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1、毎日サンタ・月曜日営業所
第8話 明日に備えて早めに休もう!
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「まずまずだったな」
後片付けの仕事を終えたらしいレラが、ソファに座り、ふんぞり返って偉そうに言う。
「まずまずかどうかはわからないよ。私はただ『ルミ君』の言うとおりにしただけだもん」
「それが『まずまず』だって言ってるんだ」
「レラ、『まずまず』じゃないだろぉ。最高! 花ちゃんはさすがだよ、って言うところだからね、ここは!」
「ワッカってば、そんなに褒めてもなーんにも出ないからね」
そう言いつつも、でもやっぱり褒められれば嬉しいもので、ついついふわふわの髪をなでてしまう。ワッカはえへへと笑ってされるがままだ。人懐っこい大型犬みたい。いや、トナカイなんだけど。
「でもほんと、ルミ君さえいれば何とかなりそう。アドじいが言ってた通り、一から十までぜーんぶ指示してくれるんだね」
テーブルの上に置いてあるルミ君は、もちろん表情なんて変わらないんだけど、丸いお腹が、「任せろ」と胸を張っているようにさえ見える。何とも頼もしい。
「ルミ君はすごいんですよ。何せ、アードルフ様だけではなく、すべてのサンタクロースの経験がインプットされているんですから」
「えっ、アドじいだけじゃないの?! すごっ! 何、ルミ君ってめっちゃすごいじゃん! ていうか、これがあるなら誰でもサンタになれるんじゃ……」
そう言って、ワッカをなでていた手をルミ君に伸ばす。すごいとは思ってたけど、まさかそこまでだとは思わなかった。かなり見直したよ。明日もよろしくね。
「なれるんだよ、普通は。黙ってルミの言うこと聞いてりゃな」
「あとはまぁ、僕らのそりにビビらない肝っ玉とかぁ」
「それから、対象者がどんな人間でも私情を挟まず――その人のことが好きでも嫌いでも関係なく接することができる公平さが大事です」
「私、そりは平気だけど、その『公平さ』ってのは自信ないよ?」
「それはこれからですよ」
ぽん、と頭の上に手を乗せられて、ふわふわとなでられた。レラとは全然違う優しいなで方で、何だかちょっと眠たくなってくる。
ほわぁ、と大きなあくびをすると、「すげぇ。喉の奥まで見えるぞ」とレラが笑う。それにワッカが「ほんっとお前はデリカシーの欠片もないトナカイだな! そういうのは見えても黙ってるんだよ!」と怒り、フミがまぁまぁとたしなめる。
「明日は朝から忙しいですから、今日はもう休みましょうか」
「そうだな。おいチビ、寝坊すんなよ。明日は朝飯食ったらすぐに出発だからな」
「花ちゃん、頑張ろうね!」
三人に見送られ、私は自分の部屋へと向かった。扉を閉める直前にとんとんと肩を叩かれて振り向く。ワッカだ。
「ねぇ花ちゃん、もし緊張して眠れなくなったら、いつでも呼んでね?」
「呼んでって言われても、どうやって? 部屋まで行けばいいの?」
「ううん、枕元にベルが三つあったでしょ、あれの青いリボンがついてるやつを鳴らしてくれれば、僕がすぐに駆けつけるよ」
「わかった。青はワッカなんだね。でも、呼んだら何してくれるの? 子守唄でも歌ってくれるとか?」
「ううん、僕が添い寝してあげ――ぁ痛ったぁ! 何すんだよレラ!」
後ろからぽかりとやられたらしい、ワッカは頭を押さえながら、ギッとレラを睨みつけた。
「何すんだよじゃねぇ! 二人っきりで添い寝なんてダメに決まってるだろ!」
「何でだよぉ! 昔は枕並べて一緒に寝てたじゃん!」
「それはこいつがもっとガキの頃の話だろ!」
「えぇ~? 僕らからしてみたらまだまだ子どもじゃん」
「子ども……、だけども! そういうことじゃねぇんだよ!」
ぎゃあぎゃあと口論を始めた二人に、またもや「こーら!」とフミが割り込む。
「どうしてあなた達はすぐにケンカするんですか。ワッカ、レラの言うことも一理あります。レディはもう立派にレディなんですし、いくらトナカイとはいえ、異性と二人きりなんていけません」
「だよな!」
レラがフミの右肩をポンと叩いて、ワッカに向けて舌を出す。
「ですが、可愛いレディと添い寝をしたいワッカの気持ちもわかります」
「さすがフミ! 話がわかるぅ!」
今度はワッカが左肩に手を乗せて、レラに向かってイーッと歯を見せた。
そんな二人を交互に見つめてから、フミが、晴れやかな顔をして、ぱん、と両手を合わせる。
「というわけで、間を取って、客間に布団を敷いて昔のように仲良く四人で寝――」
「おやすみ。また明日」
全部聞かずに扉を閉める。
もう子どもじゃないんだし、皆でなんて寝られるかぁっ!
