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1、毎日サンタ・月曜日営業所
第9話 絶対にうまくいく。
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「羊が……五百七十二匹……、羊が……五百七十三……って嘘でしょ! そんな眠れないことってある?!」
いい加減イライラして、思わずガバッと起き上がる。時計を見ると、もう二十三時。いつもならとっくに夢の中にいる時間だ。
「どうしよう、明日朝早いのに」
そっ、と枕元のベルに手を伸ばす。
別に『呼ぶ=添い寝』とは限らないよね。ちょっと話し相手になってもらいたいだけだもん。
いや、でもワッカは危険かも。それにフミもちょっと……。あの三人の中で添い寝に反対したのはレラだけだ。てことはレラを呼んだ方がいいのかな? でも、また怒られたりするのかな? それはイヤかも。とすると、フミ? フミはちょっとズレてるけど優しいし、ちゃんとお願いしたら大丈夫かも?!
「よ、よし。フミを呼ぼう。それで、眠くなるまでちょっと話し相手になってもらおう」
三つ仲良く並んだベルの左端、黄色いリボンが結ばれたものを手に取り、一応夜だし、と控えめに鳴らす。そうしてから、ふと思った。
勝手に黄色をフミだと決めつけちゃったけど、本当に大丈夫だよね?
そんなことを考えていると、コンコン、と窓を叩く音が聞こえて来た。てっきりドアから来ると思ったけど、そういやトナカイ達の部屋はこの小屋の隣にある厩舎だったっけ。そうか、この時間はトナカイになってるのか、とカーテンと窓を開ける。
と。
「――わぁっ!?」
ぬぅ、と窓から首を突っ込み、ぶるる、と大きな角を震わせたのは、レラだった。
「あれ? レラ?」
嘘、黄色がレラだったの?! えーっ、そんなイメージなかったんだけど?!
「あれ? じゃない! 何だこんな時間に! お、俺は添い寝なんてしないからな! ま、まぁ、お前がどうしてもって言うんならしてやっても」
「添い寝してなんて言ってないじゃん」
「だったら何なんだよ。何で俺を呼んだんだ!」
「えっと、実は呼んだのはレラじゃなかったっていうか……」
「ハァ?!」
「う、嘘です! レラを呼んだの! えっと、ちょっと眠れなくなっちゃって、その、話し相手になってくれないかな、って」
危ない危ない。ここで正直にフミを呼んだなんて言ったら、またネチネチ言われそう。ていうか、そんなことで呼ぶなよって怒られそうでもあるけど。
「……仕方ないな」
てっきり「話し相手だと?!」と怒られるかと思いきや、意外にもため息混じりの優しい声が返って来た。
「窓開けっぱなしだと寒いから、中に入るぞ。俺が入ったらすぐ閉めろよ」
「う、うん。どうぞ」
そう言うと、ごつ、と窓枠に前脚を乗せ、ぴょん、と後ろ脚で地面を蹴る。跳び箱の抱え込み飛びみたいだ。それで、すと、と床に着地する瞬間に、パッと人の姿になった。だってトナカイのままじゃこの部屋は狭いから。あっ、もちろんちゃんと服は着てる。トナカイの毛皮というのが、まずそもそも衣服みたいなものだから、人の姿になる時はその毛皮部分を服に変えるんだって。
「とりあえず、お前はベッドに入れ。俺はここでいいから」
床に敷いた丸いラグの上にどかっと胡坐をかき、しっしと追い払うように手を振られ、ベッドへ誘導される。わかったよ、ともぞもぞもぐり込むと、「それで、何を話せばいいんだ」といつもの偉そうなレラだ。
「そうだなぁ。いままでで一番変わったプレゼントの話とか」
「わかった。話してやるからちゃんと目ぇつぶってろよ。そんで、眠くなったら寝ろ。聞き逃してもまた教えてやるから」
