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2、勝負のクリスマス!
第23話 九十九パーセントは成功する
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さて、三尋木君パパの会社である。またここも、すっごく高いビルの中だ。お陰で今日はもうずーっと空の上。私は高いところが平気だからいいけど。そうか、こういうのが苦手な人はサンタになれないんだな。
建物の構造が~なんて言っていたアドじいの要望で、会社が入っているフロアを外からぐるりと一周する。いつの間にやらメジャーまで取り出していて、それで外周まで測っていた。それを、しゅるるる、と回収して「ふむ」と一言。
「何かわかったの?」
「うん。これなら七つ道具の『だまし絵シート』が使えるなーって」
「『だまし絵シート』? またなんか変な名前の道具だね」
「でも、わかりやすいでしょ?」
「それはまぁ、そうだけどさ」
でも、そんなシート、なんのために使うんだろう。それに、外周を測って「これなら使える」って言ったってことは、もしかしてこの会社が入ってるフロアをぐるっと囲むつもり?
ずるずると七つ道具が入っている袋の中から引っ張り出したのは、どう考えてもその袋には収まるはずのない大きさの透明シートだ。どんなにきれいに折り畳んだって絶対に無理だと思う。どうなってるの、この袋!
と思ったら、この袋もその七つ道具のうちの一つだった。名前は『ぺしゃんこ袋』。中に入れたものを潰《つぶ》さずにぺっしゃんこにして小さく小さくしてしまえる袋なんだって。潰さずにぺしゃんこってどういうこと? って思うけど、とにかくそういうことみたい。
「アドじい、そのシートでどうするつもりなの?」
しわを丁寧に伸ばしているアドじいに問いかける。するとアドじいは、「この会社の周りだけ、大嵐にしちゃおうと思って」と笑った。
大嵐?! 今日は気温は低いけど、とってもいい天気なのに? と首を傾げていると、とんとん、とアドじいがシートを指差す。ただの透明なシートだ。だけど――、
ぱちん、とアドじいが指を鳴らすと、シートにどんよりとした雷雲が映し出された。そしてその雷雲からざぁざぁと横殴りの雨が降る映像まで流れていく。シート状のテレビみたい。
「見たところ、中で仕事してるのは駿介君のお父さんと、その他に三人だけだったから、これくらいなら何とかなるかなって」
「何とかって……どうするの?」
「こういうのはたまーにやるんだ。トナカイ達もわかってるね? まぁ、見てて」
そう言うなり、シートの端を持って、ばさり、と大きく振る。さすがはサンタの七つ道具、シートの方でもまるで生きてるみたいに、ばさりばさりと波打ちながら、あっという間に三尋木君パパの会社が入っているフロアの窓をぐるりと囲んだ。
このシートの凄いところは、私達の方からはただの透明シートにしか見えないということだ。だけど、その裏側、三尋木君パパの会社の人達からは警報が出るレベルの大嵐に見えているらしい。だけどこんなの、テレビとかラジオとか、それからもちろんスマホで確認すればあっという間にバレちゃうんじゃ――
「大丈夫だよ、ノンノ」
私の考えなんてどうやらお見通しらしい。アドじいは、やっぱりまた『なりすましマント』を羽織って別人になっている。トナカイ達も人間の姿になっていた。
アドじいはたぶんビルの管理人さん、かな? トナカイ達はちょっと大人っぽくなってスーツを着てるから、ここのビルで働いている人になりすましてるってことだろうか。
「それじゃあ行ってくるね」
「そこで大人しくしてろよ。危ねぇから動くな。いいか、ベルトも外すな。手綱も離すなよ」
「すぐ戻ってくるから、泣いちゃ駄目だよ花ちゃん」
「寂しいかもしれませんが待っててくださいね、レディ」
アドじいはいいとしてもトナカイ達。あなた達、私のこと子ども扱いしすぎじゃない? そりゃ十四歳なんて子どもだけどさ!