ていうか、どの辺が間を取ってるのよ!
「だいたいね、いまこんなに眠いんだから、緊張で眠れないなんてあるわけないじゃん」
そんなことを呟きながらベッドにもぐりこみ、ちら、と枕元に置かれた三つのベルを見る。それぞれ赤青黄色のリボンが結ばれていて、ワッカが青だとすると、たぶん赤がレラで黄色がフミだろうな、なんてことを考えた。うん、レラは俺様だから、なんか「俺様が赤に決まってるだろ!」とか言いそうだし。
どういう仕組みなのかはわからないけど、とにかくこれを鳴らしたら、その色に対応したトナカイが来てくれることになっているらしい。他の二人に確認したわけじゃないけど、きっとそう。
でもほんとにこれは使わないだろうな。だってこんなに眠いもん。眠い……ねむ……。
「アレっ!?」
嘘でしょ、何か眠気が一気になくなったんだけど?!
いやいやいやいや、さっきまでもうまぶた落ちかけてたじゃん! 何で!?
ま、まぁでもこんなのよくあることだよ。
遠足の前とか、運動会の前もそうだったしね。だけど目をつぶってじーっとしてればだんだん眠くなったもん。大丈夫、大丈夫。
そう信じて、ぎゅっと目をつぶる。
眠れない時は羊の数を数えるといい、なんてことも聞いたし、まぁ焦らず焦らず。
そう思っていたんだけど。
後片付けの仕事を終えたらしいレラが、ソファに座り、ふんぞり返って偉そうに言う。
「まずまずかどうかはわからないよ。私はただ『ルミ君』の言うとおりにしただけだもん」
「それが『まずまず』だって言ってるんだ」
「レラ、『まずまず』じゃないだろぉ。最高! 花ちゃんはさすがだよ、って言うところだからね、ここは!」
「ワッカってば、そんなに褒めてもなーんにも出ないからね」
そう言いつつも、でもやっぱり褒められれば嬉しいもので、ついついふわふわの髪をなでてしまう。ワッカはえへへと笑ってされるがままだ。人懐っこい大型犬みたい。いや、トナカイなんだけど。
「でもほんと、ルミ君さえいれば何とかなりそう。アドじいが言ってた通り、一から十までぜーんぶ指示してくれるんだね」
テーブルの上に置いてあるルミ君は、もちろん表情なんて変わらないんだけど、丸いお腹が、「任せろ」と胸を張っているようにさえ見える。何とも頼もしい。
「ルミ君はすごいんですよ。何せ、アードルフ様だけではなく、すべてのサンタクロースの経験がインプットされているんですから」
「えっ、アドじいだけじゃないの?! すごっ! 何、ルミ君ってめっちゃすごいじゃん! ていうか、これがあるなら誰でもサンタになれるんじゃ……」
そう言って、ワッカをなでていた手をルミ君に伸ばす。すごいとは思ってたけど、まさかそこまでだとは思わなかった。かなり見直したよ。明日もよろしくね。
「なれるんだよ、普通は。黙ってルミの言うこと聞いてりゃな」
「あとはまぁ、僕らのそりにビビらない肝っ玉とかぁ」
「それから、対象者がどんな人間でも私情を挟まず――その人のことが好きでも嫌いでも関係なく接することができる公平さが大事です」
「私、そりは平気だけど、その『公平さ』ってのは自信ないよ?」
「それはこれからですよ」
ぽん、と頭の上に手を乗せられて、ふわふわとなでられた。レラとは全然違う優しいなで方で、何だかちょっと眠たくなってくる。
ほわぁ、と大きなあくびをすると、「すげぇ。喉の奥まで見えるぞ」とレラが笑う。それにワッカが「ほんっとお前はデリカシーの欠片もないトナカイだな! そういうのは見えても黙ってるんだよ!」と怒り、フミがまぁまぁとたしなめる。
