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1、毎日サンタ・月曜日営業所
第1話 普通な私の普通じゃないところ
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私の名前は神居岩暖乃。東京に住む、普通の中学二年生だ。
だけど、やっぱり普通じゃないところはある。何だ、あるんじゃん、って思ったかもしれないけど、ごめん、お願いだから最後まで聞いて。
私は、普通。普通の女子中学生。これはほんとにほんと。嘘じゃない。給食のプリンをかけてもいい。
それからパパだって普通の人。これもほんと。メガネをかけてて、クモが大の苦手で、すごく心配性で、それでちょっと頼りないけど、ママのことがすっごく好きな普通のパパ。
ママは――、うん、外国とのハーフだからなのか、ちょっと愛情表現がオーバーな感じはあるけど、でもそれだって別に変なことじゃないでしょ? いまどきママがハーフとか、そこまで珍しくもない。いつも明るくて、パパのことが大好きな、ちょっと天然気味のママ。
じゃあ何が普通じゃないかと言うと――、
「ねぇ暖乃。今年の冬休みもおじいちゃんのところに行くのよね?」
「うん、もちろん! だって、十四歳になったら、『仕事』を手伝わせてくれるって約束したんだもん」
「おじいちゃんに迷惑かけないようにな。それとあと、くれぐれも怪我をしないように。あっ、それからちゃんとあまり冷たいものばかりを食べないように。それからそれから――」
「もうパパは心配しすぎ!」
「だ、だって……」
しょん、と肩を落とすパパに「パパはそろそろ子離れした方がいいんじゃないかしら」と、ママが優しく背中を擦る。パパは「そんなぁ」と泣きそうな顔になっているけど、ママの言う通りだよ。たしかに私はまだ子どもだけど、そこまでベタベタされるのはちょっとね。
まだうじうじと「昔はパパ大好きって言ってくれたのに」だの何だのとしょげるパパをぼぅっと眺めていると、電話が鳴った。
「あっ、噂をすれば、ウッキじゃないかしら」
いつもこれくらいになったら確認の電話をくれるものね、とママが立ち上がる。
ちなみにこの『ウッキ』というのは、フィンランド語で『おじいちゃん』という意味だ。ママのパパ、つまり私のおじいちゃんはフィンランド人なのである。名前はアードルフ。私は『アドじい』って呼んでる。
「はい、神居岩です。あら、フミ? 今年も暖乃をお願いね。――え? ええ、うん。えっ、それ本当? 大丈夫なの? うん、うん。わかった。それじゃあ迎えはいつものところで、うん、わかった。それじゃよろしく伝えておいてね」
通話を終えたママが、受話器を持ったまま、こちらを見た。そして、私に向かってこう言った。
「暖乃、ウッキ、サンタ辞めちゃうかも」
「――はあぁ?!」
そう、私の普通じゃないところ、それは、おじいちゃんが『サンタクロース』という点だ。いやいや、本物本物。ほんとにほんとのサンタクロース。ちょっと(どころじゃないけど)ふっくらしてて、真っ白いふっさふさのおヒゲもあって、真っ赤なサンタスーツを着て、トナカイの引くそりに乗って空も飛ぶ。ほんとのほんとのサンタクロース。
ただ、みんなの想像している『サンタクロース』とは確実に違うやつだけど。だけど、とにかく本物のサンタクロースなのだ。
だけど、辞めちゃうかも、ってどういうこと!?
小さい頃から、長期休みの度にアドじいのところに行って、トナカイ達と遊んだり、空飛ぶそりに乗せてもらったりしてた。それで、私が十四歳になったら、仕事を手伝わせてくれるって約束をしていたのだ。
それなのに、どうして?!
アドじいに仕えているオストナカイのフミからの話によると、直接「辞めたい」と言ったわけではないらしい。ただ、最近何やら元気がなくて、食欲も落ちている。詳しいことはそっちに行った時に話してくれるみたいだけど、どうやら秋ごろにちょっとしたトラブルがあったんだって。それでもその時はまだ元気だったらしいんだけど、最近になって急に元気がなくなったのだとか。
「それでね、暖乃に力を貸してほしいって」
「私? 私に何かできるかなぁ」
「フミが言うにはね、たぶん色んなことがあったから、ちょっと気持ちが疲れちゃったんじゃないか、って。サンタ辞めちゃうかも、っていうのは、フミの早とちりだと思うわ、ママ。だから暖乃の元気をお裾分けするのよ」
「元気をお裾分け、かぁ。まぁそれくらいならできる、かな?」
「大丈夫だよ、暖乃なら。パパはいつも暖乃から元気をもらっているよ! ほら見て、パパのスマホの待ち受け。十四年分の暖乃の笑顔をコラージュしてみたんだ! もう見てるだけで元気が湧いてくるよ!」
「……うわぁ」
にっこにこの笑顔でパパが差し出してきたスマホには、画面を埋め尽くす、赤ちゃん時代から最近までの私の顔だ。あっぶない。あと一歩で「ごめん、これは引く」って口を滑らせちゃうところだった。
とにもかくにも行ってみるしかない。
アドじいがどうしてもどうしてもサンタを辞めたいって言うなら仕方ないけど、何か事情があるんだったら、私がなんとか力に……なれるかはわからないけど。でも、私はまだまだアドじいにサンタ辞めてほしくないよ。だって、アドじいいつも言ってるじゃんか、「サンタはね、むしろこの年になってからが本番だからね」って。サンタの寿命は人よりもずっとずっと長くて、アドじいのパパもおじいちゃんだって現役のサンタクロースだ。
待っててね、アドじい。
何があったか知らないけど、私が元気をお裾分けしに行くからね!
