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悠馬
始まりと終わり
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目の前に座るかすみは元カノだ。
三年前、俺から別れを告げた。
別れた理由は、ざっくり言うと好きじゃなくなったから。
そんなことを言うと軽薄に聞こえるだろうけど、それに至るまでの相応の理由がもちろんある。
かすみとは大学で二年、就職してから一年、計三年間付き合っていた。
俺の友達とかすみが同じサークルで、自然と顔見知りになり、自然と付き合うことになった。どちらが先に、とかは覚えていない。
かすみとはとにかく趣味が合った。
服、音楽、映画、漫画。それに、価値観。一緒にいて楽しかったし、居心地が良かった。気を使い合うこともなく、自然体でいられた。
――初めの内は。
いつからだっただろう、かすみの存在を重く感じ始めたのは。
その片鱗は付き合い始めた当初からあったのだと思う。その時の俺が気にならなかっただけで、多分、かすみは初めから何も変わっていない。でも、付き合っていくうちにそれが気になる様になり、最終的に耐えられなくなった。変わったのはやはり、俺の気持ちだ。悪いのはかすみではなく、俺。
一言で言うと、かすみは束縛が強かった。
毎日メールをするのは当たり前。既読スルーなんてもっての外。どこかへ行くときは必ず事前に言わないと追及され、言わなかったらなぜ教えてくれないのかと不機嫌になり、有る事無い事を疑われる始末。そんな事実はないと否定したところで完全には信じてくれず、身の潔白を訴え表面上納得して収拾がついたと思っても、結局些細なことがきっかけで何度も何度も同じことが繰り返された。
初めは別に良かった。
浮気はもちろん俺にやましい所なんて一つもないのだから。どこへ行ったとしつこく聞かれようと、誰と遊んだ、今日の飲み会には誰が来たとしつこく問い詰められようと、あった真実を淡々と説明するだけ。それでかすみの不穏に揺らぐ心が落ち着くなら、スマホのメッセージ履歴を見せるのだって厭わなかった。実際に、かすみがどうしようもなく不安定な時はそうしていた。
そういったかすみの一面はごく一部であり、その他を占める絶対的多数を俺は好ましく思っていた。かすみのその部分を面倒臭いと思いつつも、俺の事を好きでいてくれるからこそだと思えば我慢できたし、その時以外のかすみと過ごす時間はとても居心地が良く、楽しかった。
普通に、一人の女性としてかすみが好きだった。
卒業が近付くにつれ、就活、卒論に追われ、俺の時間的精神的余裕がなくなってきてからだ。少しずつ、本当に少しずつ、かすみと一緒にいることに疲れを感じ始めたのは。一人でいる時間が楽だと思い始めたのは。
互いに就職して、今までとは全く違う新しい環境に身を置くようになり、それがより顕著になる。俺だけじゃなく、かすみも相当余裕をなくしていたと思う。
仕事や人間関係のストレスが、形を変えて俺にぶつけられるようになり、俺にもそれを受け止める余裕なんてものはなくて、自然と関係はぎくしゃくと、少しずつ、でも確実に冷え込んでいった。
いや、違うか。冷えていったのは俺のかすみに対する気持ちで、その結果、俺のかすみに対する態度が淡々としたものになったのだ。
かすみが不満を俺にぶつける。俺がそれを適当にあしらう。かすみがそんな俺の態度に更に苛立ちを募らせる。俺はそれも受け流す。最悪、黙る。
俺も疲れてるのだと言えば、そうじゃない、私のことが好きじゃないからだと言われ。私のことが好きならこんな態度は取らない、私の方ばかり好きで辛い、悠馬はいつも仕事を優先して私のことなんてどうでもいいと思ってる。そんなことばかりツラツラと言われる日々が続いた。自然、笑顔はなくなる。かすみに何か言われるのが嫌で、反論することも説得することもなくなり、会うこと自体億劫になっていった。
結局、俺は逃げた。
かすみの想いを受け止めることから、正面から向き合うことから。かすみを好きでいようとすることから。
かすみと一緒にいる未来を、諦めた。
その結論を俺が口にした時、意外にもかすみはすんなりと受け入れた。「わかった」とだけ言い、後は何も言わなかった。でもその言葉とは裏腹に、かすみは身体を震わせ、途切れることなく涙を流し、怒りを滲ませ、そして絶望していた。