「大丈夫だから! 早く行ってきて!」
ぐいぐいと四人の背中を押すと、わぁわぁしながらも彼らはビルの中へと入っていった。
でも、本当に大丈夫なんだろうか。まぁ、アドじいはもう何十年もサンタやってて、トナカイ達だってそのサポートをしてるわけだし、きっとこういうことも経験済みなんだろうけど。
「ねぇルミ君。あんなシートだけで本当に大丈夫なのかな。絶対すぐバレちゃうよね」
そりの先頭に取り付けられているルミ君に向かって、そんな事を言ってみる。別に寂しいとかじゃないし、高いところも平気だけど、こんなところに一人で残るのはちょっと落ち着かない。
と、ルミ君のまんまる目玉がチカチカと光った。
『質問ヲ、受け付けましタ。回答しまス』
「えっ、そんなのにも答えてくれるの!?」
思わずベルトを外してそりの先端に手を伸ばす。固定されているルミ君を取り外して再び腰を下ろし、彼を膝の上に乗せて回答を待った。
『だまし絵シートで覆われた空間ハ、一切の電波ヲ遮断されますのデ、テレビ、ラジオ、携帯電話等ハ、使用不可能でス。これまでノ、データより、このパターンでノ、アードルフ・ヤルヴィネンの計画ノ成功率ハ、九十九パーセントと、なっておりマス』
「九十九パーセント! すごい! すごいじゃんアドじい! しかもあのシートも何かすごいじゃん!」
なぁんだ、全然心配しなくて大丈夫じゃん! 失敗する確率なんて一パーセントなんだもんね? そんなのほぼないってことでしょ?
その証拠に、そのフロアにいた人達がバタバタと大慌てで廊下を走り始めた。きっと大嵐だから、早く帰らなくちゃと思ったのだろう。あっ、三尋木君のパパもいる! すごいすごい。さすがベテランサンタ!
でもそこでふと気づく。
「でも外に出たら駄目じゃない? いまこんなに晴れてるんだし!」
ちょっと、何が大丈夫なのよアドじい! 一パーセントって絶対これじゃん! どうする? 私にどうにかできるかな!?
と、慌てて立ち上がったのがまずかった。
「あ」
さっきルミ君を取るためにベルトを外していたことをすっかり忘れていた私は、バランスを崩してそりの上から落ちてしまったのである。
建物の構造が~なんて言っていたアドじいの要望で、会社が入っているフロアを外からぐるりと一周する。いつの間にやらメジャーまで取り出していて、それで外周まで測っていた。それを、しゅるるる、と回収して「ふむ」と一言。
「何かわかったの?」
「うん。これなら七つ道具の『だまし絵シート』が使えるなーって」
「『だまし絵シート』? またなんか変な名前の道具だね」
「でも、わかりやすいでしょ?」
「それはまぁ、そうだけどさ」
でも、そんなシート、なんのために使うんだろう。それに、外周を測って「これなら使える」って言ったってことは、もしかしてこの会社が入ってるフロアをぐるっと囲むつもり?
ずるずると七つ道具が入っている袋の中から引っ張り出したのは、どう考えてもその袋には収まるはずのない大きさの透明シートだ。どんなにきれいに折り畳んだって絶対に無理だと思う。どうなってるの、この袋!
