作品の方から愛と感謝を伝えます。「あなたが作ってくれたぼくは、この世界で最高の作品なんだ」

【完結】エス★まほ ~エスパーと魔法使い、出会う~

みなづきよつば
児童書・童話
とあるエスパーいわく、「魔法使い? そんなのおとぎ話だろ」。 とある魔法使いいわく、「エスパー? そんな人間いないでしょ」。 そんなエスパーと魔法使いの少年ふたりが……、出会っちゃった!! ※※※ 完結しました! よかったら、 あとがきは近況ボードをご覧ください。 *** 第2回きずな児童書大賞へのエントリー作品です。 投票よろしくお願いします! *** <あらすじ> 中一の少年リキヤは、超能力者(エスパー)だ。 リキヤはさびしさから、同じエスパー仲間を探していたが、 ひょんなことから、同じく中一の少年マナトとテレパシーがつながる。 しかし、妙なことに、マナトは自身のことを「魔法使い」と言っていて……? *** ご意見・ご感想お待ちしてます!

つぼみ姫

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
世界の西の西の果て、ある城の庭園に、つぼみのままの美しい花がありました。どうしても花を開かせたい国王は、腕の良い元庭師のドニに世話を命じます。年老いて、森で静かに飼い猫のシュシュと暮らしていたドニは最初は気が進みませんでしたが、その不思議に光る美しいつぼみを一目見て、世話をすることに決めました。おまけに、ドニにはそのつぼみの言葉が聞こえるのです。その日から、ドニとつぼみの間には、不思議な絆が芽生えていくのでした……。 ※第15回「絵本・児童書大賞」奨励賞受賞作。

リュッ君と僕と

時波ハルカ
児童書・童話
“僕”が目を覚ますと、 そこは見覚えのない、寂れた神社だった。 ボロボロの大きな鳥居のふもとに寝かされていた“僕”は、 自分の名前も、ママとパパの名前も、住んでいたところも、 すっかり忘れてしまっていた。 迷子になった“僕”が泣きながら参道を歩いていると、 崩れかけた拝殿のほうから突然、“僕”に呼びかける声がした。 その声のほうを振り向くと…。 見知らぬ何処かに迷い込んだ、まだ小さな男の子が、 不思議な相方と一緒に協力して、 小さな冒険をするお話です。

てのひらは君のため

星名柚花(恋愛小説大賞参加中)
児童書・童話
あまりの暑さで熱中症になりかけていた深森真白に、美少年が声をかけてきた。 彼は同じ中学に通う一つ年下の男子、成瀬漣里。 無口、無表情、無愛想。 三拍子そろった彼は入学早々、上級生を殴った不良として有名だった。 てっきり怖い人かと思いきや、不良を殴ったのはイジメを止めるためだったらしい。 話してみると、本当の彼は照れ屋で可愛かった。 交流を深めていくうちに、真白はどんどん漣里に惹かれていく。 でも、周囲に不良と誤解されている彼との恋は前途多難な様子で…?

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

処理中です...