口調はいつものレラだったけど、思った以上にすんなりと話してくれて驚く。それに声色がちょっと優しくて、何だかくすぐったい。
「わかった」
大人しく目をつぶって、アドじいがこれまでに渡してきた色んなプレゼントの話を聞く。普段とは違う、子守唄みたいに優しい声だ。
もしかしたらレラを呼んで正解だったのかも、と思う。
ワッカの話は楽しいけど、面白すぎて眠れなくなりそうだし。
フミは優しいけどちょっとズレてるから、「その話じゃなくて!」って気になっちゃってやっぱり眠れなくなりそうだし。
私だって一応わかってる。レラは口が悪いだけで、優しいところがちゃんとあるって。
耳に届くレラの声がだんだん切れ切れになってきて、ふ、と意識が途切れる。ぷす、と軽く鼻が鳴って、慌てて起きた。やば、危うくいびきかくところだった! 寝るにしても、できればいびきとかはマジで勘弁して! 少しでも鼻の通りがよくなりますように、とごしごしこすったり、ぐいぐい揉んでみる。
「やめろやめろ。赤くなるぞ。鼻が赤いのはトナカイだけで十分だ」
まぁ、あれはそういう歌のやつだから俺らは赤くねぇけど、と薄く笑う。たぶん、トナカイジョークってやつだろう。
「でも、いびきかいたら笑うじゃん」
「笑わねぇよ」
「笑うじゃん。雷神様かと思ったって」
「思っただけだろ。笑ったのはワッカとフミだ。俺は笑ってない」
「そうだっけ?」
「俺は、笑ってない。だから気にすんな。もう寝ろ」
手を伸ばして、私の頭をなでる。いつもみたいに、髪の毛をぐちゃぐちゃにするような乱暴なやつじゃない。私の前髪の流れに沿って、そのまままぶたにまで触れるような、そんな、うんとうんと優しいなで方だ。
「明日お前は俺達のそりに乗って、明日萌町に行くんだ。それで、理玖君のプレゼントを確認して、それを渡す。絶対にうまくいく。大丈夫。だから寝ろ」
まるでおまじないみたいに、うまくいく、大丈夫、と何度もくり返して、優しくなでてくれる。だんだんと眠くなってきて、またもう一度鼻が、ぷす、と鳴ったけど、今度はもう鼻をこすることもできなかった。
「おやすみ、暖乃」
最後に名前を呼ばれた気がするけど、夢だったかもしれない。レラ、私の名前知ってたんだ、と思いながら眠りについた。
いい加減イライラして、思わずガバッと起き上がる。時計を見ると、もう二十三時。いつもならとっくに夢の中にいる時間だ。
「どうしよう、明日朝早いのに」
そっ、と枕元のベルに手を伸ばす。
別に『呼ぶ=添い寝』とは限らないよね。ちょっと話し相手になってもらいたいだけだもん。
いや、でもワッカは危険かも。それにフミもちょっと……。あの三人の中で添い寝に反対したのはレラだけだ。てことはレラを呼んだ方がいいのかな? でも、また怒られたりするのかな? それはイヤかも。とすると、フミ? フミはちょっとズレてるけど優しいし、ちゃんとお願いしたら大丈夫かも?!
「よ、よし。フミを呼ぼう。それで、眠くなるまでちょっと話し相手になってもらおう」
三つ仲良く並んだベルの左端、黄色いリボンが結ばれたものを手に取り、一応夜だし、と控えめに鳴らす。そうしてから、ふと思った。
勝手に黄色をフミだと決めつけちゃったけど、本当に大丈夫だよね?
そんなことを考えていると、コンコン、と窓を叩く音が聞こえて来た。てっきりドアから来ると思ったけど、そういやトナカイ達の部屋はこの小屋の隣にある厩舎だったっけ。そうか、この時間はトナカイになってるのか、とカーテンと窓を開ける。
と。
「――わぁっ!?」
ぬぅ、と窓から首を突っ込み、ぶるる、と大きな角を震わせたのは、レラだった。
「あれ? レラ?」
嘘、黄色がレラだったの?! えーっ、そんなイメージなかったんだけど?!