そんなかすみを一人残して、俺はかすみの部屋から去った。それが俺達の終わり、最後のシーン。
三年前、俺から別れを告げた。
別れた理由は、ざっくり言うと好きじゃなくなったから。
そんなことを言うと軽薄に聞こえるだろうけど、それに至るまでの相応の理由がもちろんある。
かすみとは大学で二年、就職してから一年、計三年間付き合っていた。
俺の友達とかすみが同じサークルで、自然と顔見知りになり、自然と付き合うことになった。どちらが先に、とかは覚えていない。
かすみとはとにかく趣味が合った。
服、音楽、映画、漫画。それに、価値観。一緒にいて楽しかったし、居心地が良かった。気を使い合うこともなく、自然体でいられた。
――初めの内は。
いつからだっただろう、かすみの存在を重く感じ始めたのは。
その片鱗は付き合い始めた当初からあったのだと思う。その時の俺が気にならなかっただけで、多分、かすみは初めから何も変わっていない。でも、付き合っていくうちにそれが気になる様になり、最終的に耐えられなくなった。変わったのはやはり、俺の気持ちだ。悪いのはかすみではなく、俺。
一言で言うと、かすみは束縛が強かった。
毎日メールをするのは当たり前。既読スルーなんてもっての外。どこかへ行くときは必ず事前に言わないと追及され、言わなかったらなぜ教えてくれないのかと不機嫌になり、有る事無い事を疑われる始末。そんな事実はないと否定したところで完全には信じてくれず、身の潔白を訴え表面上納得して収拾がついたと思っても、結局些細なことがきっかけで何度も何度も同じことが繰り返された。
初めは別に良かった。
浮気はもちろん俺にやましい所なんて一つもないのだから。どこへ行ったとしつこく聞かれようと、誰と遊んだ、今日の飲み会には誰が来たとしつこく問い詰められようと、あった真実を淡々と説明するだけ。それでかすみの不穏に揺らぐ心が落ち着くなら、スマホのメッセージ履歴を見せるのだって厭わなかった。実際に、かすみがどうしようもなく不安定な時はそうしていた。
そういったかすみの一面はごく一部であり、その他を占める絶対的多数を俺は好ましく思っていた。かすみのその部分を面倒臭いと思いつつも、俺の事を好きでいてくれるからこそだと思えば我慢できたし、その時以外のかすみと過ごす時間はとても居心地が良く、楽しかった。
普通に、一人の女性としてかすみが好きだった。
卒業が近付くにつれ、就活、卒論に追われ、俺の時間的精神的余裕がなくなってきてからだ。少しずつ、本当に少しずつ、かすみと一緒にいることに疲れを感じ始めたのは。一人でいる時間が楽だと思い始めたのは。
互いに就職して、今までとは全く違う新しい環境に身を置くようになり、それがより顕著になる。俺だけじゃなく、かすみも相当余裕をなくしていたと思う。
仕事や人間関係のストレスが、形を変えて俺にぶつけられるようになり、俺にもそれを受け止める余裕なんてものはなくて、自然と関係はぎくしゃくと、少しずつ、でも確実に冷え込んでいった。
いや、違うか。冷えていったのは俺のかすみに対する気持ちで、その結果、俺のかすみに対する態度が淡々としたものになったのだ。
かすみが不満を俺にぶつける。俺がそれを適当にあしらう。かすみがそんな俺の態度に更に苛立ちを募らせる。俺はそれも受け流す。最悪、黙る。
俺も疲れてるのだと言えば、そうじゃない、私のことが好きじゃないからだと言われ。私のことが好きならこんな態度は取らない、私の方ばかり好きで辛い、悠馬はいつも仕事を優先して私のことなんてどうでもいいと思ってる。そんなことばかりツラツラと言われる日々が続いた。自然、笑顔はなくなる。かすみに何か言われるのが嫌で、反論することも説得することもなくなり、会うこと自体億劫になっていった。
結局、俺は逃げた。
かすみの想いを受け止めることから、正面から向き合うことから。かすみを好きでいようとすることから。
かすみと一緒にいる未来を、諦めた。
その結論を俺が口にした時、意外にもかすみはすんなりと受け入れた。「わかった」とだけ言い、後は何も言わなかった。でもその言葉とは裏腹に、かすみは身体を震わせ、途切れることなく涙を流し、怒りを滲ませ、そして絶望していた。
そんなかすみを一人残して、俺はかすみの部屋から去った。それが俺達の終わり、最後のシーン。
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