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童貞は否認する
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「くっそー、面白くねえ」
ちょっとトイレに。と、あの場を抜け出し、ションベンタイムなう。
佐古田の話ももちろんだが、最後の神崎さんの俺にだけ向けたアレ。まさか俺が童貞だって気付いてるんじゃあ……
いや、そんなことあるはずない。
童貞卒業は高二。付き合って二か月、親が居ぬ間の俺の部屋、初めて同士の拙いセックス。その後数回行為に及び、一年後に破局。大学時代に二人、社会人になってから二人と付き合い、経験人数は計五人。
一人目の彼女ヒトミは、ちょいポチャで可愛い系。二人目の彼女ノゾミは、スレンダー美女。三人目の彼女マナミは、おっぱいがでかい隣のお姉さん系。四人目アスミはショートヘアが似合う元気っ娘。五人目コノミは同窓会で再会した高校時代は地味眼鏡だったが卒業後あか抜けて綺麗になった系。
完璧だ。
見た目から馴れ初めからセックスの傾向から破局の経緯まで、歴代彼女の設定に抜かりは無い。小田島自伝として、いや小田島解体新書として一冊の本にできるほどに綿密である。何年前の何月何日に誰とどこにいって何をしたかを聞かれたとしても即答できるし、辻褄が合わないなんていうミスも犯しちゃいない。そこに疑う余地は一ミリもねえはずだ。
大丈夫。それらが全部嘘の設定だなんて、バレてる訳がない。
心を整えて、元いた個室へと戻る。
金曜の夜というだけあって個室のふすまは全て閉め切られ満員御礼だ。あっちこっちでワイワイガヤガヤ、賑やかしいったらない。
この個室ではどうやら女子会が開かれているらしい。彼氏がどーのだの、会社の勘違い男がキモいだの、いかにも女子らしい会話が俺のいる通路の方まで筒抜けだ。
やたら前髪を気にする会社の同僚がまじウザい誰もお前の髪型なんて気にしてねえよ、だってさ。ああ、わかるわかる、そういう勘違い男っているよなあ。
「まじでウザイよね小田島!」
え、小田島?
「わかるぅー。あいつさ、エレベーター乗った瞬間、絶対に前髪チェックしてんの。あの時の目がマジでキモくて無理ぃ」
「きゃっはっは!」
「あいつマジ調子こいてるよね。この前なんて私のこと急に下の名前で呼んできたし。お前になんて許してねぇよ勝手に呼ぶな超キモいんですけどぉ」
…だ、大丈夫大丈夫。
突然俺と同じ名前が聞こえたからビビったけど、小田島なんて特に珍しい名字じゃない。彼女らの言う小田島は俺じゃない見ず知らずの小田島だ。
会社の女子にキモいウザいって言われて、この小田島さん超可哀想だな。同じ小田島として心が痛むよ。
「私なんて今日、肩にポンってされたし!」
「ぎゃー!それセクハラ!神崎さんだったら是非お願いしたいとこだけど、小田島っしょ!?コンプラ案件、つーか訴えて慰謝料請求するレベルだし!」
……神崎さん、とな……?
「わかるわかる。あいつさ、神崎さんと一緒に仕事してるからって自分も神崎さんと同じランクだって勘違いしてるよね、絶対」
「んな訳ないじゃんねえ!顔見ろよ、顔!あの顔でよく神崎さんの隣に立てるな、って逆に感心してるわ」
「あいつさ、お洒落には気ぃ使ってんじゃん。つーか自分のことお洒落だと思ってんじゃん。スーツも小物も全部ハイブランドで統一して、背伸びしてんのバレバレ。小田島は青い看板のリクルートスーツでも着てろっつーの」
「しかもあの髪型!俳優のKANATO意識してんだって、ウケる~。KANATOだから格好いいんであって小田島だとただのマッシュルームだし」
「いや、ビートルズか」
「いや、松茸か」
「「「いや、ち〇こか」」」
きゃーはっはっはっは!と、ここ一番の高笑いが響く。
……ち、違う。この小田島は俺ではない……決して!
神崎っていう苗字だって日本には何万といるんだし、神崎と小田島がいる職場だってこの広い東京、何十何百とあるだろう。さして珍しいことじゃない。
大丈夫大丈夫。動悸息切れ脂汗がすごいけど、大丈夫大丈夫。
「岩崎ちゃんもとんでもないのに目ぇつけられて災難だったよね」
「でも良かったぁ!佐古田と付き合えて。よっ、幸せ者!」
同じ職場に神崎と小田島と岩崎と佐古田がいて、小田島にアプローチされてた岩崎が佐古田と付き合うことだって。この広い東京だ、そんな職場が何十何百あったっておかしくない……全然おかしくない……
わけ、あるかぁーーーーー!!
小上がりの下に並ぶパンプス見てすぐわかったわ!総務部の矢島と営業事務の加藤と森永だろ!?わかってたけどわかってないフリしてたんだよ!いや、認めたくなかったんだよバカヤロウ……
くっ、アイツら。
俺のいないところで好き勝手言いやがって。しかも俺をネタに大盛り上がりしやがって。
つーか俺、前髪なんて気にしてねえし。エレベーターでチェックなんてしてねし。ちゃんとトイレでチェックしてっし。大家のばーちゃんに数年前「あんた俳優のKANATOそっくりねぇ」って言われてから意識し出した、とか全然ねぇし。行きつけのトップスタイリストに「KANATOみたいにしてください」なんてお願いしたことねぇし!