「あれ? じゃない! 何だこんな時間に! お、俺は添い寝なんてしないからな! ま、まぁ、お前がどうしてもって言うんならしてやっても」
「添い寝してなんて言ってないじゃん」
「だったら何なんだよ。何で俺を呼んだんだ!」
「えっと、実は呼んだのはレラじゃなかったっていうか……」
「ハァ?!」
「う、嘘です! レラを呼んだの! えっと、ちょっと眠れなくなっちゃって、その、話し相手になってくれないかな、って」
危ない危ない。ここで正直にフミを呼んだなんて言ったら、またネチネチ言われそう。ていうか、そんなことで呼ぶなよって怒られそうでもあるけど。
「……仕方ないな」
てっきり「話し相手だと?!」と怒られるかと思いきや、意外にもため息混じりの優しい声が返って来た。
「窓開けっぱなしだと寒いから、中に入るぞ。俺が入ったらすぐ閉めろよ」
「う、うん。どうぞ」
そう言うと、ごつ、と窓枠に前脚を乗せ、ぴょん、と後ろ脚で地面を蹴る。跳び箱の抱え込み飛びみたいだ。それで、すと、と床に着地する瞬間に、パッと人の姿になった。だってトナカイのままじゃこの部屋は狭いから。あっ、もちろんちゃんと服は着てる。トナカイの毛皮というのが、まずそもそも衣服みたいなものだから、人の姿になる時はその毛皮部分を服に変えるんだって。
「とりあえず、お前はベッドに入れ。俺はここでいいから」
床に敷いた丸いラグの上にどかっと胡坐をかき、しっしと追い払うように手を振られ、ベッドへ誘導される。わかったよ、ともぞもぞもぐり込むと、「それで、何を話せばいいんだ」といつもの偉そうなレラだ。
「そうだなぁ。いままでで一番変わったプレゼントの話とか」
「わかった。話してやるからちゃんと目ぇつぶってろよ。そんで、眠くなったら寝ろ。聞き逃してもまた教えてやるから」
口調はいつものレラだったけど、思った以上にすんなりと話してくれて驚く。それに声色がちょっと優しくて、何だかくすぐったい。
「わかった」
大人しく目をつぶって、アドじいがこれまでに渡してきた色んなプレゼントの話を聞く。普段とは違う、子守唄みたいに優しい声だ。
もしかしたらレラを呼んで正解だったのかも、と思う。
ワッカの話は楽しいけど、面白すぎて眠れなくなりそうだし。
フミは優しいけどちょっとズレてるから、「その話じゃなくて!」って気になっちゃってやっぱり眠れなくなりそうだし。
私だって一応わかってる。レラは口が悪いだけで、優しいところがちゃんとあるって。
耳に届くレラの声がだんだん切れ切れになってきて、ふ、と意識が途切れる。ぷす、と軽く鼻が鳴って、慌てて起きた。やば、危うくいびきかくところだった! 寝るにしても、できればいびきとかはマジで勘弁して! 少しでも鼻の通りがよくなりますように、とごしごしこすったり、ぐいぐい揉んでみる。
「やめろやめろ。赤くなるぞ。鼻が赤いのはトナカイだけで十分だ」
まぁ、あれはそういう歌のやつだから俺らは赤くねぇけど、と薄く笑う。たぶん、トナカイジョークってやつだろう。
「でも、いびきかいたら笑うじゃん」
「笑わねぇよ」
「笑うじゃん。雷神様かと思ったって」
「思っただけだろ。笑ったのはワッカとフミだ。俺は笑ってない」
「そうだっけ?」
「俺は、笑ってない。だから気にすんな。もう寝ろ」
手を伸ばして、私の頭をなでる。いつもみたいに、髪の毛をぐちゃぐちゃにするような乱暴なやつじゃない。私の前髪の流れに沿って、そのまままぶたにまで触れるような、そんな、うんとうんと優しいなで方だ。
「明日お前は俺達のそりに乗って、明日萌町に行くんだ。それで、理玖君のプレゼントを確認して、それを渡す。絶対にうまくいく。大丈夫。だから寝ろ」
まるでおまじないみたいに、うまくいく、大丈夫、と何度もくり返して、優しくなでてくれる。だんだんと眠くなってきて、またもう一度鼻が、ぷす、と鳴ったけど、今度はもう鼻をこすることもできなかった。
「おやすみ、暖乃」
最後に名前を呼ばれた気がするけど、夢だったかもしれない。レラ、私の名前知ってたんだ、と思いながら眠りについた。
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