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1、毎日サンタ・月曜日営業所
第10話 いよいよシミュレーション開始!
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本日の目的地である『明日萌町』というのは、北海道の北、日本海沿いにある小さな港町。まぁ正直名前しか知らないところである。といっても、これはあくまでもシミュレーション。実際はそこに向かうのと同じ距離を飛ぶだけなんだけど。
研修用のゴーグルを着けると、景色ががらりと変わる。ぽつぽつと民家が見えるけど、ほぼ雪原だ。
住んでる人よりヒグマの方が多い――なんていうのは北海道ジョークらしいけど、もしかしたらほんとかも? って思っちゃうくらいに人の少ないところで、隣の家まで何メートル……いや、何十メートル、って感じのところに、今回のプレゼント対象者、土田理玖君の家(という設定の研修用建物)はあった。
「流れをもう一回確認するぞ。最初にすることは何だ?」
理玖君の家の前にそりを停め、人の姿になっているレラが腰に手を当てて言う。なんでレラが仕切るのよ、と思う気持ちもあるけど、トナカイのリーダーは彼だし、まぁ仕方ない。
「まず、『どれどれメガネ』をかけて、家の中の理玖君を見ます!」
「正解! さすがですレディ!」
「はい、それでは、『どれどれメガネ』よぉ~いっ!」
「はいっ!」
ワッカの号令に合わせて、『サンタクロース七つ道具』が入っている袋の中から、大きなメガネをサッと取り出す。名前、もうちょっとどうにかならなかったのかな? とは思うけど、わかりやすいからまぁいいか。とにかくこれが、『何が欲しいか』を見るための道具だ。老眼はどうにもしてくれないらしい。
「よし。それじゃ次はどうする」
「見えたプレゼントを、『ルミ君』に伝えて、指示を仰ぎます!」
「ばっちりです、レディ!」
「はい、僕は『ルミ君』です、プレゼントを入力してください!」
手作りのお面まで着けてルミ君になりきってるワッカが、くるりと背中を見せる(そんなお面、いつの間に用意したの!?)。ルミ君の背中は実はタッチパネルになっていて、そこにプレゼントを入力できるようになっているのだ。だから、人差し指でワッカの背中をちょいちょいとつついた。
「ピポパの、ピッ!」
「あはは、くすぐったい。でもオッケー! ばっちりだよ花ちゃん!」
こんなの本当に練習になるのかな、とも思うけど、三人はものすごく真剣なのだ。そうは見えないかもしれないけど。
「よし、あとはもう正直ルミの指示に従うしかないからな。こんなもんでいいだろう」
その言葉を聞いて、ホッと一息つく。ふはぁ、と大きく息を吐き、肩の力をだらりと抜いていると、背中をぽんと叩かれた。
「あんまり緊張すんなよ。俺達の姿はめったなことじゃ見えないから、焦らず行け」
「それに、何度も言うけどこれはあくまでも『シミュレーション』だからね」
「ある程度の緊張感は必要ですが、そこまでガチガチにならなくても大丈夫ですからね」
「う、うん。わかった」
そう、このサンタスーツさえ着ていれば、普通の人間にはサンタクロースの姿は見えない。それからもちろんトナカイ達も、人の姿だろうが、トナカイだろうが、姿は見えない。もちろん、見せようと思えば見せられるけど。
ただ、声や、音は聞こえてしまうので、注意が必要だ。おしゃべりはまぁ我慢でにるとしても、問題は、そう、『音』である。特に足音!
そこで、登場するのがこちら! てってれてーん、『どろぼうブーツ』!
だから! 名前! めちゃめちゃイメージ悪いからね? 何、『どろぼう』って! でも、どろぼうみたいに足音を立てずに歩けるし、雪の上を歩いても足跡がつかない、っていうこれもまぁわかりやすい名前ではあるのだ。わかりやすさ重視なんだね?! サンタの道具っていうのは! でもどろぼうでも足跡は残ると思うけど?!
なんて道具にツッコミを入れても仕方がない。いま履いているブーツの上からそれを履き、『どれどれメガネ』をおでこの上の方にかける。家の中に入ってもいいんだけど、窓から見えるところにいてくれると助かるなぁ。ちなみに、家の中に入る場合には、何を触っても指紋がつかなくなる『つるつる手袋』もある。なんかもうやってることが本当にどろぼうみたいでイヤだけど、仕方がない。
窓枠に手をかけて、うんしょ、と背伸びをする。が、残念、あともうちょっと届かない。何よ、『サンタクロース七つ道具』には身長を伸ばす道具はないわけ? 例えば『キリンのネックレス』とか! いや、ほんとに首だけ伸びそうで怖い!
なんて馬鹿なことを考えながらめいっぱいつま先立ちで頑張っていると、両脇をがしっと掴まれた。
「え」
で、そのまま、ぐいっと持ち上げられる。
「ちょ、え、何?! レラ! ば、馬鹿馬鹿馬鹿! 何急に!」
「騒ぐなチビ。あと暴れんな。危ない」
「持ち上げるんなら一声かけてよ! びっくりするじゃん!」
「まさか家の中覗けないほどちっちぇとは思わなかったんだよ。ほら、そんなことより早くプレゼント確認しろ」
「わかってるよ!」
ほんっとレラは何かイチイチ乱暴なのよ、言動がさ! 昨日はあんなに優しかったのに! と小声で文句を言いながらカーテンの隙間から、中を覗く。そこにいたのは、カラフルな積み木で遊んでいる理玖君だ。とっても真剣な顔で、一生懸命同じ形の積み木を高く積んでいる。
どれどれ、君は一体何が欲しいのかな?