…う、っぐ。やべぇ、泣きそうだ。
あいつらは魔女か。女子会と書いてサバトと読むのか。俺は哀れな生贄か。
ちょっとトイレに。と、あの場を抜け出し、ションベンタイムなう。
佐古田の話ももちろんだが、最後の神崎さんの俺にだけ向けたアレ。まさか俺が童貞だって気付いてるんじゃあ……
いや、そんなことあるはずない。
童貞卒業は高二。付き合って二か月、親が居ぬ間の俺の部屋、初めて同士の拙いセックス。その後数回行為に及び、一年後に破局。大学時代に二人、社会人になってから二人と付き合い、経験人数は計五人。
一人目の彼女ヒトミは、ちょいポチャで可愛い系。二人目の彼女ノゾミは、スレンダー美女。三人目の彼女マナミは、おっぱいがでかい隣のお姉さん系。四人目アスミはショートヘアが似合う元気っ娘。五人目コノミは同窓会で再会した高校時代は地味眼鏡だったが卒業後あか抜けて綺麗になった系。
完璧だ。
見た目から馴れ初めからセックスの傾向から破局の経緯まで、歴代彼女の設定に抜かりは無い。小田島自伝として、いや小田島解体新書として一冊の本にできるほどに綿密である。何年前の何月何日に誰とどこにいって何をしたかを聞かれたとしても即答できるし、辻褄が合わないなんていうミスも犯しちゃいない。そこに疑う余地は一ミリもねえはずだ。
大丈夫。それらが全部嘘の設定だなんて、バレてる訳がない。
心を整えて、元いた個室へと戻る。
金曜の夜というだけあって個室のふすまは全て閉め切られ満員御礼だ。あっちこっちでワイワイガヤガヤ、賑やかしいったらない。
この個室ではどうやら女子会が開かれているらしい。彼氏がどーのだの、会社の勘違い男がキモいだの、いかにも女子らしい会話が俺のいる通路の方まで筒抜けだ。
やたら前髪を気にする会社の同僚がまじウザい誰もお前の髪型なんて気にしてねえよ、だってさ。ああ、わかるわかる、そういう勘違い男っているよなあ。
「まじでウザイよね小田島!」
え、小田島?
「わかるぅー。あいつさ、エレベーター乗った瞬間、絶対に前髪チェックしてんの。あの時の目がマジでキモくて無理ぃ」
「きゃっはっは!」
「あいつマジ調子こいてるよね。この前なんて私のこと急に下の名前で呼んできたし。お前になんて許してねぇよ勝手に呼ぶな超キモいんですけどぉ」
…だ、大丈夫大丈夫。
突然俺と同じ名前が聞こえたからビビったけど、小田島なんて特に珍しい名字じゃない。彼女らの言う小田島は俺じゃない見ず知らずの小田島だ。
会社の女子にキモいウザいって言われて、この小田島さん超可哀想だな。同じ小田島として心が痛むよ。
「私なんて今日、肩にポンってされたし!」
「ぎゃー!それセクハラ!神崎さんだったら是非お願いしたいとこだけど、小田島っしょ!?コンプラ案件、つーか訴えて慰謝料請求するレベルだし!」
……神崎さん、とな……?
「わかるわかる。あいつさ、神崎さんと一緒に仕事してるからって自分も神崎さんと同じランクだって勘違いしてるよね、絶対」
「んな訳ないじゃんねえ!顔見ろよ、顔!あの顔でよく神崎さんの隣に立てるな、って逆に感心してるわ」
「あいつさ、お洒落には気ぃ使ってんじゃん。つーか自分のことお洒落だと思ってんじゃん。スーツも小物も全部ハイブランドで統一して、背伸びしてんのバレバレ。小田島は青い看板のリクルートスーツでも着てろっつーの」
「しかもあの髪型!俳優のKANATO意識してんだって、ウケる~。KANATOだから格好いいんであって小田島だとただのマッシュルームだし」
「いや、ビートルズか」
「いや、松茸か」
「「「いや、ち〇こか」」」
きゃーはっはっはっは!と、ここ一番の高笑いが響く。
……ち、違う。この小田島は俺ではない……決して!
神崎っていう苗字だって日本には何万といるんだし、神崎と小田島がいる職場だってこの広い東京、何十何百とあるだろう。さして珍しいことじゃない。
大丈夫大丈夫。動悸息切れ脂汗がすごいけど、大丈夫大丈夫。
「岩崎ちゃんもとんでもないのに目ぇつけられて災難だったよね」
「でも良かったぁ!佐古田と付き合えて。よっ、幸せ者!」
同じ職場に神崎と小田島と岩崎と佐古田がいて、小田島にアプローチされてた岩崎が佐古田と付き合うことだって。この広い東京だ、そんな職場が何十何百あったっておかしくない……全然おかしくない……
わけ、あるかぁーーーーー!!
小上がりの下に並ぶパンプス見てすぐわかったわ!総務部の矢島と営業事務の加藤と森永だろ!?わかってたけどわかってないフリしてたんだよ!いや、認めたくなかったんだよバカヤロウ……
くっ、アイツら。
俺のいないところで好き勝手言いやがって。しかも俺をネタに大盛り上がりしやがって。
つーか俺、前髪なんて気にしてねえし。エレベーターでチェックなんてしてねし。ちゃんとトイレでチェックしてっし。大家のばーちゃんに数年前「あんた俳優のKANATOそっくりねぇ」って言われてから意識し出した、とか全然ねぇし。行きつけのトップスタイリストに「KANATOみたいにしてください」なんてお願いしたことねぇし!
…う、っぐ。やべぇ、泣きそうだ。
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