週一サンタは毎日大変!

宇部 松清

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1、毎日サンタ・月曜日営業所

第15話 いま二倍って言ったよね?!

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「お、おかしいな。ウッキ、老眼だからかな」

 そんなことを言いながら、『合格』のはんこがぺたりと押された報告書を見て、目をごしごしとこすっている。

「アドじい、どうしたの? 私何か間違えてた?」
「ううん、ノンノは間違えてないよ。ルミ君と一緒に作った書類だし、それにほら」

 そう言って私にも書類を見せ、とん、と『合格』のはんこを指差す。

「ちゃんとはんこも押してあるでしょ。合格だよ! ノンノ、さすがだよぉ!」
「ほんとだ。じゃあ、何がおかしいの?」

 顔を近づけて書かれていることを読もうとしたけど、私が書いた(というか入力した)部分はまだしも、本社からの返信は全部英語なのでまったくわからない。ていうか、これ、英語なのかな? それすらもわからない。

「う、うん、あのね」

 もじょもじょと、アドじいが説明してくれたところによると――、

 売り上げがいつもよりも多いらしい。さすがにノンノにはちょっとまだ早いかな、とか言って金額は教えてくれなかったけど。あともちろん、これはあくまでもシミュレーションなので、実際の売り上げが入るわけではないらしい。

「そうなの? えっ、だって、私、理玖君の積み木のお手伝いしただけだよ?」
「そうなんだよね。ウッキも途中までモニターで見てたから知ってる」
「途中まで?」
「うん。ノンノが一生懸命『かゆいところにハンド』でお手伝いしてるところをね。だけど、他の営業所から急ぎの電話がかかってきちゃったもんだから」
「そうなんだ」
「それで、電話が終わって戻ってきてみたら、ちょうど終わったところだったんだ。ごめんね、ずっと見ていられなくて」

 トナカイ達もいたし、ノンノが思ったよりしっかりしてたから、ウッキちょっと安心しちゃって、と大きなお腹をゆさゆささせて笑う。見ててほしかったのはたしかだけど、任せてもらえるくらい安心させられたことも嬉しい。

「ノンノ、使った道具は『かゆいところにハンド』だけだよね?」
「そうだよ」
「だよねぇ。報告書の『使用道具』の欄にもそれしか書いてないし。ていうかここはルミ君の道具申請履歴から自動で印字されるやつだから、不正のしようもないしなぁ」

 何やらぶつぶつとそんなことを言いながら、眉をきゅっと寄せる。待って待って待って。不正って何? 私悪いことなんて何もしてないよ!?

「アドじい、つまり、どういうこと? やっぱり私何か変なことしちゃった?」
「あー、ううん、違うんだよノンノ。ノンノは心配しなくても大丈夫。あのね、サンタクロースの道具っていうのはね、常にそりに積んでる七つ道具はいいんだけど、本社に申請して送ってもらう道具は、使用料――つまり、お金がかかるんだ。ここまでわかる?」
「なんとなくそれはわかる」
「道具をたくさん使えばそれだけその人にぴったりのプレゼントをあげられるけど、そうなると、その時の売り上げから道具の使用料が引かれるから――」
「その分、売り上げが少なくなっちゃう、ってこと?」
「そういうこと!」

 さすがノンノは賢いねぇ。ウッキの自慢の孫ちゃんだよぉ、とアドじいはにこにこだ。

「だから、つまり、ノンノは道具に頼らずに、対象者にぴったりのプレゼントをあげられたってこと。これはね、ベテランのサンタでも結構難しいんだよ」
「そうなんだ……」
「だけど、『かゆいところにハンド』で積み木のお手伝いの他に、一体何をしたの?」
「何を、って言われてもなぁ。フミの力を借りて、大きな声で応援したくらい……?」

 たぶん、それくらいだよね、私が理玖君にしたことなんて。

「フミの力を?」
「うん。私じゃなくて、理玖君のママの声の方がいいかなって思って。ママに褒められたらもっと嬉しいかと思ったんだよね」

 そう答えると、アドじいは「ふむ」と言ってふさふさのおヒゲをひとなですると、カッと目を大きく開いて、ぽん、とお腹を叩いた。

「それだ!」
「そ、それ?!」
「ノンノ、さすがだよぉ! さすがはウッキの自慢の孫ちゃんだよぉ!」
「むぎゅう……。く、苦しいぃ」

 いきなり立ち上がって私を抱え上げ、ぎゅうぎゅうと抱き締めてくれるけど、大きなお腹に押されて正直苦しい。

「ご、ごめんね。ウッキってば嬉しくってついつい」

 慌てて椅子の上に戻され、ごめんごめん、と顔の前で手を振る。アドじいはコミュニケーションが激しすぎるんだよなぁ。

「そんなに謝らなくていいよ。それで? それだ、ってどういうこと? 理玖君のママの声で応援したこと?」

 応援するだけで売り上げがアップするんだったら、毎回そうしたら良くない? そしたら一気にこの営業所がもうかるし、弟分達も戻って来て、そしたらアドじいも元気になるじゃん! なぁんだ、簡単じゃん!

 そう思っていると、アドじいは、「それはそうなんだけど、ウッキが言いたいのはそうじゃなくてね」と言って、机の上の報告書を手に取った。

「ノンノあのね、実は『プレゼント』っていうのはね、『どれどれメガネ』ではもあったりするんだ」
「『どれどれメガネ』でも? どういうこと?」
「ウッキ達はそれを『裏のプレゼント』って呼んでるんだけど、例えば今回のプレゼントは『積み木を高くきれいに積みたい』だったよね?」
「うん」
「それが、『表のプレゼント』。だけど、理玖君は、その積み木を高くきれいに積むことで、さらにその奥、もっと大事なものが欲しかったんだ」
「もっと大事なもの?」
「大好きなママから褒められること、だよ」
「ああ!」

 なるほど、それで、私がたまたまフミに声を変えてもらって応援したから、ぴったりのプレゼントを渡せたんだ!

「だけど、だったら最初から『ママから褒められたい』って思っててくれれば良かったのに」
 
 と、ついそんな言葉が口をついて出る。アドじいは、そうだね、なんて笑って頷いてから、だけど、と身を乗り出した。

「そうもうまくいかないんだ。特に理玖君は小さいから、うまく言葉にできなかったのかもしれないし。でもね、これは小さい子だけじゃないんだ。ノンノくらいの子だって、それから大人だってよくあることなんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。例えば、『宝くじを当てたい』って考える人のほとんどは、『宝くじを当てたい』んじゃなくて、『苦労しないでたくさんのお金が欲しい』わけだからね。宝くじを当てることが目的じゃないんだよ。だけど、『どれどれメガネ』で見えるのは、心の表面にある『宝くじを当てたい』だけなんだ。その奥にある、楽して大金持ちになりたい、って部分ついては、見えない」
「なるほど、『どれどれメガネ』は心の表面しか見えないのね」
「そうなんだ。だけどまぁ、プレゼントが宝くじの大当たりなら、当たりさえすればお金はたくさん入ってくるわけだから、それでいいんだけど。問題は、お金で買えないものが欲しい場合だよ。今回のがそうだね」
「ママからの応援は、お金じゃ買えないもんね」
「そういうこと。サンタでも、人の心はどうにもできないからね。だからそういう『裏のプレゼント』をうまく読み取ることと、それから道具の使用を抑えられると、こうやって売り上げがいつもの二倍に――あわわ! い、いまのナシ!」
「は? 売り上げ二倍?! ちょ、アドじい、それほんと!?」
 
 二倍って! 二倍って言ったよね!?
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