「明日は朝から忙しいですから、今日はもう休みましょうか」
「そうだな。おいチビ、寝坊すんなよ。明日は朝飯食ったらすぐに出発だからな」
「花ちゃん、頑張ろうね!」
三人に見送られ、私は自分の部屋へと向かった。扉を閉める直前にとんとんと肩を叩かれて振り向く。ワッカだ。
「ねぇ花ちゃん、もし緊張して眠れなくなったら、いつでも呼んでね?」
「呼んでって言われても、どうやって? 部屋まで行けばいいの?」
「ううん、枕元にベルが三つあったでしょ、あれの青いリボンがついてるやつを鳴らしてくれれば、僕がすぐに駆けつけるよ」
「わかった。青はワッカなんだね。でも、呼んだら何してくれるの? 子守唄でも歌ってくれるとか?」
「ううん、僕が添い寝してあげ――ぁ痛ったぁ! 何すんだよレラ!」
後ろからぽかりとやられたらしい、ワッカは頭を押さえながら、ギッとレラを睨みつけた。
「何すんだよじゃねぇ! 二人っきりで添い寝なんてダメに決まってるだろ!」
「何でだよぉ! 昔は枕並べて一緒に寝てたじゃん!」
「それはこいつがもっとガキの頃の話だろ!」
「えぇ~? 僕らからしてみたらまだまだ子どもじゃん」
「子ども……、だけども! そういうことじゃねぇんだよ!」
ぎゃあぎゃあと口論を始めた二人に、またもや「こーら!」とフミが割り込む。
「どうしてあなた達はすぐにケンカするんですか。ワッカ、レラの言うことも一理あります。レディはもう立派にレディなんですし、いくらトナカイとはいえ、異性と二人きりなんていけません」
「だよな!」
レラがフミの右肩をポンと叩いて、ワッカに向けて舌を出す。
「ですが、可愛いレディと添い寝をしたいワッカの気持ちもわかります」
「さすがフミ! 話がわかるぅ!」
今度はワッカが左肩に手を乗せて、レラに向かってイーッと歯を見せた。
そんな二人を交互に見つめてから、フミが、晴れやかな顔をして、ぱん、と両手を合わせる。
「というわけで、間を取って、客間に布団を敷いて昔のように仲良く四人で寝――」
「おやすみ。また明日」
全部聞かずに扉を閉める。
もう子どもじゃないんだし、皆でなんて寝られるかぁっ!
ていうか、どの辺が間を取ってるのよ!
「だいたいね、いまこんなに眠いんだから、緊張で眠れないなんてあるわけないじゃん」
そんなことを呟きながらベッドにもぐりこみ、ちら、と枕元に置かれた三つのベルを見る。それぞれ赤青黄色のリボンが結ばれていて、ワッカが青だとすると、たぶん赤がレラで黄色がフミだろうな、なんてことを考えた。うん、レラは俺様だから、なんか「俺様が赤に決まってるだろ!」とか言いそうだし。
どういう仕組みなのかはわからないけど、とにかくこれを鳴らしたら、その色に対応したトナカイが来てくれることになっているらしい。他の二人に確認したわけじゃないけど、きっとそう。
でもほんとにこれは使わないだろうな。だってこんなに眠いもん。眠い……ねむ……。
「アレっ!?」
嘘でしょ、何か眠気が一気になくなったんだけど?!
いやいやいやいや、さっきまでもうまぶた落ちかけてたじゃん! 何で!?
ま、まぁでもこんなのよくあることだよ。
遠足の前とか、運動会の前もそうだったしね。だけど目をつぶってじーっとしてればだんだん眠くなったもん。大丈夫、大丈夫。
そう信じて、ぎゅっと目をつぶる。
眠れない時は羊の数を数えるといい、なんてことも聞いたし、まぁ焦らず焦らず。
そう思っていたんだけど。
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