サンタ帽子に引っかけていた『どれどれメガネ』を、ゴーグルの上からかけると――、
研修用のゴーグルを着けると、景色ががらりと変わる。ぽつぽつと民家が見えるけど、ほぼ雪原だ。
住んでる人よりヒグマの方が多い――なんていうのは北海道ジョークらしいけど、もしかしたらほんとかも? って思っちゃうくらいに人の少ないところで、隣の家まで何メートル……いや、何十メートル、って感じのところに、今回のプレゼント対象者、土田理玖君の家(という設定の研修用建物)はあった。
「流れをもう一回確認するぞ。最初にすることは何だ?」
理玖君の家の前にそりを停め、人の姿になっているレラが腰に手を当てて言う。なんでレラが仕切るのよ、と思う気持ちもあるけど、トナカイのリーダーは彼だし、まぁ仕方ない。
「まず、『どれどれメガネ』をかけて、家の中の理玖君を見ます!」
「正解! さすがですレディ!」
「はい、それでは、『どれどれメガネ』よぉ~いっ!」
「はいっ!」
ワッカの号令に合わせて、『サンタクロース七つ道具』が入っている袋の中から、大きなメガネをサッと取り出す。名前、もうちょっとどうにかならなかったのかな? とは思うけど、わかりやすいからまぁいいか。とにかくこれが、『何が欲しいか』を見るための道具だ。老眼はどうにもしてくれないらしい。
「よし。それじゃ次はどうする」
「見えたプレゼントを、『ルミ君』に伝えて、指示を仰ぎます!」
「ばっちりです、レディ!」
「はい、僕は『ルミ君』です、プレゼントを入力してください!」
手作りのお面まで着けてルミ君になりきってるワッカが、くるりと背中を見せる(そんなお面、いつの間に用意したの!?)。ルミ君の背中は実はタッチパネルになっていて、そこにプレゼントを入力できるようになっているのだ。だから、人差し指でワッカの背中をちょいちょいとつついた。
「ピポパの、ピッ!」
「あはは、くすぐったい。でもオッケー! ばっちりだよ花ちゃん!」
こんなの本当に練習になるのかな、とも思うけど、三人はものすごく真剣なのだ。そうは見えないかもしれないけど。
「よし、あとはもう正直ルミの指示に従うしかないからな。こんなもんでいいだろう」
その言葉を聞いて、ホッと一息つく。ふはぁ、と大きく息を吐き、肩の力をだらりと抜いていると、背中をぽんと叩かれた。
「あんまり緊張すんなよ。俺達の姿はめったなことじゃ見えないから、焦らず行け」
「それに、何度も言うけどこれはあくまでも『シミュレーション』だからね」
「ある程度の緊張感は必要ですが、そこまでガチガチにならなくても大丈夫ですからね」
「う、うん。わかった」
そう、このサンタスーツさえ着ていれば、普通の人間にはサンタクロースの姿は見えない。それからもちろんトナカイ達も、人の姿だろうが、トナカイだろうが、姿は見えない。もちろん、見せようと思えば見せられるけど。
ただ、声や、音は聞こえてしまうので、注意が必要だ。おしゃべりはまぁ我慢でにるとしても、問題は、そう、『音』である。特に足音!
そこで、登場するのがこちら! てってれてーん、『どろぼうブーツ』!
だから! 名前! めちゃめちゃイメージ悪いからね? 何、『どろぼう』って! でも、どろぼうみたいに足音を立てずに歩けるし、雪の上を歩いても足跡がつかない、っていうこれもまぁわかりやすい名前ではあるのだ。わかりやすさ重視なんだね?! サンタの道具っていうのは! でもどろぼうでも足跡は残ると思うけど?!
なんて道具にツッコミを入れても仕方がない。いま履いているブーツの上からそれを履き、『どれどれメガネ』をおでこの上の方にかける。家の中に入ってもいいんだけど、窓から見えるところにいてくれると助かるなぁ。ちなみに、家の中に入る場合には、何を触っても指紋がつかなくなる『つるつる手袋』もある。なんかもうやってることが本当にどろぼうみたいでイヤだけど、仕方がない。
窓枠に手をかけて、うんしょ、と背伸びをする。が、残念、あともうちょっと届かない。何よ、『サンタクロース七つ道具』には身長を伸ばす道具はないわけ? 例えば『キリンのネックレス』とか! いや、ほんとに首だけ伸びそうで怖い!
なんて馬鹿なことを考えながらめいっぱいつま先立ちで頑張っていると、両脇をがしっと掴まれた。
「え」
で、そのまま、ぐいっと持ち上げられる。
「ちょ、え、何?! レラ! ば、馬鹿馬鹿馬鹿! 何急に!」
「騒ぐなチビ。あと暴れんな。危ない」
「持ち上げるんなら一声かけてよ! びっくりするじゃん!」
「まさか家の中覗けないほどちっちぇとは思わなかったんだよ。ほら、そんなことより早くプレゼント確認しろ」
「わかってるよ!」
ほんっとレラは何かイチイチ乱暴なのよ、言動がさ! 昨日はあんなに優しかったのに! と小声で文句を言いながらカーテンの隙間から、中を覗く。そこにいたのは、カラフルな積み木で遊んでいる理玖君だ。とっても真剣な顔で、一生懸命同じ形の積み木を高く積んでいる。
どれどれ、君は一体何が欲しいのかな?
サンタ帽子に引っかけていた『どれどれメガネ』を、ゴーグルの上からかけると――、
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