と思ったら、この袋もその七つ道具のうちの一つだった。名前は『ぺしゃんこ袋』。中に入れたものを潰《つぶ》さずにぺっしゃんこにして小さく小さくしてしまえる袋なんだって。潰さずにぺしゃんこってどういうこと? って思うけど、とにかくそういうことみたい。
「アドじい、そのシートでどうするつもりなの?」
しわを丁寧に伸ばしているアドじいに問いかける。するとアドじいは、「この会社の周りだけ、大嵐にしちゃおうと思って」と笑った。
大嵐?! 今日は気温は低いけど、とってもいい天気なのに? と首を傾げていると、とんとん、とアドじいがシートを指差す。ただの透明なシートだ。だけど――、
ぱちん、とアドじいが指を鳴らすと、シートにどんよりとした雷雲が映し出された。そしてその雷雲からざぁざぁと横殴りの雨が降る映像まで流れていく。シート状のテレビみたい。
「見たところ、中で仕事してるのは駿介君のお父さんと、その他に三人だけだったから、これくらいなら何とかなるかなって」
「何とかって……どうするの?」
「こういうのはたまーにやるんだ。トナカイ達もわかってるね? まぁ、見てて」
そう言うなり、シートの端を持って、ばさり、と大きく振る。さすがはサンタの七つ道具、シートの方でもまるで生きてるみたいに、ばさりばさりと波打ちながら、あっという間に三尋木君パパの会社が入っているフロアの窓をぐるりと囲んだ。
このシートの凄いところは、私達の方からはただの透明シートにしか見えないということだ。だけど、その裏側、三尋木君パパの会社の人達からは警報が出るレベルの大嵐に見えているらしい。だけどこんなの、テレビとかラジオとか、それからもちろんスマホで確認すればあっという間にバレちゃうんじゃ――
「大丈夫だよ、ノンノ」
私の考えなんてどうやらお見通しらしい。アドじいは、やっぱりまた『なりすましマント』を羽織って別人になっている。トナカイ達も人間の姿になっていた。
アドじいはたぶんビルの管理人さん、かな? トナカイ達はちょっと大人っぽくなってスーツを着てるから、ここのビルで働いている人になりすましてるってことだろうか。
「それじゃあ行ってくるね」
「そこで大人しくしてろよ。危ねぇから動くな。いいか、ベルトも外すな。手綱も離すなよ」
「すぐ戻ってくるから、泣いちゃ駄目だよ花ちゃん」
「寂しいかもしれませんが待っててくださいね、レディ」
アドじいはいいとしてもトナカイ達。あなた達、私のこと子ども扱いしすぎじゃない? そりゃ十四歳なんて子どもだけどさ!
「大丈夫だから! 早く行ってきて!」
ぐいぐいと四人の背中を押すと、わぁわぁしながらも彼らはビルの中へと入っていった。
でも、本当に大丈夫なんだろうか。まぁ、アドじいはもう何十年もサンタやってて、トナカイ達だってそのサポートをしてるわけだし、きっとこういうことも経験済みなんだろうけど。
「ねぇルミ君。あんなシートだけで本当に大丈夫なのかな。絶対すぐバレちゃうよね」
そりの先頭に取り付けられているルミ君に向かって、そんな事を言ってみる。別に寂しいとかじゃないし、高いところも平気だけど、こんなところに一人で残るのはちょっと落ち着かない。
と、ルミ君のまんまる目玉がチカチカと光った。
『質問ヲ、受け付けましタ。回答しまス』
「えっ、そんなのにも答えてくれるの!?」
思わずベルトを外してそりの先端に手を伸ばす。固定されているルミ君を取り外して再び腰を下ろし、彼を膝の上に乗せて回答を待った。
『だまし絵シートで覆われた空間ハ、一切の電波ヲ遮断されますのデ、テレビ、ラジオ、携帯電話等ハ、使用不可能でス。これまでノ、データより、このパターンでノ、アードルフ・ヤルヴィネンの計画ノ成功率ハ、九十九パーセントと、なっておりマス』
「九十九パーセント! すごい! すごいじゃんアドじい! しかもあのシートも何かすごいじゃん!」
なぁんだ、全然心配しなくて大丈夫じゃん! 失敗する確率なんて一パーセントなんだもんね? そんなのほぼないってことでしょ?
その証拠に、そのフロアにいた人達がバタバタと大慌てで廊下を走り始めた。きっと大嵐だから、早く帰らなくちゃと思ったのだろう。あっ、三尋木君のパパもいる! すごいすごい。さすがベテランサンタ!
でもそこでふと気づく。
「でも外に出たら駄目じゃない? いまこんなに晴れてるんだし!」
ちょっと、何が大丈夫なのよアドじい! 一パーセントって絶対これじゃん! どうする? 私にどうにかできるかな!?
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