だけど、やっぱり普通じゃないところはある。何だ、あるんじゃん、って思ったかもしれないけど、ごめん、お願いだから最後まで聞いて。
私は、普通。普通の女子中学生。これはほんとにほんと。嘘じゃない。給食のプリンをかけてもいい。
それからパパだって普通の人。これもほんと。メガネをかけてて、クモが大の苦手で、すごく心配性で、それでちょっと頼りないけど、ママのことがすっごく好きな普通のパパ。
ママは――、うん、外国とのハーフだからなのか、ちょっと愛情表現がオーバーな感じはあるけど、でもそれだって別に変なことじゃないでしょ? いまどきママがハーフとか、そこまで珍しくもない。いつも明るくて、パパのことが大好きな、ちょっと天然気味のママ。
じゃあ何が普通じゃないかと言うと――、
「ねぇ暖乃。今年の冬休みもおじいちゃんのところに行くのよね?」
「うん、もちろん! だって、十四歳になったら、『仕事』を手伝わせてくれるって約束したんだもん」
「おじいちゃんに迷惑かけないようにな。それとあと、くれぐれも怪我をしないように。あっ、それからちゃんとあまり冷たいものばかりを食べないように。それからそれから――」
「もうパパは心配しすぎ!」
「だ、だって……」
しょん、と肩を落とすパパに「パパはそろそろ子離れした方がいいんじゃないかしら」と、ママが優しく背中を擦る。パパは「そんなぁ」と泣きそうな顔になっているけど、ママの言う通りだよ。たしかに私はまだ子どもだけど、そこまでベタベタされるのはちょっとね。
まだうじうじと「昔はパパ大好きって言ってくれたのに」だの何だのとしょげるパパをぼぅっと眺めていると、電話が鳴った。
「あっ、噂をすれば、ウッキじゃないかしら」
いつもこれくらいになったら確認の電話をくれるものね、とママが立ち上がる。
ちなみにこの『ウッキ』というのは、フィンランド語で『おじいちゃん』という意味だ。ママのパパ、つまり私のおじいちゃんはフィンランド人なのである。名前はアードルフ。私は『アドじい』って呼んでる。
「はい、神居岩です。あら、フミ? 今年も暖乃をお願いね。――え? ええ、うん。えっ、それ本当? 大丈夫なの? うん、うん。わかった。それじゃあ迎えはいつものところで、うん、わかった。それじゃよろしく伝えておいてね」
通話を終えたママが、受話器を持ったまま、こちらを見た。そして、私に向かってこう言った。
「暖乃、ウッキ、サンタ辞めちゃうかも」
「――はあぁ?!」
そう、私の普通じゃないところ、それは、おじいちゃんが『サンタクロース』という点だ。いやいや、本物本物。ほんとにほんとのサンタクロース。ちょっと(どころじゃないけど)ふっくらしてて、真っ白いふっさふさのおヒゲもあって、真っ赤なサンタスーツを着て、トナカイの引くそりに乗って空も飛ぶ。ほんとのほんとのサンタクロース。
ただ、みんなの想像している『サンタクロース』とは確実に違うやつだけど。だけど、とにかく本物のサンタクロースなのだ。
だけど、辞めちゃうかも、ってどういうこと!?
小さい頃から、長期休みの度にアドじいのところに行って、トナカイ達と遊んだり、空飛ぶそりに乗せてもらったりしてた。それで、私が十四歳になったら、仕事を手伝わせてくれるって約束をしていたのだ。
それなのに、どうして?!
アドじいに仕えているオストナカイのフミからの話によると、直接「辞めたい」と言ったわけではないらしい。ただ、最近何やら元気がなくて、食欲も落ちている。詳しいことはそっちに行った時に話してくれるみたいだけど、どうやら秋ごろにちょっとしたトラブルがあったんだって。それでもその時はまだ元気だったらしいんだけど、最近になって急に元気がなくなったのだとか。
「それでね、暖乃に力を貸してほしいって」
「私? 私に何かできるかなぁ」
「フミが言うにはね、たぶん色んなことがあったから、ちょっと気持ちが疲れちゃったんじゃないか、って。サンタ辞めちゃうかも、っていうのは、フミの早とちりだと思うわ、ママ。だから暖乃の元気をお裾分けするのよ」
「元気をお裾分け、かぁ。まぁそれくらいならできる、かな?」
「大丈夫だよ、暖乃なら。パパはいつも暖乃から元気をもらっているよ! ほら見て、パパのスマホの待ち受け。十四年分の暖乃の笑顔をコラージュしてみたんだ! もう見てるだけで元気が湧いてくるよ!」
「……うわぁ」
にっこにこの笑顔でパパが差し出してきたスマホには、画面を埋め尽くす、赤ちゃん時代から最近までの私の顔だ。あっぶない。あと一歩で「ごめん、これは引く」って口を滑らせちゃうところだった。
とにもかくにも行ってみるしかない。
アドじいがどうしてもどうしてもサンタを辞めたいって言うなら仕方ないけど、何か事情があるんだったら、私がなんとか力に……なれるかはわからないけど。でも、私はまだまだアドじいにサンタ辞めてほしくないよ。だって、アドじいいつも言ってるじゃんか、「サンタはね、むしろこの年になってからが本番だからね」って。サンタの寿命は人よりもずっとずっと長くて、アドじいのパパもおじいちゃんだって現役のサンタクロースだ。
待っててね、アドじい。
何があったか知らないけど、私が元気をお裾分けしに行くからね!
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